第5話 俺が嫌われている理由を、本人より偉い人たちが会議で決めていた

 俺が知らないところで、俺の話し合いが始まっていた。


 それを知ったのは、48位に上がってから三日後。


 ランキング参加者用の非公開掲示板に、うっかり流出した議事ログが貼られていたからだ。


【上位者合同会議 議題:スドウについて】


 ……いや、なんで会議。

 タップすると、そこには俺の人生を三行で要約したみたいな文言が並んでいた。


『戦い方が不快』

『ルールの穴を突きすぎている』

『観客の分断を招いている』

『制度の理念に反する可能性』


 最後のやつ、意味分からなすぎて笑った。


 制度の理念。


 殴り合いをエンタメにした時点で、理念もクソもないだろ。


 書き込みの名前を見る。


 20位。

 15位。

 9位。


 ……ああ。

 上の方の人間たちだ。


 強いやつらは、俺を嫌っている。


 理由は単純だ。


 俺は、彼らの“格好良さ”を台無しにする。


 正面から殴り合って勝つ。


 信念を語る。


 観客を味方につける。


 そういう「物語」を、

 俺は全部、無言で踏み潰す。


「……まあ、嫌われるよな」

 独り言が、やけに静かな部屋に落ちた。


 その日の夕方、端末に直接通信が入った。


 発信者:ランキング12位。

 名前は、レオン。


 写真を見るだけで分かる。

 こいつ、王様側の人間だ。


「君がスドウか」

 落ち着いた声。

 威圧感はない。

 逆に、それが怖い。


「最近、少し……騒がしいね」

「俺のせいですか」

「半分は」

 即答だった。


「君の戦いは、勝つことに特化しすぎている」

「それ、喧嘩ランキング的には正解じゃないです?」

 一瞬、間が空いた。


「正解すぎるんだ」

 ああ。

 なるほど。


「観客は“勝ち”だけじゃ満足しない。

 納得したいんだ」

「じゃあ、俺は間違ってる」

「いや」

 レオンは、少しだけ笑った。


「君は正しすぎる」

 最悪の褒め言葉だ。


「忠告だ。

 このまま行くと、君は“処理”される」

「処理」

「ランキング上位者同士の連戦。

 逃げ場のない場所。

 相性最悪の能力者」


 淡々とした説明。

 まるで、天気予報みたいに。


「それって、ルール内ですよね」

「もちろん。

 だから美しい」


 ああ。

 この国、やっぱり狂ってる。

 通信が切れた直後、

 挑戦申請が三件、同時に届いた。


 39位。

 35位。

 31位。


 ……露骨すぎるだろ。

 その中で、俺は一人を選んだ。

 カナメ。

 能力:拘束系。

 戦績:判定勝ち多数。

 備考:

『逃げ場を作らない戦い』

 逃げ場がない。

 つまり、俺の戦い方を殺しに来てる。

 場所は、廃ビルの地下。


 観客は少なめ。

 代わりに、目が本気だ。


 カナメは、戦う前に言った。


「君、嫌われてるね」

「知ってます」

「正義じゃないから?」

「たぶん」

「違うよ」

 カナメは、指を鳴らした。


「正義を否定するくせに、悪にもなりきらないから」

 その瞬間、床から鎖が伸びた。


 足首を取られる。


 逃げられない。


 世界が、遅くならない。

 ――条件が、揃ってない。

 相手は俺を見下していない。

 勝ったとも思っていない。


 《条件反射》が、発動しない。

 初めてだった。


 能力が、完全に沈黙したのは。

 殴られる。


 痛い。


 ちゃんと、怖い。


「これが、君の弱点だ」

 カナメの声が、近い。


「考える時間を、奪えばいい」

 ああ。

 なるほど。

 悪知恵だけじゃ、足りない局面。


 それでも。

 俺は、笑った。

「……一個、勘違いしてますよ」

「何を」

「俺」

 血を吐きながら、言った。


「能力が使えない時の逃げ道も、考えてないと思いました?」

 鎖を、わざと引っ張る。


 重心が、前に来る。


 カナメの足が、ほんの少し浮いた。


 十分だ。


 頭突き。

 至近距離。

 倒れたのは、俺じゃなかった。


【勝者:スドウ】

【ランキング更新:34位】


 観客は、静かだった。

 拍手も、罵声もない。


 ただ一つ、誰かが呟いた。

「……こいつ、危ない」

 ああ。


 ようやく、そこまで来たらしい。


 その夜、レオンから短いメッセージが届いた。

『忠告はした』

 俺は返した。


『ありがとうございます。

 でも、もう戻れないみたいです』

 端末を伏せて、天井を見る。


 気づいてしまった。

 俺はもう、

 **嫌われ者じゃなく、“排除対象”**だ。


 そして――

 このランキングで一番危険なのは、

 たぶん、俺みたいなやつだ。

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