第4話 美しい湖
月代視点の回
まだ、心臓がバクバクしている。
立体映像で描かれる戦闘は迫力がありすぎて、モンスターの攻撃に合わせて、ついPCの前で体を動かしてしまった。
「ウインドさん、さっきはありがとう♪ 助かったわ」
蜂型のモンスターが毒針を向けて私に突っ込んできた時、どうすればいいのか分からず、ただオロオロすることしか出来なかった。
その前に立ち、迷いなく剣を振るったウインドさん。
冷静で、的確で、そして――格好良かった。
連続技で仕留めるその姿を思い出し、胸の奥が少しだけ熱くなる。
そして、レベルアップした私にギルドメンバーたちが「おめでとう」と声をかけてくれた。
……最近、学校でも家でも、こんなふうに褒められた記憶はない。
怪我をして、得意だったスポーツから離れてしまった今の私には、なおさら。
私は飛び跳ねるアクションで、みんなの祝福に応えた。
「さて、先に進もうか」
ギルドマスターであるウインドさんの声に、自然と背筋が伸びる。
前列は格闘家のブロッサムさんと剣士のウインドさん。
二列目に魔法使いの私とグリーンさん。
最後尾を剣士のライトさんが固める。
これが、私たち〈永遠の風〉の基本陣形だ。
モンスターの急襲には前列が対応し、その間に後方が分析と判断を行う。
私は……今のところ、状況を見守る役目。
早く成長して、ちゃんと仲間の役に立てるようになりたい。
「ブロッサムさんは左、ウインドさんは右のウルフを!」
狼型モンスターの奇襲に、最後尾からライトさんの冷静な指示が飛ぶ。
「フレイムアロー!」
グリーンさんの炎が中央のモンスターを撃ち抜いた。
私もファイアアローを放とうとしたが、その前に戦闘は終わってしまった。
「やったね!」
ハイタッチを交わし、喜びを共有する。
活躍は出来なかったけれど、それでも――この時間が楽しい。
「ムーンさん、当てられなかったね」
声をかけてきたのはライトさんだった。
「大丈夫です。ギルド経験値は入りますから」
攻撃を当てなくても、仲間として討伐に参加していれば経験値は得られる。
「そうか。それならいいんだけど……ところでムーンさん、このゲーム楽しんでる?」
「ええ、とっても」
私は少し考えてから、素直に答えた。
「ここにいると、嫌なことを忘れられるんです」
怪我のことも、勉強のことも――現実の話は、この空間には持ち込みたくなかった。
ライトさんには、笑顔のアクションだけ返す。
何度か戦闘を繰り返した後、先頭の二人から感嘆の声が上がった。
「……綺麗」
そこには、森の闇を押しのけるように、光り輝く湖が広がっていた。
「こんな場所が、森の中にあったなんて」
「暗闇に包まれた森に現れた光の湖……ヒントになりそうね」
ライトさんの言葉に、皆が頷く。
湖の水は澄み、静かに輝いている。
ブロッサムさんが水を汲み、首を傾げた。
「普通の水に見えるっすね」
フェアリーに問いかけても、返ってくるのは同じ答え。
「素敵な湖ですね♪」
「とりあえず、湖の周囲を調べよう」
ウインドさんの提案で一周してみたが、特別な変化はない。
「……入れないのかしら?」
グリーンさんがそう言って、装備を切り替えた。
一瞬でローブが消え、緑色のビキニ水着へ。
「え……?」
同性なのに、思わず視線を逸らしてしまう。
ライトさんとウインドさんも、水着に着替えた。
……私も?
一瞬迷ったけれど、覚悟を決める。
「えいっ」
紫色の水着に身を包む。
店主の「いつか必要になる」という言葉は、どうやら正しかったらしい。
ブロッサムさんだけが水着を持っていなかった。
「見張りは任せてほしいっす」
その言葉に甘え、私たちは湖へ潜った。
水中は驚くほど快適で、息苦しさもない。
「何かいるぞ!」
光を放つ巨大なナマズ型モンスター。
「スターダストキャットフィッシュ……この森の守護者ね」
水魔法は使えず、電撃も危険。
「……剣士の出番だな」
ウインドさんとライトさんが並び、剣を構えた。
「剣技・バスターソード!」
「剣技・サイレントスラッシュ!」
水を裂く剣撃。
暴れるモンスター。
そして――
カッ、と放たれた光。
「え……?」
反射的に防御コマンドを入力し、私は一瞬、画面から目を逸らした。
恐る恐る視線を戻す。
「……ウインドさん!」
そこには、体を上に向け、静かに漂う彼の姿があった。
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