第6話 されど元妻

  時計は夜6時20分をさした。

俺は北千住にある中華料理店に来ていた。

会社の同僚から、

「うまいもんでも食べろよ」

とこの店の食事券を渡されたのだった。

離婚してからというもの、このような変な気遣いをされる。でも俺は解放されつつあった。一人というものは意外にも楽しいものだった。好きな時間に好きなことをして「これぞ自由だ」とも思った。今結婚しない人が増えているのにも頷ける。

結局、結婚するまでが楽しいのだ。まだ深くお互いのことを知っていない時が一番幸せでいられる。

  だが、一人に慣れていくのは怖いものでもあった。4日に一回ほど「俺はこうして1人で老いていくのだろうか」と不安になることがある。




なんとなく店内を見回して水を飲んでいるとドアの鈴がなった。

その時俺は見覚えのあるシルエットを捉えた。 別れた妻だった。

髪はいくらか伸びていたものの、キリッとした切れ長の目や、目とは対照的な丸顔は全く変わっていなかった。

   「紗栄…」

  俺はつい口に出してしまった。

その声に気づいた彼女はあっと声を上げて

「やだ…けん、くん?」

彼女は、驚きよりも困惑の表情を見せたのだった。彼女の後ろには背の高い外国人の男が立っていたのだ。ダイナミックに裂けているジーパンをスラリと着こなしパーマの髪を一つ結びにまとめている。いかにも女慣れしていそうな男だ。

男は俺を見てこそこそっと紗栄に何か聞いていた。「誰?あの男」とでも言っているのだろう。

俺は何故か頭にきて咄嗟に店を出た。

自動ドアの開くのを待つのももどかしかった。男とすれ違う時男のデカさを感じた。

176センチという自分の身長にいくらか満足していた自分が情けなくなった。

  紗栄とあの男の薬指は光っていた。

俺にもまだこんな気持ちが残っているなんて…。

自分自身が一番驚愕したのだった。

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