第3話 デート

 2日目の朝、僕はすぐに会社に電話を入れた。


「ごめんなさい、1週間後に太陽が滅ぶのを防ぐために、今週いっぱいはお休みをいただきます」


 電話の奥から課長の困惑した声が聞こえた。それはそうだろう、僕だってあんな電話を受けたら困惑してしまう。


 課長の声を無視して電話を切ると、僕は当然のように朝ごはんの支度をする銀髪の女性を見た。


 エプロンをかけて楽しそうな様子で包丁を手に取り野菜や肉を捌いたかと思えば、見慣れない調味料で味付けをして炒めたり煮込んだり。


 ちなみに、僕は料理をしない人間だからうちには簡単な調理器具しかない。調味料は塩と味噌とソースだけ。食材は冷凍食品しかなかったはずだ。


 なのに、明星さんはどこから調達したのか、新鮮そうな食材とさまざまな調味料をキッチンに並べていた。


 やがて出来上がり、テーブルに並べられた今朝の朝食は、生春巻きと……名前がわからない料理が3品。それと豆乳の鶏肉のスープ。またどこかの国の料理をランダムに持ってきたのだろう。


 料理を並べるとニコリと微笑んで僕の横に座り、「さあ、召し上がってください」と箸を渡してきた。しかし、テーブルに並んだ料理は一人分。


 昨日もそうだったが、明星さんの分は考慮されていないように見える。


「明星さんは食べないんですか?」


「私は、1週間程度なら食事を必要としません。食べられないわけではありませんが」


「でも、地球の押し掛け妻は夫とご飯を食べるものです」


「あら……それなら、いただきますね」


 自分で言っといてなんだけどそれで良いのか。


 明星さんは僕の対面に座ると指先から光を放ち、テーブルの真ん中に僕と明星さんを隔てる形で、半透明な壁を形成した。壁はガラスのようにテーブルの上の料理を映している。


 壁がスッと消えたかと思うと、反射して映っていた料理が現実に出現していた。行きすぎた化学は魔法と変わらないと言うが、本当のことらしい。


「「いただきます」」


 2人で手を合わせ、料理を食べ始める。昨日と同じで非常に美味だ。しかも目の前には綺麗な女性。押し掛け妻か。なるほど悪くない。


「「ごちそうさまでした」」


 朝ごはんを食べ終えた僕は、早速出かける支度をした。


「どこかにお出かけですか?」


「ええ、あかりさんも一緒に行きますよ。まずは地球の服を買いに行きましょう」


「服を買う必要はありません。この服を光学処理して映像資料にあった服を再現できるようにしてあります」


「押し掛け妻の映像資料なのだとしたら、なおさらそれを着てはダメです。ほら、買いに行きますよ」


 明星さんは、少し残念そうに眉をひそめた。正直、僕自身も少し残念に思っている。なぜならその映像資料の服装を再現したならば、ろくでもない服装である可能性が高いから。


「その映像資料の服装は、もしも1週間後に僕が生きていたら見せてください」


「あら、約束というものですね。分かりました」


  ***


 それから5日間、僕は明星さんをいろいろな場所に連れ出した。


 近所の洋服屋さんから始まり、スーパー、レストラン、公園、神社、電車、水族館、動物園、科学館……とにかくきろいろな場所を巡り、人類存亡のヒントを探した。


 ちなみに映画も見たが、作中で超文明同士が行った壮大な星間戦争の描写を、明星さんは「どんぐりの背比べ」と言った。本物の超文明は言うことが違う。


 そして、今は6日目の土曜日の夕方。明日までに何もできなければ、僕は移住を選ぶしかなくなってしまうだろう。


「正吾さん、今度はどこにデートに行くんですか?」


 明星さんは、いつの間にか一緒に出かける事をデートというようになっていた。これについて否定するつもりはない。僕も、デートとして結構楽しんでいるからだ。


「次は……」


 どこに行こうか。近所で巡れるところは巡り尽くした。電車でどこかに行くと移動時間がバカにならない。


 その時、なんとなく目を向けた先に、ゲームセンターを見つけた。デート先としては、まあ悪くないだろう。


「行きましょうか、明星さん」


 入り口の自動扉が開いた瞬間、さまざまな遊戯台や店内BGMが耳にぶつかり、外の喧騒が一斉に遠ざかる。


「ふふ、とってもうるさい場所。これじゃあまともに会話できないですね」


「それが良いんですよ。顔を近づけなくちゃ会話もできないから、この距離がいいんです」


「会話が困難な事に有用性を見出すなんて、地球人は理解に苦しみます」


 クレーンゲーム、シューティングゲーム、コインゲーム……遊ぶたびに、明星さんは少し納得のいかないといった顔をしていた。


「つまらないですか?」


「いえ、とても楽しいのですけど……これらは全て、成功体験を求めるもののはずなのに、失敗する事が前提のデザインされているように見えます。物事は全てが成功してこそなのに」


「それは……楽しめてるなら大成功ですね。そのためのゲームなので」


「あら、そういうのもあるのですね」


 それからしばらく適当に遊んで、僕たちは帰路に着いた。


 太陽を壊されずに済む何かは、まだ見つかっていない。

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