第7話 贖罪の太陽

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 櫓の最上階には二人の少女と二人の男が居る。


 窓を背に、カマンセーヌは椅子に座り、机の上で液晶のディスプレイを展開し、じっと目を通している。


 ヒナタは机の前に立ち、弱さを見せぬよう勝ち気な様子で腕を組む。


 サクヤはヒナタのやや後ろに立ち、心許ない様子で部屋を見渡す。


 ダルシアンは部屋の扉の前に立ち、彼女たちを見張る。


 部屋は静寂が漂い、時計の音だけが響く。


 しばらくの沈黙のあと、カマンセーヌは納得したように頭を頷かせる。


「ヒナタさん。キミは素晴らしい力を持っているね。町でダルシアンを燃やした魔法だなんて片鱗だったわけか」


「……その液晶に書いてあるの?」


「そう、魔法を扱うモノなら誰だって習う技だ。任意の人物の情報が見れる魔法でね、力や魔力だけではなく、ある程度の過去を軽く見れるのさ」


「過去……?」


「過去と言っても昨日の献立とかじゃあない。強烈な思い出や、魔法に関することが記録されるんだ」


「魔法に関すること──……」


「キミは10年前、あの堕天使の娘を助けるために力を使ったそうだね」


「っ! それは──」


 ヒナタは目を見開き青ざめる。誰にも言わなかった秘密を知られるとは思ってもいなかった。


「『友を助けるため"反堕天使過激派"のアジトを魔法で壊滅』……まったく、7歳の少女がそこまでの力を持つとはね」


 カマンセーヌはため息をつきながら続ける。


「ボクの兄はこの"反堕天使過激派"のリーダー格だったんだよ。10年前、活動中に亡くなったんだが……堕天使の報復ではなく、キミに殺されていたなんて」


「ならっ! ミツキを攫ったのはあなたの──」


「そうだろうね。まさか10年前の因縁がここで知れるとは僥倖だ」


「……」


 ヒナタは押し黙る。自分が手を下した相手の兄弟と対面するとは、思ってもいなかった。


「さてヒナタさん、改めて聞こう。ボクの夢の為にキミの力を貸してほしい。ボクの地位や財力と、キミの桁外れの魔力を合わせれば出来ないことなんてないさ」


「……あたしはあなたの兄を殺しているのよ。そんな相手と手を組むなんて正気とは思えないわ」


「恨みがないとは言わないさ、ボクだって兄のことを慕っていたからね。けれどそれはそれだ。兄は過激すぎたんだよ、だから報いを受けた。ボクは兄とは違う、誰よりも出し抜いてみせる自信があるんだよ」


「そこまでして、あなたは何をするつもりなの」


「ボクがカマンセーヌ家の次期当主と認めて貰うためさ! そしてゆくゆくはアズガルド王国さえ手中に収めてみせる!」


 カマンセーヌは立ち上がり、両手を強く握りしめた。


「キミの力があれば最強の武力が手に入ったも同然。領土を広げていき、ひいてはこの大陸の天下だって取れるはずだ! どうかな、ボクと一緒に世界を変えよう!」


 ヒナタへ向け、握手を促してくる。ヒナタは目を伏せながら口を開く。


「あなたは身に余るほどの強大な力がどれほど恐ろしいかを知らない……それに、町を襲うような人とは組めない。だから断る」


「……強情だね。まぁいいさ、ゆっくりと考えるといい」


 カマンセーヌはゆっくりと部屋の扉まで移動する。


「キミのお友達が人質だってことを忘れないでくれよ。あぁダルシアン、キミは二人を見張っていてくれ、ボクは台所で腹ごしらえしてくる」


 そのまま扉を開け退室していく。部屋に残されたダルシアンとサクヤは、ヒナタに視線を向ける。


「ヒナねぇ……」


 サクヤはヒナタへ近づき、両手でヒナタの手を握る。


「うそだよね。ヒナねぇがそんな力を持っているとか、人を、ころした、とか……」


 震えながら、しかし懸命に声を絞り出し問いかける。


「サクヤちゃん……」


「だって、だってヒナねぇは優しくて、きれいで、しっかりしてるし……」


「本当よ、あたしは人殺しなの」


「!!」


 サクヤは今にも泣きそうになりながら、ヒナタの手を強く握りしめた。


「う、うそだよ! だってわたしは知らないもん! ミィが攫われたことだって!」


「10年前ならサクヤちゃんは4歳でしょ。覚えていなくて当然よ」


「っ! そもそも、"反堕天使過激派"ってなんなの! それにアジトとか────」


「昔は今よりも堕天使差別が酷かったの。今でも残ってるでしょ、"血の目"って呼び名とかね。過激派はそうやって民衆を扇動していたのよ」


 サクヤは手を離し、後退りする。納得はしても理解はできず、視線を下に向ける。


「……おかしいよ、そんなの」


「そうね、本当に」


「……本当にヒナねぇがその人たちを……」


「──ええ、殺したわ」


 そう告げると空気が凍ったように静かになった。姉のように慕っているヒナタが人殺しをしていたなんて信じられない。だが様子を見るに事実だそうだ。


 ヒナタは静かに目を閉じ、10年前のことを思い出す。


 ────ミツキの父親がなんとかアジトからミツキを助け出し、そのまま力尽きて光の粒子になって消えてしまった。その様子を離れて見ていたヒナタは恐怖と絶望が胸を締めつけ、制御できない炎が体から溢れ出た。


『あつっ……! なに、なんなの……!? とまって……とまって……!! やだ、やだよ!!』


 悲痛の叫びは炎に飲み込まれ、やがてアジトだったものは灰に染まっていた。


『あたしが、やったの……っ!? こんな力が……こんな、こんなっ……! あつい……こわい……っ!』


 この力を上手く使っていれば、ミツキの父親を死なせることもなかったと悔やんでいるが、自身の底知れぬ力に恐怖を感じ、震えることしかできなかった。


『ねえヒナ、お父さんがどこに行ったか知ってる?』


 『おじさまは……魔神器これだけのこして……。あたし、なにもできなくって……ごめん、ミツキちゃん。ごめんね……』


『……お父さん……』


 気を失っていたミツキは事の顛末を知らなかったので、ヒナタは力のことを隠すが、その日以降は贖罪の念が彼女を蝕み続けた────


 なにがあってもミツキを護る。あの日からそう決めている。カマンセーヌには協力できない。


「ミツキ……」


 誰にも聞こえない声で、小さく呟いた。

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