第9話 矛盾

 この世で唯一愛せる矛盾は、ご当地限定のお土産が割とスーパーで手に入ることぐらいだよなあ。

スーパーの冷凍コーナーに陳列された長崎限定「大トロ角煮まんじゅう」を見つめながらふと、懐かしいことを思い出してしまった。

今の夫と結婚する前に4年付き合っていた元カレの言葉だ。

彼は旅行好きでご当地グルメを調べては食べに行くのが趣味だった。しかし彼が美容師を目指して東京で暮らし始めてからは経済面の問題もあり、その数も減っていった。

この人と結婚するんだと思っていた。

高学歴でもないし仕事も安定するかわからない。ただ、この人となら幸せになれると確信していた。そう、思いたかったのかもしれない。

名古屋と東京での遠距離恋愛はなかなか難しく、返信が遅いだけで不安になってしまう毎日だった。彼はいつも「信用してほしい、安心してほしい」といったきり連絡をくれなかった。

それじゃあまるで、ナイフをちらつかせて「怯えるな」と叫ぶ強盗と一緒だ。

そしてわたしは25になってやっと、気づいた。

この人とは結婚できない。

4年の交際に自分で終止符をきるのは辛かった。

しかしその後縁あって取引先で知り合った男性と仲良くなり、それが今の夫だった。

年収1000万、名古屋のタワーマンションの45階を拠点に暮らす私たちは、いわゆる「富裕層」であった。

夫は土日以外家にいることはほとんどなく、仕事に邁進していた。

この生活ができている分、私も最低限できることはしないとと、料理が得意な方である私は毎日凝ったお弁当を作っていた。

デパートの地下でかった、意識の高そうな曲げわっぱの弁当箱。

今日の献立は、手作りタルタルのチキン南蛮にラディッシュの甘酢和え、にんじんとインゲンの明太子炒め、きゅうりとしらすの浅漬け。

ご飯はもちろん健康を意識した十五穀米だ。

デザートには今朝作った大学芋も添えてある。

また彩りのために糸唐辛子やパセリなんかも買うようになった。

人生成功。

結婚して、余裕のある暮らしができて、素敵なお弁当を作る良い奥さんになって。

後悔なんてあるわけない。元カレに未練があるわけでもない。なのにどうして、こんなに寂しいのだろう。

幸せなのに、空虚である。

満腹がかえって苦しいような感覚。

私はこの矛盾を、愛することができないでいる。

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