第21話 名残惜しさ
店を出ると、
夜の空気が
思ったより冷たかった。
酔いが、
ゆっくり引いていく。
美咲「寒いね」
誰かの声に、
笑い声が重なる。
忘年会は、
終わった。
駅へ向かう人、
タクシーを探す人。
それぞれが、
少しずつ
散っていく。
私は、
美咲の隣を歩いていた。
話しているのは、
どうでもいいこと。
仕事の話。
来年の予定。
ちゃんと返事もしているし、
笑えてもいる。
少し前を、
橘と一ノ瀬が歩いている。
二人の背中が、
視界に入っている。
それだけで、
歩く速度が
乱れない。
理由は、
考えない。
考える必要が
ない気がしていた。
入社して、
二年。
去年は、
各部署ごとの忘年会だった。
今年は、
合同だと
知ってはいたけど。
まさか、
会えるとは
思っていなかった。
だから、
さっきまでの時間は、
少しだけ
特別だった。
横断歩道で、
信号を待つ。
冷たい風が、
頬に当たる。
信号が変わって、
また歩き出す。
前を行く
橘が、
一度だけ
振り返る。
目が合う。
何も言わない。
それでも、
ちゃんと
見ているのが分かる。
それで、
胸の奥が
少しだけ
緩んだ。
次に
いつ会えるかなんて、
分からない。
でも、
考えないようにしていた。
今日は、
ここまでで
よかったから。
駅の入り口で、
解散になる。
一ノ瀬「お疲れさま」
美咲「またね」
いつもの言葉。
なのに、
足が
すぐには動かなかった。
橘たちの背中を、
ほんの一瞬だけ
目で追う。
それだけ。
呼び止める理由も、
聞く理由もない。
それでも、
胸の奥が
少しだけ
名残惜しかった。
私は、
その気持ちに
名前をつけないまま、
改札へ向かった。
この夜は、
何も
起きなかった。
本当に、
何も。
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