第8話 冒険者ギルドで登録しよう

石造りの建物の前で、ウルガは小さく息を吸った。


ここが、この街の冒険者ギルドだ。


剣と魔法の時代、その最前線にあたる場所。




扉を押して中に入ると、酒と汗が混じった匂いと、荒々しいざわめきが一気に押し寄せてきた。


屈強な男たち、傷だらけの装備、値踏みするような視線。


その中に、明らかに場違いな少年が一人混じったことで、いくつもの目が向けられる。




「……登録、だよな」




自分に言い聞かせるように呟き、受付カウンターへ歩み寄る。


その途中で、ウルガは思わず足を止めた。




カウンターの向こうに立っていたのは、長い金髪をまとめた若い女性だった。


整った顔立ちに、柔らかな微笑み。


制服越しにも分かる、均整の取れた体つき。




「…………」




完全に見惚れていた。




「どうしたの、坊や?」




不意に声を掛けられ、ウルガは我に返る。


彼女は首を少し傾け、面白そうにこちらを見ていた。




「と、登録……冒険者の……!」




声が裏返る。


顔に一気に血が集まり、熱くなるのが分かった。




「はいはい、冒険者登録ね」




彼女はくすっと笑い、胸元の名札を軽く指で叩いた。




「私はリーナ。このギルドの受付よ」




「ウ、ウルガです!」




勢いよく頭を下げた瞬間、背後から笑い声が上がった。




「ははっ、可愛いとこあるじゃねえか」 「初々しいな」 「坊や、鼻の下伸びてるぞ」




ウルガは顔を真っ赤にして視線を床に落とした。




「はいはい、からかわないの」




リーナが軽く睨むと、冒険者たちは肩をすくめて引き下がる。


そのやり取りに、ウルガは少しだけ胸をなで下ろした。




「年齢は?」




「……十二です」




一瞬、リーナの動きが止まる。




「……十二?」




周囲がざわついた。




「冗談だろ」 「子供じゃねえか」 「冒険者ごっこか?」




ウルガは静かに首を振る。




「本気です。働けます」




リーナは少しだけ表情を引き締め、ウルガを見つめた。


その視線から、彼は目を逸らさなかった。




「分かったわ。じゃあ、簡易適性確認をするわね」




そう言って、登録用の魔具を取り出す。




「大丈夫。怖くないわ」




その言葉に、ウルガは小さくうなずいた。




ここが、自分の出発点だ。


そう思いながら、彼は静かに魔具へ手を伸ばした。




冷たい感触と同時に、胸の奥で――


 **我儘な玩具箱トゥテソロ**が、微かに反応した。


(いや、今は出なくていい)


 心の中でそう告げると、**我儘な玩具箱トゥテソロ**は、不満そうな気配だけを残して沈黙する。


 水晶は、淡く光った。


「……数値は普通だね」


 リーナは記録を付ける。


 周囲の冒険者たちも、興味を失ったように視線を戻していった。


 そのときだった。


 水晶が、ほんの一瞬――脈打つように再度光る。


「……?」


「見間違いかしら?」




リーナは首を傾げたが、深追いはしなかった。

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