第22話 いつも通りの朝に
忘年会の翌日。
朝から、
フロアは
落ち着きがなかった。
電話が鳴って、
キーボードの音が重なる。
メールの件数も、
タスクの量も、
いつもより多い。
昨日のことを
思い出す余裕は、
正直なかった。
それが、
ありがたかった。
美咲「今日、
大変そうだね」
美咲が、
画面から目を離さずに言う。
彩乃「うん。
朝から全力」
そう返して、
私も
手を止めない。
考えないでいられるくらい、
忙しい。
それでいい。
しばらくして、
フロアに
少しだけ
違う空気が流れた。
朝比奈「少し集まってくれる?」
上司の声に、
あちこちで
椅子が引かれる。
彩乃と美咲も、
顔を上げた。
朝比奈さんが、
入口に立っている。
その横に――
一瞬、
思考が
止まった。
橘と、
一ノ瀬。
朝比奈「今回のプロジェクト、
こっちからも
応援に入ってもらう」
朝比奈さんが、
淡々と説明する。
でも、
私の意識は、
少し遅れて
追いついていた。
橘が、
そこにいる。
背筋を伸ばして、
スーツを着て、
やっぱり
目立つ。
思わず、
見てしまう。
その視線に
気づいたのか、
橘が
こちらを見た。
一瞬。
それから、
にこっと笑って、
小さく
ピース。
ほんの一瞬。
誰にも
気づかれないくらい。
胸の奥が、
きゅっと
音を立てた。
朝比奈さんの説明が続く中で、
美咲が
そっと
顔を寄せてくる。
美咲「……ちょっと」
彩乃「なに?」
美咲「今の、見た?」
声は小さいけど、
楽しそう。
彩乃「……見た」
美咲「でしょ」
にやっとして、
続ける。
美咲「なにあれ。
アイドルかと思った」
彩乃「ちが……」
美咲「ちがわないでしょ。
完全にファンサ」
前を向いたまま、
肩が
少し揺れている。
美咲「彩乃、
仕事中だからね?」
わざとらしく
真面目な声。
彩乃「……はいはい」
そう返したけど、
口元は
隠しきれていなかった。
朝比奈さんの話が終わり、
それぞれが
自分の席に戻る。
橘と一ノ瀬も、
フロアの奥へ向かう。
橘「忙しそうですね」
橘が、
明るく言う。
「今日は特に」
誰かが答えて、
小さな笑いが起きた。
橘の視線が、
一瞬だけ
こちらに来る。
すぐに
逸れる。
それだけなのに、
胸の奥が
少し
軽くなる。
仕事は、
相変わらず
大変だ。
やることも
減らない。
でも、
さっきまでとは
少し違う。
画面の文字が、
ちゃんと
頭に入ってくる。
私は、
キーボードに
指を置いた。
今日は、
忙しい。
でも、
ちゃんと
やれそうな
気がしていた。
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