無責任

「祝鬼は決して行うな」


 父の言葉を理解するには永い時間を要した。

 代償をもとに人間の願いを叶える鬼。故郷に伝わる伝承との事だったが、そんなものはただの昔話だと思っていた。

 

 父は突如として大金を得た。農作業の最中に油田を引き当てるという漫画のような話だった。そしてその金を持って都会へと移り住み優雅な暮らしを始めようとした。

 しかし絶頂であるはずの最中、最愛の妻だった私の母が死んだ。何の脈絡もなく遺言もなく部屋で首を吊った。


 父はそこで私に真実を語った。祝鬼を呼んだと。

 忌避すべき鬼を逆に祝い呼び寄せる事で、代償と引き換えに願いを叶えるという愚かな儀式。それを行ってしまったと。


「おめでとうございます。どうか鬼様おいでください。あなたと私の望むものを取り替えましょう」


 決して口にする事がないと思っていた忌まわしい呪文を気付けば口にしていた。目の前にその鬼がいる今、他に対抗手段は思いつかなかった。


「親が親なら子も子か。愚かにも程があるだろ」


”それがあいつの願いだったんだよ”


 見た目はただの子供だが違う事は知っている。


 ーー幸秀。お前はやはり間違っていたよ。


 同郷の幸秀も当然祝鬼の伝承を知っていた。そして彼もまた鬼の力を頼った。子供が出来ないという妻の悲しみを消し去る為に我が子の誕生を祈った。

 

 願い通り子供は産まれた。しかしそれを一番に喜ぶべき妻と富を代わりに失った。

 康秀という子供を残して。


「お前は、生きていてはいけない存在だ」


 康秀は簡単に言えば問題児だった。拓斗のおもちゃが盗られたと知り乗り込んだ先で幸秀と再会した。こんな偶然があるのかと驚いたが、幸秀が祝鬼を実行した驚きで再会の喜びは一瞬にしてかき消えた。


 ーーこいつを消さなければ。


 だが臆病な自分は実行出来なかった。


「父さん、あいつどうにか出来ないの」


 魔が差した、では許されないだろう。だが気付けば私は息子に無責任な役目を託した。

 代わりに祝鬼を呼べと。


 最低だとは思った。だが言葉は止まらず全てを伝えてしまった。

 これで鬼が殺せるなら。


 しかし、現実はまるで思い通りにならなかった。

 息子達が相次いで不審な死を遂げた。そして幸秀も死んだ。


 きっと拓斗が祝鬼を実行したのだ。しかし、当の康秀は平然と生きていた。

 何かが起きている。歪な何かがーー。

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