第38話:動き出す時間
第38話:動き出す時間
シュマカが消えた瞬間。
止まっていた時間が、ゆっくりと流れ出した。
大聖堂に残ったのは、冷えた空気と、わずかな血の匂いだけだった。
「……ノエル!」
ウルガが我に返り、駆け出す。
縄を解き、子供たちの肩に手を置いて無事を確かめる。
「だいじょうぶか」 「痛いところはないか」
カイルは外で待機しているはずだ。
ここにいるのは、ミアとノエル、そして他の子供たち。
怯えきった目が、次第に現実を取り戻していく。
「……ウルガ、にいちゃん」
その声を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなった。
「もう大丈夫だ」
そう言って、強く頷く。
それが嘘ではないと、初めて言える気がした。
少し離れた場所で、バステト様が静かに床を見つめていた。
黒猫の姿のまま、小さく息を吐く。
「あれは……」
声は低く、誰に向けるでもなく。
「神の領域に、片脚突っ込んでおるな」
短い沈黙。
「すでに人と呼んでよいかどうか……怪しいところよ」
バステト様は尻尾を揺らし、わずかに目を伏せる。
「……困ったものじゃ」
その呟きは、確かに届いていた。
セレナの顔から、血の気が引いていく。
冗談でも、誇張でもない。
あの存在を“神に近い”と評したのが、他ならぬバステト様だという事実。
「……そんな、相手と……」
言葉が、続かなかった。
ウルガは子供たちを抱き寄せながら、拳を握りしめる。
守れた。
だが同時に、知ってしまった。
世界には――
触れてはいけない“格”が存在するということを。
大聖堂の高い天井から、月明かりが静かに差し込む。
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