第13話 一人じゃなかった

給湯室から離れて、

廊下の端で立ち止まる。


まだ、

足に力が入らない。


美咲は、

少し前を歩いてから、

振り返った。


美咲「……怖かったよね」


私は、

小さくうなずいた。


美咲は、

一瞬だけ唇を噛んで、

視線を逸らす。


美咲「……ああいうの、

冗談で済ませる人、

一番嫌い」


声は低い。


でも、

揺れていない。


美咲「断ってるのに、

引かないのは、

普通じゃないから」


その言葉で、

胸の奥がほどけた。


私が、

間違っていたわけじゃ

なかった。


「……美咲が、

いてくれて

よかった」


声が震える。


「本当に……」


美咲は、

少しだけ息を吐いて、

私の隣に立った。


美咲「一人にしないよ」


それだけで、

涙が出た。


止めなくていいと、

初めて思えた。


ありがとう、

と口にした時、

美咲は、

何も言わずに

うなずいた。


廊下の向こうは、

まだ職場で、

まだ現実だ。


でも、

今は進まなくていい。


私は、

一人じゃなかった。

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