回復の星 ①

今日もいつも通り、爆音のレゲエから始まり、後部座席で何も言わず仕事に没頭していた。

四木から何度か問いかけがあったが、全て流した。


静寂の星を出て以降、死にたいと願う気持ちが強くなったからだ。

気を紛らわせなければならない。


人の話し声は入ってこない、耳栓をしたのもある。


今日で地球を出発してから二週間が経過した。

そうして、薬が入ったポーチをどこかへ落としたか忘れてきて抗うつ剤と睡眠薬がない状態でここ数日を過ごしている。


タバコだけが救いだった。

少しだけ気を紛らわせてくれた。


サービスエリアには極力入るように注文した。

四木はそれに応え、サービスエリアがあると全てに寄ってくれた。


喫煙所で四木は言った。

「次からサービスエリアチャンス二回に一度にさせてください、目的地に着く頃までに労働時間ぶっちぎっちゃうんで」

「申し訳ないです、わかりました」


そういうと四木は上唇タバコを差し出してきた。

「これでだいぶ気が紛れますよ、全部差し上げるので、それで我慢してください。薬なくてしんどいと思うんすけど」

受け取ると四木はさっさとジープに戻っていった。


上唇タバコがなかなかにいい、これはいいものをもらった。

少し気持ちが落ち着いてきたので、今日の目的地を聞いた。


「回復の星っすよ、ここも医療頑張ってる星っすね」

「そうですか」

「居心地いいと思いますよー、湯治みたいに何回も通ってるお客さんもいるくらいっす」

「心療内科か精神科はありますかね」

「あると思いますよー、だって、"回復"の星なんで」


ここまでで何回居心地のいい星、と言われてきただろうか。

どこも私にとってはたいした星ではなかった。


───星に入ると、確かに病院が多かった。

ホテル前で降ろされた私は、部屋に荷物を置き、デジタル保険証を用意して、処方箋をもらおうと街へ出た。


活気のある街で、看護師がキャッチをしていた。


その中で、『心療内科』と書かれた看板を持つ看護師をようやく見つけたため、看護師に声をかけ、すぐに病院へと入り診察が始まった。


デジタル保険証で私のカルテ、処方箋が即座に把握され、ささっと話して終わりだろうと思っていた。


すると、そうではなかった。

他に患者もいないから、という理由でカウンセリングが始まった。


まず一番はじめに、この3年間で一番辛かったことを聞かれ、エピソードが徐々に最近に近づいてくるにつれて涙が止まらなくなった。

嗚咽で喋ることができなかった。

医者は私の背中をさすり、

「今日はここまでにしましょう、たくさん話してくれてありがとうございました、私共の方で、もっとリラックスできるホテルをご案内します、追加料金は一切いりません。カウンセリング代として、500円だけ頂戴しますが」


私は泣きべそをかき、この薬なら即効性がある、と伝えられた薬に変更され、処方箋を受け取った。


薬を飲んだあとは驚くほどに気持ちが落ち着いた。あまりにも簡単で、少し怖いくらいに。

辛かったことも話せたし、共感して、頷いてくれて、私を否定しなかった。

思い返すと優しさに包まれていてまた泣きそうになった。


Hey Taxiのメッセージ機能で、四木に次の出発時刻を遅らせてもらうように連絡した。


返信は速く、かつ短く

「了解」

とだけ送られてきた。


変えてもらったホテルは、質素だがとても落ち着く空間だった。

観葉植物があり、温泉、朝食と夕食のサービスもついてきた。

リラックスするにはかなり向いている環境だった。


湯船に浸かりながら、考えた。

木星に行かなくても、ここで暮らせば、きっと生き続けることができるだろう。と。


しかし、念頭においていた、死にたいと願う脳の一部の切除はしたい、がどうしても頭をチラついてしまう。


明日の診察でまた話を聞いてもらおう。

湯船から上がり、回していた乾燥機の中から衣類を取り出し、カバンに詰め直した。

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