第27話 私の知らない場所

朝。


フロアに入ると、

朝比奈さんが

手を止めさせた。


朝比奈「少し、集まって」


キーボードの音が止まり、

視線が集まる。


朝比奈さんは、

いつも通りの声で言った。


朝比奈「今日から、

橘が応援で戻る」


一瞬だけ、

空気が動く。


続けて、

間を置かずに言葉が落ちる。


朝比奈「それと、

追加で一人、

同じプロジェクトに

入ってもらう」


入口の方に、

人影が見えた。


橘と、

女の人。


朝比奈「以上。

各自、作業に戻って」


それで終わりだった。


女の人が、

一歩前に出て

にこっと笑う。


凛「高瀬凛です。

今日から応援で入ります。

よろしくお願いします!」


明るい声。


場の空気が、

少しだけ

和らぐ。


凛は、

すぐに視線を動かして、

私たちを見つけた。


凛「……あ!

久しぶり〜!

彩乃、美咲!」


名前を呼ばれて、

はっとする。


美咲が

すぐに声を返した。


美咲「凛!

久しぶり!」


彩乃「……久しぶり」


凛は、

相変わらず元気で、

距離が近い。


そのまま

何か話そうとした時、


橘「凛、行くぞ」


橘の短い声。


呼び捨て。


凛「はーい」


軽く返して、

すぐに橘の隣へ戻る。


橘は、

こちらを見ない。


何事もなかったみたいに

歩き出す。


二人の並びは、

やけに自然だった。


胸の奥で、

小さく

何かが引っかかる。


思っていたのと、

少しだけ

違う。


 


しばらくして、

フロアが

それぞれの動きに戻る。


私は、

美咲と並んで

席に着いた。


視線の先に、

橘たちがいる。


少し離れた場所。


一ノ瀬が、

凛の方を見て

声をかけた。


一ノ瀬「凛、

お前も来たのか」


凛「そうなの!

急きょ応援。

また三人で仕事できるの、

久しぶりだね〜」


明るい声。


一ノ瀬が、

軽く肩をすくめる。


一ノ瀬「まあ、

やりやすくはあるな」


凛「でしょ?

息合うもんね」


凛は楽しそうに笑う。


橘は、

少し遅れて

短く答えた。

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