第14話 大丈夫

昼休み、

人の少ないスペースに

二人で並んで座った。


いつもなら、

何でもない話をする場所。


今日は、

少しだけ

言葉を選ぶ。


美咲「……あのさ」


彩乃は、

顔を上げた。


美咲「いつ頃からだった?」


彩乃「……分からない」


正直な答えだった。


彩乃「はっきり、

これっていう日が

あるわけじゃなくて」


彩乃「気づいたら、

ちょっと怖いなって

思うようになってた」


美咲は、

黙って聞いている。


彩乃「最初は、

気のせいだと思ってた」


彩乃「上司だし、

仕事の距離だし、

考えすぎだって」


美咲「……うん」


短い相槌。


美咲は、

一度視線を落としてから

続けた。


美咲「もっと早く

気づいてあげられなくて

ごめん」


彩乃「え……」


美咲「一緒にいたのに」


美咲「変だなって

思ってたのに」


美咲の声が、

少しだけ

低くなる。


美咲「ちゃんと

守れたかもしれない」


その言葉に、

首を振った。


彩乃「違うよ」


思ったより

はっきり言えた。


彩乃「美咲が悪いこと、

何もない」


彩乃「……助けてくれた」


彩乃「ちゃんと」


美咲は、

少しだけ

息を吐いた。


美咲「……そっか」


それ以上、

謝らなかった。


少し間が空いて、

美咲が

スマホを取り出す。


美咲「そう言えばさ!」


少しだけ、

声のトーンが変わる。


美咲「来週の、

忘年会どうする?」


彩乃「……忘年会」


美咲「うん。

部署合同みたいだけど」


胸の奥が、

小さく

ざわつく。


やっぱり、

その話題だった。


美咲は、

すぐに続けた。


美咲「中村さんと、

佐々木さん来るって!」


彩乃「井上さんは?」


ほとんど

反射みたいに聞いていた。


美咲「井上さんも

来るって言ってたよ!」


その答えに、

胸の奥が

ふっと緩む。


自然と、

三人の顔が浮かんだ。


忙しい時でも

一言声をかけてくれた人たち。


変な空気になると、

さりげなく

話題を変えてくれる人たち。


美咲「私も行くし」


美咲「絶対、

誰かしら近くにいるよ」


美咲「一人になること、

ないから」


彩乃は、

少し考えた。


忘年会という言葉に

身構えていた気持ちが、

少しずつ

ほどけていく。


彩乃「……それなら」


小さく、

息を吸ってから。


彩乃「行ってみようかな」


自分で決めた、

という感覚が

ちゃんとあった。


美咲は、

小さく

笑った。


美咲「大丈夫」


美咲「私もいるし」


美咲「中村さんたちもいる」


忘年会。


ただの、

年末の集まり。


そう思えたのは、

初めてだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る