第4話

 ウサギの世話は朝の始業前を五、六年生が当番制で、昼休みを六年一組の飼育委員が、放課後を二組の飼育委員が担当している。

 小屋内の掃き掃除、飲み水の交換、餌やりが主な仕事で、餌は近所の八百屋が善意から提供してくれている野菜の切れ端、パンや果物は給食ででたものを与えている。

「パンダうさぎ、かわいいー」

「だっこしていいー?」

「抱き方としては、こうして胸の下に手を入れて、お尻を支えてあげると良(よ)いわ」

 昼休みに来た一年生の女子たちに、矢神が応対している。大人びた外見の矢神と無邪気な一年生とでは、ひとまわりくらい年齢差があるように見える。けれどそんなチビッ子たち相手にも、その堅苦しい態度は変わらない。

「お姉ちゃんの服、お姫様みたーい」

「フリルいっぱいだね。きれー!」

 ピイちゃんを抱きながら女の子が笑いかける。

 ギクッとしたように肩を強張らせ、俯いた矢神がとても小さな声で答えた。

「……――――――――どうもありがとう」

 照れているのだろうか、少し顔が赤い。

(いつもはお面みたいな顔してんのに、照れたりとかもするねんなぁ)

 横で見ていた修司は、その意外さに変に感心した。

 けれどたしかに、ピイちゃん脱走の一件以来、彼女への印象はいくらか和らいでいて、飼育委員の仕事中に修司から話しかけることも以前より増えた。

 「ピイちゃん、ばいばーい」とチビッ子たちが立ち去ったあと、今日も声をかけてみる。

「そういや、ピイちゃんの名前の由来って知ってる? なんか文鳥みたいやなってずっと思っててんけど」

「確証はないけれど、俗説ではピーター・ラビットのPから取ったとされているわ」

「俗説て、なんや大げさやな」

 実際、九才であるピイちゃんの名付けの場に立ち会った生徒たちは既に全員卒業しているわけだが。

 ――喋り方は変わっているが、尋ねたことにはちゃんと答えてくれる。小屋掃除などの丁寧な仕事ぶりからして、真面目な性格なのかもしれない。相変わらずピイちゃんに向けて食べ物やウサギについての蘊蓄を語るところはズレているが。

 

 春の日の昼下がり。あたたかな日差しに照らされながらピイちゃんが地面に丸まった姿を見ていると、平和すぎて暢気なアクビが出そうになる。外に居ながらにしてホカホカの布団にくるまれているような気分。

手放しにそう思えるのは、昼休みの憂鬱さが、最近なんだか軽減されたからかもしれない。

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