書けない

――――――――――


 ”今、どこいるの?”

 ガラケーに打ち込み送信すると、少女は白い息をはいた。


 ルーズソックスを履いた女子高生たち、「時間」の戦士の人形を持った男の子、「丘から見える月」を連想させる曲を口ずさむ主婦……

 クリスマスの夜。少女の前を通る人々は皆、笑顔だった。


「女の子を待たせるなんて……」


 そう呟いていると、手元からアイドルの着メロが鳴り出した。


『おっはー! 今起きた。そっちすぐに向かうから』

「もうっ! 寒いから早く来なさいよ!」


――――――――――



 そこまで執筆し、福崎晃ふくざき ひかるは机に突っ伏した。


(ダメだ、こんなの。調べて書きましたよー感、満載の文章だ……)


 25年以上前の情景は、文字にうまく表せなかった。

 当時、福崎はベストセラー作家として人気を得ていた頃だったのだが。

 

「先生ー? 原稿まだですかー?」

「なぁ浅代。時代の変更はダメか」


 〇〇出版の編集者・浅代三奈あさよ みなの呼びかけに、逃げの質問で返す。

 浅代は封筒を取り出し、彼宛の手紙を見せながら答えた。


「ダメです。『2000年にありそうな恋愛小説を書いてほしい』って福崎先生のファン歴30年の方からお願いされたんですから」


 と言われても書けないのは書けない。

 すると福崎は立ち上がり、本当の心の内を浅代に告げたのだった。


「あのな、俺が売れた年だからって、その時代の執筆は絶対に無理なんだよ」

「なんでですか? 先生、いろいろ覚えてるはずなのに……」

「いいか? 今これを執筆している、俺のことを作者とする」


 原稿を指さしながら、福崎は話を続ける。



その内容は、わたしにとって都合の悪いものだった。



「2000年の文章が書けないのは作者の問題ではない。作者の作者、に問題がある」

「……へ?」

「そいつはまだ、2000年には生まれていないんだ」

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