第18話 嵐のあとには日が差す
ギルドの奥にある執務室で、ギルドマスターは珍しく頭を抱えていた。
机に肘をつき、深いため息を一つ。
「……よりにもよって、あいつが出たか」
ウルガとセレナは並んで椅子に座っている。
セレナは包帯を巻かれながらも、顔色はもうだいぶ良い。
ウルガは落ち着かない様子で、膝の上に置いた拳をぎゅっと握っていた。
「シュマカ・フォン・ディーベルトだ」
その名前を口にした瞬間、室内の空気が少しだけ張り詰める。
「ブラックランク相当、いや……正確には測れん。
あれは“規格”の外にいる」
セレナが肩をすくめて苦笑する。
「そりゃあ、納得ね。あんなのと正面から殴り合ったの、正直初めてよ」
「笑い事ではないぞ」
ギルマスはそう言いながらも、どこか諦めにも似た表情を浮かべた。
「奴はな、ある国でスラムの子供たちを見て激昂したことがある」
ウルガが顔を上げる。
「……激昂、ですか?」
「ああ。
飢えで倒れる子供たちを見た直後、
城で酒池肉林を楽しんでいた王族を――」
そこで一度言葉を切り、ギルマスは渋い顔をした。
「……片っ端から半殺しにした」
セレナが思わず吹き出す。
「は、半殺し?」
「殺してはいない。そこがまた厄介でな」
ギルマスは肩をすくめる。
「王も王妃も、生きてはいる。
だが二度と贅沢な宴は開けん体になったそうだ」
ウルガは言葉を失ったまま、ぽかんと口を開けている。
「……それって、正義、なんですか?」
「さあな」
ギルマスは即答した。
「本人に聞けば『気分が悪かった』で終わりだろう」
セレナは腕を組み、少しだけ考え込むような表情を浮かべる。
「子供を守るヒーローかと思えば、
次の瞬間には街一つ壊しかねない。
本当に、道化師ね」
「だから誰も縛れんし、誰も裁けん」
ギルマスはそう言ってから、ふっと表情を緩めた。
「だがな……今回の件で一つだけ確かなことがある」
ウルガとセレナが同時に視線を向ける。
「子供たちが無事だった。
それだけは、あいつが“選んだ結果”だ」
セレナは小さく息を吐き、そしていつもの調子で笑った。
「まったく、とんでもない相手に目を付けられたわね、ウルガ」
「え、ぼ、僕ですか?」
「ええ。
あいつ、面白い玩具を見つけたって顔してたもの」
ウルガは慌てて首を振る。
「い、嫌です! 全然嬉しくないです!」
その必死な様子に、セレナは声を上げて笑った。
「ははっ、そう言うところが可愛いのよ」
「か、可愛くありません!」
執務室に、少しだけ明るい空気が戻る。
嵐は去ったわけではない。
けれど確かに、今は休める。
ギルマスは二人を見て、静かに言った。
「生きて帰った。それでいい。
今はそれだけで、胸を張れ」
ウルガは小さく、しかしはっきりとうなずいた。
強大な影は、確かに世界に存在している。
だがその影の下で、彼らは今日も一歩ずつ前に進んでいく。
――嵐のあと、物語はまた、息を取り戻す。
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