第24話 怪しい男

第24話:怪しい男

翌朝。


宿の食堂で、ウルガは静かに後悔していた。


――拾う人、間違えたかもしれない。


「つまりだな!」


目の前では、エンキド・メドゥダリアが木製のスプーンを振り回しながら熱弁を振るっている。


「錬金術とは、世界の理ことわりを“再解釈”する学問だ!」


「物質を変える? 違う違う。


 “意味”を変えるんだよ!」


誰も聞いていない。


女将は厨房で鼻歌。


他の客は完全スルー。


それでもエンキドは止まらない。


「例えばこのパン!」


テーブルのパンを掴み、掲げる。


「普通に見れば小麦の塊。


 だが錬金術的に見れば――」


「“空腹を満たす希望の集合体”だ!」


「……はあ」


ウルガは曖昧に相槌を打つ。


「そこで錬金術士は考える!


 希望を圧縮すればどうなる?」


「えっと……?」


「より腹が膨れる!!」


ドン、と胸を叩くエンキド。


「つまり理論上、このパンは三倍の満足度を秘めている!」


「それ、普通に食べたら同じですよね」


即ツッコミ。


エンキドは一瞬だけ黙り込み、次の瞬間、笑顔で親指を立てた。


「いいツッコミだ少年!」


「錬金術士に最も必要なのは、


 失敗を恐れない心と、誤魔化す話術だ!」


「それ、錬金術士じゃなくて詐欺師では……」


「細かいことを気にするな!」


ちょうどその時、セレナが宿に入ってくる。


「……なにこの朝から騒がしいの」


「ああ、セレナ。


 この人が――」


「世界一の錬金術士だ!」


被せるように叫ぶエンキド。


セレナは一瞬だけ沈黙し、次に女将を見る。


「……この人、放置でいいの?」


「いいよ。


 どうせそのうち自滅するから」


「ひどい!」


エンキドは大袈裟に胸を押さえた。


「だが見たまえ!


 この少年の瞳!」


ウルガの肩に手を置く。


「才能がある!


 分かるぞ、俺には!」


「……何がです?」


「“面倒ごとに巻き込まれる才能”だ!」


即答だった。


セレナが吹き出す。


「それは確かに当たってるわね」


ウルガは頭を抱えた。


だがその時、エンキドの指が、さりげなくテーブルの隅に置かれた石版へ向く。


ほんの一瞬。


本当に一瞬だけ。


「……ほう」


声のトーンが、変わった。


だが次の瞬間には、いつもの調子に戻る。


「まあいい!


 朝飯が美味い! 人生は最高だ!」


誰も気づかなかった。


――ウルガ自身でさえ。


我儘な玩具箱トゥテソロは、


何も反応しなかった。


それが逆に、


この男の異質さを際立たせていた。

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