第4話 帰りを待つ家

「……もう、遅いわね」


セリスは、


鍋をかき回しながら小さく呟いた。


煮込みは、


少し煮詰まりすぎている。


火を弱めるべきか迷って、


結局そのままにした。


(……焦げたら、焦げたでいいか)


自分でも、


投げやりだと思う。


今日は、


兄とウルガが狩りに出た日だ。


危険な場所じゃない。


そう、頭ではわかっている。


それでも――


落ち着かない。




「……あの子、


 ちゃんとやれてるかしら」


独り言が増えるのは、


不安なときの癖だった。


昼を過ぎても、


二人は戻らない。


包丁を握ったまま、


ふと手を止める。


(私、何回


 同じ野菜切ってるの……)


自分で呆れて、


小さく息を吐いた。


兄は強い。


信じている。


でも、あの人は無理をする。


そして――


ウルガは、


無理を止めないタイプだ。


(似なくていいところばっかり)




夕方。


門の方から、


砂利を踏む音がした。


反射的に顔を上げる。


一歩。


二歩。


「……え?」


二人分だ。


慌てて外に出て、


思わず声が出た。


「ちょっと、


 遅すぎじゃない!」


自分でも、


驚くほど強い口調だった。




「……ただいま」


ウルガが、


少し気まずそうに言う。


その姿を見て、


怒る理由が消えた。


服は汚れ、


小さな傷もある。


でも――


ちゃんと歩いている。


「……おかえり」


声が、


勝手に弱くなった。




夕食の席。


「今日のは、


 少ししょっぱいかも」


「……でも、うまい」


ウルガが言うと、


兄が何も言わずに頷いた。


それだけで、


胸が軽くなる。


この家は、


こういう時間のためにある。




夜。


洗い物をしながら、


ウルガの背中を思い出す。


少し、


大きくなった。


(ああ、もう)


成長するたびに、


心配は増える。


でも――


それでいい。


「無事に帰ってきなさい」


誰もいない台所で呟いた…

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