第21話 宝箱の中の違和感
石造りの通路の先で、空気が少しだけ変わった。
「……行き止まり?」
ウルガが足を止めると、セレナは周囲を一瞥し、小さく首を振った。
「いいえ。こういう場所に限って、あるのよ」
そう言って、壁際を指差す。
そこには、ぽつんと――
宝箱が置かれていた。
木製。
金属の補強あり。
いかにも「ダンジョンの宝箱です」と言わんばかりの外見。
「……逆に怪しくないですか」
ウルガが思わず言うと、セレナは苦笑した。
「正解。
怪しくない宝箱なんて、この世に存在しないわ」
二人は距離を取り、慎重に周囲を確認する。
床、壁、天井。
目立った仕掛けは見当たらない。
「罠感知……特に反応なし」
「魔力の流れも、変じゃない」
それでも――
ウルガは胸の奥に、引っかかるものを感じていた。
(……静かすぎる)
宝箱の前に立つと、不思議なことに魔物の気配が一切ない。
まるで、この場所だけ切り取られたようだ。
「開けるわよ」
セレナが合図し、柄の長い槍で蓋を持ち上げる。
――ギィ。
軋む音と共に、宝箱が開いた。
中にあったのは、
金貨でも宝石でもなく。
「……?」
布に包まれた、小さな石板だった。
掌に収まるほどの大きさ。
表面には、見たことのない文様が刻まれている。
「……遺跡文字?」
セレナが覗き込む。
「でも、こんな形式は珍しいわね。
普通は巻物か、魔道具が――」
その時。
ウルガの胸が、きゅっと締め付けられた。
(……来る)
理由は分からない。
だが、**我儘な玩具箱トゥテソロ**が、微かに反応した気がした。
呼びかけていない。
使おうともしていない。
それなのに――
“中を、よく見ろ”と囁かれたような感覚。
「……セレナさん」
「何?」
「これ、見てください。
この文様……」
指でなぞった瞬間、
石板の一部が、ほんの一瞬だけ淡く光った。
「……っ」
セレナが息を呑む。
「今、光った?」
「はい。……でも、魔力じゃない」
むしろ、拒絶に近い。
触れられることを、嫌がったような。
二人は顔を見合わせた。
「……ダンジョンの宝箱にしては、妙ね」
「はい。
なんというか……置き忘れられた感じがします」
セレナは少し考え込み、やがて決断したように頷いた。
「これは持ち帰りましょう。
ギルドで鑑定に回す」
「大丈夫でしょうか」
「ええ。
少なくとも“今すぐ危険”ではない と思うわ…」
だが、その言葉とは裏腹に、
セレナの表情はわずかに硬い。
宝箱を閉じ、石板を包み直す。
その瞬間、ウルガは確信した。
(……これ、ただの戦利品じゃない)
ダンジョンが与えた報酬ではない。
何かが、ここに置いた。
理由も目的も、まだ分からない。
だが――
胸の奥で、我儘な玩具箱トゥテソロが
静かに、しかし確かに息づいていた。
遺跡は、まだ何かを隠している。
そう告げるように。
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