第7話

「んー、やっぱり狭いな」


 朝食のサラダ(不老不死の霊薬)を食べ終えた俺は、愛用のソロ用テントを見上げて呟いた。

 一人なら秘密基地感があって最高なのだが、二人で寝るとなると話は別だ。昨晩のような密着トラブルも起きかねない。


「よし、家を建てるか」

「賛成です! 拠点の拡充は重要ですね。では、王都から建築士の手配と、資材の運搬ルートの確保を……早くて三ヶ月計画でしょうか?」


 アリシアが真剣な顔でスケジュールの計算を始める。

 俺は首を横に振った。


「いや、俺が作るから。今から」

「へ?」

「昼飯までには終わらせるぞ」


 俺は軍手をはめると、斧も持たずに森へと向かった。


 ◇


 森に入って数分。

 地面がズズズ……と揺れ始めた。


「お、いい木材があるじゃないか」


 俺の目の前に現れたのは、樹齢数千年はありそうな巨木たちだ。

 ただし、その幹には人間のような不気味な『顔』が浮かび上がっており、枝は触手のように蠢いている。


 S級モンスター『エルダー・トレント』の群れだ。

 迷い込んだ人間を養分として吸い尽くす、森の処刑人である。


『グオオオオオオオ……ニンゲン……コロス……』


 トレントたちが殺意に満ちた咆哮を上げる。

 だが、俺にはそれが「どうぞ使ってください」という歓迎の声に聞こえた。


「枝払いの手間が省けて助かるよ」


 俺はニッコリと笑って、一番デカい個体の幹に手を置いた。


 パキッ。

 俺の指が、鋼鉄より硬い樹皮にバターのようにめり込む。


『……ッ!?』


 トレントの『顔』が、驚愕と恐怖に歪んだ。

 コイツ、今、本能で悟ったな?

 逆らえば「薪(死)」、従えば「建材(生)」だと。


『ハ、ハイッ! 喜ンデ柱ニナラセテ頂キマスッ!!』


 トレントたちは一斉に姿勢を正すと、自ら葉っぱを振るい落とし、ツルツルの角材のようなポーズで整列した。


「物分かりが良くて助かるな。よし、運ぶぞ」


 俺は小脇に三本ずつ、計六本の巨木(元S級モンスター)を抱え上げると、軽快に走り出した。


**『トレントが敬礼してて草』**

**『自ら建材になりに行くスタイル』**

**『魔物が「就職」したぞwww』**

**『ブラック企業よりよっぽどホワイトな職場(物理的に明るい)』**


 ◇


 キャンプ地に戻った俺は、早速建築を開始した。

 爺ちゃん直伝の『DIY(ダイナミック・インパクト・ヤリすぎ)』工法だ。


「まずは基礎! ふんッ!」


 ドォォォォォン!!

 俺が地面を踏み抜くと、地盤が一瞬で圧縮され、コンクリートのように強固に固まる。


「次は柱! そいっ!」


 ズドッ! ズドッ! ズドッ!

 抱えてきたトレントたちを、ダーツのように地面に突き刺していく。


「壁材はこうして……接合!」


 釘? そんなものはない。

 木材と木材を重ね合わせ、指でギュッ! と圧力をかける。

 摩擦熱と圧力で、木材同士が分子レベルで結合する。これで釘より頑丈だ。


 バババババババッ!

 ガシャン! ズドドドドド!


 俺の腕が残像となる。

 切る、削る、組む、固める。

 全ての工程が秒単位で進行していく。


 アリシアは口を半開きにして、その光景を呆然と眺めていた。


「(あ、ありえない……。釘一本使わずに、木材を『融合』させている!? あれは失われた古代建築魔法『物質統合(マテリアル・ユニゾン)』!? それを無詠唱で、しかも高速で!?)」


 彼女の目には、俺が大工仕事をしているのではなく、神代の魔法を行使しているように見えているらしい。

 まあ、やってることは日曜大工なんだけどな。


 一方、ドローン越しの視聴者たちは大盛りあがりだ。


**『早すぎワロタ』**

**『RTA(リアルタイムアタック)かな?』**

**『ここだけ再生速度おかしいだろ』**

**『マイクラのクリエイティブモードじゃん』**

**『物理エンジンが仕事してない』**

**『DASH村でもこんな早くねーよwww』**

**『【朗報】家、30分で建つ』**


「――よし、完成だ!」


 俺が最後の屋根板を押し込むと同時に、立派なログハウスが完成した。

 窓も大きく、風通しも抜群。

 家具も余ったトレントで作っておいた。


「どうだアリシア、これなら二人でも広々だろ?」

「す、凄いですカイ様……! まさか本当にお昼前に完成させてしまうなんて……!」


 アリシアは感動に打ち震えながら、完成したログハウスに触れた。

 そして、日課の『鑑定』を行う。


「……え?」


 彼女の顔が引きつった。


【鑑定結果】

・名称:世界樹のログハウス

・ランク:神話級(Mythology)

・素材:服従したエルダー・トレント(生存状態)

・効果:

 [絶対結界]核攻撃級の魔法を無効化

 [自動修復]傷がついても勝手に治る

 [害虫駆除]半径1km以内の敵意ある存在を自動迎撃


「(い、生きている……! この家、生きていて、しかも私達を守ろうと結界を張っている!?)」


 柱となったトレントたちが、心地よさそうに魔力を放出し、空間を歪曲させて鉄壁の要塞を作り上げているのだ。

 もはやこれは家ではない。

 魔王城ですら裸足で逃げ出す、『難攻不落の神殿』だ。


「どうした? 気に入らないか?」

「い、いえ! 最高です! これほど安心感のある家は、世界中探してもありません!」


 アリシアはブンブンと首を振った。

 そうだろうそうだろう。

 やっぱり、手作りの家は温かみが違うからな。


**『ログハウス(要塞)』**

**『魔王軍が攻めてきても返り討ちにできそう』**

**『家が呼吸してて草』**

**『セキュリティ強度が国家レベル』**


 こうして俺たちは、最強のセーフティハウスを手に入れた。

 これでいつ元職場が押しかけてきても安心だ。(※押しかけてきた時点で彼らは死ぬが)

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