第28話 並ぶと遠い
会議室に、
人が集まっていく。
今日は、
プロジェクトの定例会議。
前に立つのは、
朝比奈さんと川原。
この部署の
ツートップ。
自然と、
空気が引き締まる。
資料が配られ、
画面が映る。
橘と一ノ瀬、
凛も
前方の席に並んで座った。
三人とも、
落ち着いた表情。
無駄な動きがなくて、
仕事ができる人たちの
雰囲気がある。
朝比奈さんが
進行を始める。
朝比奈「では、
進捗の確認からいきましょう」
数字の確認。
進捗の共有。
次の工程。
橘が
要点を整理して話す。
橘「現状、
この工程までは予定通りです。
次の段階で
少し調整が必要になります」
簡潔で、
分かりやすい。
一ノ瀬が
すぐに補足する。
一ノ瀬「リソースは
こちらで対応できます。
スケジュールも
問題ありません」
凛が
タブレットを操作して言う。
凛「ここ、
この日程で進めれば
遅れは出ないと思います」
流れがいい。
会議室のあちこちで、
小さく
うなずく気配があった。
川原は、
腕を組んだまま
黙って聞いている。
川原「……いいですね」
短く、
それだけを言った。
それで、
十分だった。
会議が進むにつれて、
周りの視線が
自然と
前に集まっていく。
橘と凛が
並んでいる姿。
背の高さも、
雰囲気も、
どこか
バランスがいい。
後ろの方で、
声が落ちる。
同僚A「橘くん、
かっこいいよね」
同僚B「仕事できるし」
少し間があって、
別の声が続く。
同僚A「実は
狙ってるとか?」
くすっと、
笑う気配。
同僚B「でも、
高梨さんいるから
無理かな……」
同僚A「だよね。
あの二人、
並ぶと
すごいし」
ひそひそとした声。
悪意はない。
ただ、
噂話として
転がっているだけ。
私は、
資料に
視線を落としたまま、
聞こえないふりをした。
橘は、
こちらを見ない。
会議中だから、
それは
当たり前なのに。
でも、
視線が
一度も
合わない。
話しかけられることも、
ない。
名前を呼ばれることも、
ない。
仕事の距離。
そう思おうとしても、
胸の奥に
冷たいものが残る。
会議が終わり、
人が立ち上がる。
ざわっと
空気が緩む。
同僚C「さすがだね」
同僚D「助かるよ」
そんな声が、
前の方に集まっていく。
橘と凛は、
並んで
資料を片づけている。
その距離が、
やっぱり
自然だった。
隣で、
美咲が
そっと声を落とす。
美咲「……彩乃、
今は
見なくていいよ」
理由は言わない。
それだけで、
少し
救われた気がした。
橘は、
最後まで
こちらを見なかった。
冷たい、
というほどじゃない。
でも、
遠い。
仕事ができる姿を
見せられるほど、
その距離が
はっきりする。
私は、
会議室を出ながら、
一度だけ
振り返った。
橘と凛が、
並んで
何か話している。
周りから見たら、
きっと
理想的な二人だ。
そう思われても、
おかしくない。
分かっている。
分かっているのに。
胸の奥で、
小さく
何かが
崩れかけていた。
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