第10話 四十四位で、止まる理由
ムライは、
ランキングを見ない。
興味がないからじゃない。
知っているからだ。
自分が、
何位に行けるか。
朝。
古いアパートの一室。
畳は擦り切れ、
テレビは映らない。
ムライは、
包丁でリンゴを剥いていた。
手つきは、
異様なほど丁寧だ。
皮を切る。
芯を残す。
無駄がない。
――喧嘩と、同じ。
リンゴを皿に置いたところで、
スマホが震えた。
《上に行かないんですか?》
知らない番号。
たぶん、
運営か、
スポンサー。
無視した。
代わりに、
別の番号へ発信する。
呼び出し音。
三回。
「……はい」
年老いた声。
「俺だ」
「……ムライか」
それだけで、
通じる。
「まだ、
やってるのか」
「ああ」
「……四十四位か」
電話の向こうで、
小さく息を吸う音。
「お前なら、
もっと上に行ける」
ムライは、
リンゴを一切れ、
口に運んだ。
噛む。
甘い。
「上は、
つまらねぇ」
沈黙。
「喧嘩が、
なくなる」
「……何?」
「上に行くと、
みんな“見せる”」
演出。
配信。
台本。
「殺しもしねぇ。
殺させもしねぇ」
電話の向こうが、
ざわつく。
「王の遊びだ」
ムライは、
淡々と言った。
「俺は、
喧嘩がしたい」
だから、
四十四位。
上は、
制度の中。
下は、
素人。
その中間が、
一番、生きている。
「……高校の時と、
同じこと言ってるな」
その言葉で、
ムライの手が止まった。
「覚えてるか」
「忘れるわけない」
教師は、
ゆっくり言った。
「お前は、
勝ちすぎた」
――あの日。
放課後の体育館。
ムライは、
五人を同時に倒した。
喧嘩じゃない。
処理だった。
骨が折れる音。
悲鳴。
止めに入った教師も、
床に転がった。
その後、
何が起きたか。
誰も、
語らない。
「だから、
止めた」
ムライは言った。
「上に行くと、
また“処理”になる」
「……」
「俺は、
殴りたいんじゃない」
リンゴを食べ終える。
芯だけ残る。
「相手が壊れる瞬間を、
ちゃんと見たい」
電話は、
そのまま切れた。
ムライは、
立ち上がり、
窓を開ける。
外は、
今日も平和だ。
その平和の下で、
喧嘩は、
管理されている。
ムライは、
四十四位で、
止まる。
それは、
逃げでも、
敗北でもない。
選択だ。
そして、
その選択を、
いつか、
誰かが壊しに来る。
ムライは、
それを、
少しだけ楽しみにしていた。
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