故郷での約束 (2)

 あの古木の元での約束以来、私たちの生活は一変した。

 それまではただの冒険者ごっこだったものが、一分一秒のすべてが「外の世界で死なないほどに強くなる」という一つの目的のために費やされるようになった。

 しかし、鍛錬を重ねれば重ねるほど、私は自分たちの間にある圧倒的な才能の差を痛感せざるを得なかった。


「ラヴィエル、集中して! 私の攻撃を予測するのが遅すぎるわ!」


 エリナの声が、彼女の実家の城の裏にある即席の修練場に響き渡った。彼女の指先には、真っ赤な火花が舞っている。放たれた小さなファイアボルトが、危うく私の髪を焼き払うところだった。

 エリナは天才だった。モルヴェイル侯爵家の血筋は、彼女に膨大な魔力の器を与えていた。まだ幼い年齢でありながら、彼女は魔導書の手助けなしに中級魔法を使いこなしていた。


「分かっている!」次の火炎を避けるため、横に転がりながら叫んだ。


 私は息を切らしていた。全身から汗が噴き出しているというのに、エリナは汗一つかいていない。 広場の反対側では、ヴェイルがイセレーヌと訓練しているのが見えた。ヴェイルは三本の矢を同時に放ち、そのすべてが動く標的のど真ん中を射抜いた。

 ハーフエルフとしての視力の鋭さと、イセレーヌから教わった呼吸法を組み合わせることで、彼は冷酷なまでの精度を誇る射手となっていた。

 翻って、私はどうだ? 私はただのラヴィエル・グランツだ。平均的な体格しか持たない農夫の息子。

 魔法も使えず、夜目が利くわけでもなく、長い寿命があるわけでもない。


「もう一度だ!」木刀を握り直し、叫んだ。


 私は無我夢中でエリナに斬りかかった。

 しかし、彼女は優雅な動作で風の障壁を作り出し、私の攻撃をあっさりと受け流した。

 私は地面に叩きつけられ、顔を泥に沈めた。


「今日はここまでにしましょう、ラヴィエル」イセレーヌが歩み寄り、冷たい水の入った瓶を差し出した。

「ここ三時間、あなたは限界を超えて自分を追い込みすぎている。人間の肉体には、私たちとは違うリミットがあるのよ」

 喉を焼くような渇きを癒すために、貪るように水を飲んだ。

「もし俺が限界を理由に止まれば、本物の戦場で限界が訪れたとき、誰が君たちを守るんだ? 君たちには才能がある。偉大になる運命にあるんだ。でも俺は……人の十倍努力しなければ、ただの足手まといになってしまう」

 ヴェイルが歩み寄り、弓を肩に担いだ。「自分を追い込みすぎだぜ。俺たちはお前が俺たちより強くなることなんて望んでない。ただ、生きていてくれればいいんだ」

「それじゃ足りないんだ、ヴェイル」震える足で立ち上がりながら答えた。

「あの約束を覚えているか? 全員で共に帰ることだ。もし俺が最弱なら、俺こそが『全員で帰る』という目的を失敗させる最大の要因になる。俺の弱さを、このパーティーの穴にするわけにはいかないんだ」


 その夜、皆がそれぞれの家に帰った後も、私は修練場に残った。

 再び木刀を手に取る。銀色の月光の下、私はひたすら剣を振り始めた。

 一度、二度、そして千度。

 かつて領都で見かけた守護騎士の動きを必死に模倣する。

 一振りごとに筋肉が悲鳴を上げたが、私は止めなかった。


 エリナと一緒に訓練している私を見るたび、城の使用人たちが向けてきた蔑みの視線を思い出す。『ただの平民が、鷹の真似事をしている』……彼らの囁きは正しかった。

 生まれつき、私は鷹ではない。嵐の中を飛ぼうともがく、一羽の雀に過ぎないのかもしれない。 だが、強情な雀は、傲慢な鷹が墜落するような場所でも生き延びることができるはずだ。


「なぜ、まだ帰らないの?」


 驚いて振り返ると、オークの木の影にイセレーヌが立っていた。武器は持たず、深い緑色のウールのマントを羽織っている。


「……もう少しだけ、鍛錬したかったんだ」正直に答えた。


 イセレーヌは歩み寄り、エメラルド色の瞳で私の手の傷を見つめた。

 何も言わずに彼女が私の手を握ると、掌から安らぐような温かさが伝わってきた。治癒魔法だ。


「ラヴィエル、聞きなさい」イセレーヌが静かに言った。

「あなたはいつも私たちを守ると言うけれど、一つ忘れているわ。パーティーとは、一人が他を守るためのものではない。支え合うためのものよ。あなたは私たちの『錨(いかり)』なの。エリナは偉大な炎、ヴェイルは鋭い目、私は広大な知識。けれど、あなたの重石がなければ、私たちは自らの傲慢さと力に飲み込まれ、流されてしまう」

「錨……?」苦笑いした。「錨なんて、船が航海している間、海底でじっとしているだけの物じゃないか」 「いいえ」イセレーヌが遮った。「錨は、猛烈な嵐に襲われたとき、船がバラバラに砕けるのを防ぐ唯一の存在よ。あなたがいてくれるから、私たちは人間であり続けられるの。ラヴィエル、あなたが、私たちが帰りたいと思う理由なのよ」


 イセレーヌが手を離すと、傷は消え、新しい皮膚が再生していた。


「自分を荷物だなんて思わないで。外の世界では、力はただの道具に過ぎない。けれど、帰り着こうとする意志……それこそが、誰が最後まで生き残るかを決めるのよ」


 私は自分の手を見つめ、月明かりの下を去っていくイセレーヌの背中を見送った。

 彼女の言葉は私の肩に新しい重みを加えたが、不思議と痛みはなかった。それは、責任という名の重みだった。


 ─────数ヶ月後─────


 待ち望んでいた、そして恐れていた日が、ついに訪れた。

 村を通りかかった最後の商隊の荷馬車が、公式に冒険者ギルドへ登録するため、近隣の町まで私たちを乗せてくれることになった。

 両親が村の境に立っていた。母は泣き、父は硬い表情で黙ったまま、厳しい眼差しの裏に不安を隠していた。

 エリナの父である侯爵は来なかった。しかし、彼はモルヴェイル家の紋章が刻まれた本物の鉄剣を届けさせた。娘の旅立ちを正式に認めるという証——あるいは、エリナがすぐに失敗して戻ってくることを願っていたのかもしれない。


「準備はいいか?」仲間に問いかけた。


 エリナは力強く頷き、小さな赤い宝石があしらわれた魔杖を握りしめた。

 ヴェイルは革のマントを纏い、イセレーヌは秘薬と古びた手帳の詰まった鞄を肩にかけていた。


「見せつけてやろうぜ」ヴェイルが薄く笑みを浮かべて言った。


 私は荷馬車に乗り込んだ。腰には、何年もかけて貯めた金で買った、使い古された鈍い鉄の剣がぶら下がっている。

 最後にもう一度だけ振り返り、私たちの幼少期を静かに見守り続けてきた木の家々と古いオークの木を見つめた。


「……必ず戻ってくる」自分に言い聞かせるように呟いた。「何があっても、俺がみんなをここに連れて帰るんだ」


 私たちは日の出と共に出発し、村の小道に砂埃を残して去っていった。

 目の前には広大な世界が広がり、約束された栄光と、隠された暗闇が待ち受けている。

 私たちはまだ知らなかった。外の世界が城の裏庭での訓練ほど甘くはないことを。

 私たちはまだ知らなかった。運命が、私たちの無垢さを引き裂く最初の試練をすでに用意していることを。


 これが私たちの物語の始まりだ。

 最後の一瞬まで抗い続けた、四人の親友たちの物語。 陽光の下の笑い声で始まり、冷たい雪の上の剣の摩擦音で終わる物語。

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最後の一瞬まで抗い続けた、四人の親友たちの物語。 ミハリ | カクヨム @Mihari_Kakuyomu

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