第8話 突入
「ねえラセツ! さっきの技もう一度見せてよ! こう、風で分身に見えるやつ!」
「……わしをおぬしの師ではないぞ」
櫓へ向かう最中、またもや傭兵の待ち伏せがあり、振り払って進んでいく。
ミツキはラセツの剣技に興味を持ち、ずっとこの調子である。
「なら師匠になってよ。"黒麒麟"に宿ってるんだからいつも一緒にいるようなものでしょ」
そう言うと彼は立ち止まり、声を低くする。
「……そうとは限らない」
「? ラセツ?」
「此度はおぬしに協力しているだけだ。今後も近くにいられるとは限らぬ」
彼の真剣な物言いに、ミツキは気になる点があったが、深くは追及しないでいた。
「……教えてくれないならいいよ、勝手に真似するから」
「……」
二人の足音と風の音だけが響く。かなり進んだが櫓はまだなのか、焦燥感を覚える。そう考えていると、竹林の奥から人の話し声が聞こえるようになった。
「ここが櫓のようだな」
彼は立ち止まり、姿勢を低くする。
「ふむ、大きいな。天守のようだ」
石垣の上にそびえ立つそれは、まさに堅牢な要塞。
櫓は月光に照らされ、白壁が青白く輝いていた。瓦屋根に絡まった布の端が風に揺れ、狭い窓から漏れる灯りが、獣の眼光のように思えた。
「ここに……ヒナ、サクヤ……!」
「あまり前に出るな、見張りが多い」
城門の前には傭兵たちが見張っており、厳重な警備だ。
「見つからずに済むのならいいが、そうはいかぬだろう。この場でわしが注意を引く。おぬしは隙を見て櫓内へ行け」
ラセツは"黒麒麟"を抜き、一呼吸置いた。
「それと、櫓内ではなるべく身を隠しながらいくといい。一騎当千の猛将であったとしても、逃げ場のない狭い空間、そして多勢に無勢では苦戦を強いられるだろう」
そして、サクヤという人質もいる。触れたら簡単に壊れてしまう硝子細工のような少女だ。彼女の為にも安全な行動を取らなければならない。
「……わかった、気をつけて」
ラセツは返事の代わりに頷き、正面から歩いていく。
闖入者に気付いた傭兵たちは武器を構え、ラセツの前に立ちはだかる。
「おい止まれ! 何者だ!」
「わしはラセツ。カマンセーヌなる悪徳貴族を成敗しに参った! 我が"黒麒麟"の餌食になりたい者以外は下がれ!」
"黒麒麟"を構え、大気が震えるほどの黒い風を刀身に纏わせる。
「お、おい、なんかやばいぞ!」「下がれ下がれ下がれ!」
傭兵たちは異様な力に及び腰になり、後退していく。
「どけい!!」
"黒麒麟"を大きく振り抜き、強力な衝撃波を放つ。門は半壊し、傭兵たちは全員吹き飛んでいった。
隠れて見ていたミツキは規格外の力に呆然としてしまう。
「す、凄い……!」
「征け、ミツキ!」
「! ありがとう、無理しないで!」
すぐに気を取り直し、櫓内へ潜入する。ヒナタ、サクヤ……二人を必ず救ってみせる。
「ふっ、無理しないで、か……」
ラセツは鬼面の下に笑みを浮かべるが、すぐに気を引き締めた。櫓からの増援を前に再び”黒麒麟”を握り締める。
***
「な、なにっ!? 地震!?」
ラセツの放った衝撃は櫓の最上階まで響き、唐突な出来事にサクヤは当惑した。
「ど、どうしよう、くずれちゃうかも!」
「落ち着いてサクヤちゃん。地震じゃないわ」
ヒナタはサクヤの肩を抱き、安心させる。
(ミツキ……来たのね……)
なんとなく予感がした。ミツキなら来るだろうという、希望にも似た感覚が。
ヒナタは部屋を見渡す。見張りはダルシアンのみで、カマンセーヌはまだ帰ってきていない。これはチャンスだ。
「サクヤちゃん」
サクヤに顔を近づけ、小声で囁きかける。
「今なら逃げられる。あたしが彼を抑えるから、早く逃げて」
「で、でもヒナねぇは?」
「あたしは大丈夫。カマンセーヌの目的はあくまであたしの力だから、サクヤちゃんはミツキに──」
ドシン!! とまた衝撃が伝わってきた。激しい戦闘の余波を感じる。
このままではいずれ櫓が崩れてもおかしくはない、安全のうちにサクヤを逃さなければ……。
そう考えている間に、今まで黙っていたダルシアンが二人に近付いてきた。
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