第2話

-2495年6月30日-


無機質な電灯の灯る地下基地の室内は、今が昼間であるということを忘れさせる


コリィ大尉が中佐に呼ばれ、司令室で待機していると、


「失礼します!」


威勢のいい声が扉越しに聞こえる


「入れ」


司令が声をかけると、若い士官が二人、部屋へと入る


「二人には、G3のセンチネルの受け取りに同行してもらう」


中佐はコリィ大尉へ告げた


彼は二人の若い士官を横目に視線を送る


「ゲオルク・シェンカー中尉であります!」


短髪の金髪碧目、長身の体格のいい男が溌剌とした声で述べた


「ブルーノ・デーン中尉であります」


もう一方の黒髪でやや細身の男は、落ち着きのある硬質な声で述べた


「よろしく」


コリィがゲオルクに手を差し出すと


「はっ!」


と礼をし、両手で握手をした


ブルーノ中尉にも同じく手を差し出し、彼は淑やかに姿勢をやや傾けて大尉の手を包んだ


「3日後受領に向かってもらう。彼らのゼクト改二機が護衛につく。受領後は近辺で行動中の、オリュンポス基地所属、戦艦アステルトと合流しろ。手は回してある。頼んだぞ。」


グリムのその声をコリィは、


「はっ!」


と、しかと受け止めた


二人の目には、無言の信頼と、帰還を確信する思いが宿っていた


___________


ハンガー内、大尉がひとり機体を眺めていると、コクピットを解放してシートに座る、ブルーノ中尉を目にした


「中尉」


声をかけると、


「はっ、大尉殿」


とこちらに気づいた中尉が返答した


「新型の調子はどうかな?」


と問うコリィに、


「はっ、順調であります。」


と淡々と答えた


このまま話すのも失礼だと思ったのか、中尉がコクピットから降り、ゴンドラに乗ってハンガーへと戻り、大尉の隣へ来た


「中尉は、なぜこの計画に参加したんだ?」


大尉のその質問に、中尉は少し俯いてから、語り始めた


「私は3人兄弟の長男で、下にまだ幼い弟と妹がいるんです。しかし、昨今の政策の影響で、生活が厳しく、このままでは二人にまともな教育を、受けさせられません。」


彼の目は、どこか悲しげだった


「なら、このまま君が軍で稼いだ方がいいんじゃないかな」


コリィの言葉に、ブルーノは静かにため息をついて、


「.......反抗ですよ。そんなくだらないものです。今まで散々、この星を疎かにしてきた政府への」


と話した


その声には、そんな自分への呆れと、微かな怒りがこもっているように、大尉の目には映った


下を俯き、機体に目を向けながら、


「それは、みんな同じだよ。」


「.......だから、俺たちみたいに力のあるものが、そういう不満を受け止めて、民衆の意思を示さなきゃいけない。」


彼は物憂い気に言った


「......そうですね。」


少し置いて、その言葉に運命を確信したように、中尉は返答した


その運命をいざ知らず、新型機はハンガー内で輝きを放ち、雄々しく立っていた


受領前夜、地上では冷たい風が吹き荒れる夜、コリィは自室でひとり、グリムの言葉を思い出す


『月面での連合軍の活動が活発になっているらしい。受領後、離脱するときには注意しろ。一度捕捉されたら恐らく戦闘は避けられないからな。』


なぜ今このタイミングで?


情報が漏れているのか?


ExA側には一切の情報を与えていないはずだ


彼の頭には多数の疑問が浮かぶ


いや、そうじゃない、情報が漏れている前提で動くべきだ、とコリィは肝に銘じた


『政府は火星政策の大幅な転換により得られる経済効果は30%増加する見込みであるとの発表を.......』


テレビの音声を耳にし、顰めっ面で彼はテレビのリモコンを叩きつけるように消した

毎日のようにテレビから流れるニュースさえ、今は妙に耳障りで癪だった


全館空調で室内には伝わらないはずのこの夜の寒さが、どこかピリついた緊張感をもたらしていた


月面、ExAインテグラル工廠


ハンガーでは整備員が引き渡し準備に向けて、機体のチェックを行う中、それを見つめる一人の背広姿の男がいた


「常務、ようこそおいでくださいました。」


社員が深く礼をすると、


「自ら目撃しておきたいものでね。歴史に刻まれる瞬間というものは」


と述べた


「常務、月面都市コートランドもAMS部隊、艦隊共に配置完了、準備は万全とのことです。」


秘書の男が報告する


「この好機だ、連合も静観ってわけにはいかないはずさ。うちとしては儲かりゃどっちでもいい話だがね。」


何かの始まりを予感しているかのように、彼の口元はにやけていた


「商売のチャンスは、逃しちゃあいけないな。」


G3を見上げると、常務は帽子を深く被ってハンガーから秘書と共に去っていった


ハンガーには、整備員の声と作業音、そして無機質な匂いだけが残った

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