発覚

 駆けつけた救急隊員は三名だった。そのいずれもが家主の無事を確認して、問診や軽い触診、血圧や心拍数の測定等その場でできる応急処置と受け答えの様子を慎重に記録しながら、外部との連絡の合間、ひとまず屋外へと通報者の誘導を試みた時、改めて、その意思と反した異常行動を目の当たりにすることとなった。


「すみません、すみません。ふざけてるわけじゃないんです! 本当に、本当に、体がいうことをきかなくて……玄関が、出口がわからないんです……!」


「タナカさん、大丈夫ですよ。落ち着いて」


 唖然とも怪訝けげんとも取れない隊員たちの表情を目の当たりにした瞬間、それまで何とか平静を保とうとしていたメンタルが決壊し、軽いパニック発作を起こしたように見える通報者本人を宥めて、直接腕を取り、誘導を試みた隊員が、はたとリビングを一歩出た瞬間に当惑したように表情を強張らせた。


「え……?」


 通報者に直接触れて手引きしている隊員の目の前に広がる、異常な光景。

 実測数メートル程度の、今まで当たり前のように見えていた玄関ドアが霧散むさんしたように消失しているのだ。


「何だ、どういうことだ……?」


「おい、どうした?」

 背後に立つ隊員が声をかけるが、どうやらその隊員には平常通りの間取りに見えているようだ。


「ああ、確かに……玄関の位置が把握できないんだ。これは、一体どうなってるんだ……?」


「何だって? 前方約三メートル直進、そこに玄関たたきがあるだろう?」


「それが……見えないんだ、確かに。前方の空間が、深いモヤの中にあるみたいで、実に……不明瞭で、距離感が全く把握できない」


 隊員に腕と上体を支えられて、メンタルが決壊してしまった通報者本人は、ぐずぐずと泣きらして嗚咽おえつを漏らしている。


「タナカさん、大丈夫ですよ! そのまま真っ直ぐに進めば、すぐに屋外に出られますからね!」


 もし脳機能に重大な疾患が隠れているとしたら、症状から一刻を争う事態に陥る危険性がある。

 他の隊員たちも共に介助に加わり、半ば強制的に屋外への脱出を試みた瞬間、その場の全員が同じように言葉をなくして凍りついた。


「これは、一体……」


「う、う、……うわああああああああああ!」

「タ、タナカさん! 大丈夫、落ち着いて! ゆっくり深呼吸をしましょう! タナカさん!」


 完全に錯乱状態に陥ってしまった通報者を宥めようと試みるものの、事態は一層深刻だった。


 先程までは玄関位置が把握できない程度に留まっていた異変が、明らかに室内に向かって凝縮している。

 玄関どころか、廊下、果ては間仕切り全体が徐々に曖昧になっているように感じられ、空間内部が緩やかに消失しつつあるかのような不気味さを覚える。


 そして焦燥感しょうそうかんだけではない、身体に感じる異常な症状。

 頭痛、眩暈、形容し難い嘔吐おうと感、全身から力が抜けるような倦怠感に加え、三半規管までが頼りにならないという、その場の全員に共通する諸症状。


「お、応援……追加の応援を要請しよう」


 現状、自分たちでは到底対処しきれない未知の現象に見舞われながらも、冷静さを失わなかった救急隊員による、現場状況の説明と補足、その的確な判断によって伝えられた異常性が、一般的に認知されている人間の病理的な作用よりも、むしろ超常的な空間現象に由来している可能性がかんがみられ、事態が消防より広範に周知され、ようやくSCP財団に捕捉ほそくされることとなった。

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