第2話 太陽の使い道

 明星さんが言うには、今現在彼女の母星の文明は、他の惑星文明と戦争中であるという。


 戦争は長期化するにつれて他の文明を巻き込み、滅ぼし、そして更に移動しながら争いを続けている。そこで、明星さん側の文明は長期化する戦争を終わらせようと、切り札を投入する事にした。


 恒星砲。太陽に過負荷をかけて意図的に超新星爆発を発生させ、その際発生する強大なエネルギーに指向性を持たせて撃ち出す兵器。難しい話は僕にはわからなかったが、簡単に言うと太陽を爆発させて敵を殲滅する道具、だそうだ。


 それを使用した際、地球は射線上に入ってしまうため一瞬で蒸発してしまうのだという。仮に地球が残ったとしても、太陽がなくなれば人類に生存の手段はない。


 そこで、人道的措置として、地球人から無作為に選ばれた僕に、人類を残すか、太陽や地球と運命を共にするか。聞きに来たという。


「そうですかぁ……」


 顔を手で覆い、天井を仰ぎ見る。遠すぎる天体同士の戦争。巻き込まれる太陽と、地球と人類。それと僕。


 選択肢は、滅亡か、移住。もしくは地球文明の有益性の証明。滅亡という選択肢は無い。理想は有益性の証明か。


「あの……地球文明の有益性を証明できたら、太陽を残してもらえるんですか?」


「はい、残します。ですがそれは不可能でしょう。地球は資源も少なく、文明レベルは我々からしたら原始人レベル。人類は労働力にするには力も弱い」


 そうすると実質移住一択だ。しかし、代わりに用意される場所は環境や大きさは地球に近い惑星ではあるものの、海と大陸の割合や生物の生態系が地球と異なる上に、すでに別の異星人が住み着いているという。


「そんなの、地球人が共生できるわけがない……」


 地球人は侵略と乗っ取りが大好きだということは歴史が物語っている。絶対に先住民と諍いを起こす。また、同じ大陸に上陸した地球人同士で内輪揉めを始めて、勝手に自滅することも同時に想像できてしまう。


 どこまで手厚く整備されたところで、人間は地球以外では生きられないだろう。


「地球時間で1週間後。来週月曜日の午前0時に、太陽は恒星砲のエネルギー源になります。それまでに人類の道を決めてください」


「1週間!? 短くないですか!?」


「恒星砲はもう既に発射準備段階に入っています。準備完了は1週間後。余程のことがない限り、このまま発射されます」


「今更ですけど、明星さんが異星人だっていうところも含めて、全部冗談だっていうのは……?」


「無いですね。異星人であると、証明して見せましょうか?」


 明星さんはそう言って、手先に光を集め始めた。光は形を持ち、丸いフォルムの銃のような物体がそこに現れた。手に握られたそれは漫画に出てくる光線銃のようで、思わず身構えてしまう。


「そう身構えなくても大丈夫ですよ。これは変換器であって殺傷兵器ではありません。生き物には撃つことができないようになっているんです」


 銃から光が伸びる。光は意志を持ったようにウネウネと伸び、先ほど食事をした時に口を拭いたティッシュを絡め取ると、すっぽりと光で包み込んだ。


 やがて少しずつ光が細く薄くなっていくと、そこに残されたのは先ほどまでのティッシュの紙ではなく、金色の薄い金属がくしゃくしゃに丸められた塊が残されていた。


「う、嘘これ……え、金……?」


 手に持つと、一枚のティッシュにはありえないずっしりとした重みを感じる。感触は柔らかく、グニグニと曲げることができた


「この変換器は、どんな物質でも自由に別の物質に変換することが可能です。地球においては、錬金術という学問の到達点になります」


 説明しながら得意顔の明星さんは、ニコリと僕の顔を見て「信じていただけましたか?」と続けた。


 手品でも地球の技術でも説明できない一連の現象を見せつけられた僕は、彼女が異星人であることを疑う事ができない。気がついたら、こくこくと首を縦に振っていた。


 そして同時に、1週間後にこの地球が終わるかもしれないという冗談みたいな話が、いよいよ現実味を持ってしまった。


「急に顔色が悪くなりましたね」


「はは……なんか……急に太陽がなくなると言われたのは想像ができないですけど、とりあえず死ぬのかって思うと……」


「あら、それは大変。でも安心してください。気がついたら地球ごと蒸発していますから、苦しみはありませんよ」


 僕の顔色を悪くした張本人は、涼しい顔で、驚いたように眉を上げた。その様子はどこか楽しそうでもあり、しかし本当になんとも思ってそうでもあり、僕にはまだ、その表情を読み取ることはできないのだった。


「決定する時間は、あと6日と4時間以上もあります。ゆっくり考えて決めてください。それまでの間は、私は正吾さんのお側にいますので」


 そう言うと、明星さんは僕の横に膝を抱えて座った。独り身には少し、距離が近すぎてどきりとしてしまう。


「ど、どうしてそうなるんですか」


「地球の男性は押し掛け妻を好むものと。映像記録にたくさんありましたので」


「それは……参考にしないでください。僕の想像が正しければ地球人の生態を写した映像ではありませんので」


「あら」


 やっぱり、この地球を少しだけ楽しんでいるかもしれない。

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