第6話「みんなで作るおせち料理」
食材が揃い、いよいよおせち作りが始まった。
村の広場には大きないくつもの鍋が用意され、村中の女たちが集まってきていた。男たちは薪を割り、子供たちは水汲みを手伝っている。村全体が、一つの大きな厨房になったかのようだ。
「カナタ先生!闇夜豆は、どうすればいいんだい?」
村のお母さんの一人が、僕に尋ねる。
僕はいつの間にか、料理の先生のような立場になっていた。
「闇夜豆は、まず一昼夜、きれいな水につけておいてください。それから、この木の灰を溶かした水で、ゆっくり煮込んでいきます」
『食材鑑定』で判明した「特殊な灰汁」の正体は、特定の木を燃やした灰だった。これを使うことで、闇夜豆の硬い皮が嘘のように柔らかくなる。
「へえ、灰で豆を煮るのかい。変わったやり方だねえ」
村の女たちは感心しながらも、僕の指示通りに作業を進めてくれる。彼女たちの手際はとても良く、僕が教えたことをすぐに吸収していく。
***
リアナは、甘蜜イモの皮むきを担当していた。
持ち前の器用さで、するすると皮をむいていく。
「カナタ、これ、すっごく甘い匂いがする!このまま食べたくなっちゃう」
「ははは、つまみ食いはダメだよ。それは蒸かして潰して、栗に似た木の実と一緒に練り上げるんだ。甘くて美味しい『きんとん』になるから」
「きんとん!」
リアナは目を輝かせ、さらに作業のペースを上げた。早く食べたいという気持ちが、その尻尾の揺れ方から伝わってくる。
ロックバードの巨大な卵は、数人がかりで割られた。黄身も白身も、普通の鶏卵の何十倍もある。これを使って、伊達巻風の卵焼きを作る。
僕はまず、魚のすり身の代わりになるものを探した。湖で釣れる淡水魚「レイクパイク」が、白身で淡白な味わいだったので、これを使うことにした。
レイクパイクをすり身にし、卵と砂糖、そして出汁を加えてよく混ぜ合わせる。この世界の砂糖は、サトウカエデの樹液を煮詰めたもので、上品な甘さがある。出汁はもちろん、龍皮昆布からとった極上のものだ。
これを大きな四角い鉄板で焼き上げていく。火加減は『調理魔法』で完璧にコントロール。焼きあがった生地を、熱いうちに巻きすで巻いて形を整える。
「うわあ、ふわふわだ!」
「なんて綺麗な黄色なんだろう!」
見守っていた子供たちから歓声が上がる。甘くて香ばしい匂いが、広場いっぱいに広がった。
***
双子大根は、千切りにして塩もみし、紅白なます風の和え物にする。
アイスフィンチは、一羽ずつ丁寧に串に刺し、炭火でじっくりと焼き上げてから、醤油と砂糖を煮詰めた甘辛いタレに絡めていく。醤油は、豆を発酵させて作る調味料があると聞き、僕が『調理魔法』の発酵促進を駆使して即席で作ったものだ。
龍皮昆布は、干したキノコを芯にして巻き、甘辛く煮詰めていく。
お煮しめには、この村で採れる根菜やキノコをたっぷり使った。それぞれの食材の形が崩れないように、でも味がしっかり染み込むように、煮る順番や火加減に気を配る。
一品、また一品と、おせち料理が出来上がっていく。
それは、僕一人の力じゃない。村のみんなが、それぞれの持ち場で力を合わせた結果だ。
誰かが薪を運び、誰かが水を汲む。
誰かが野菜を洗い、誰かがそれを切る。
みんなが笑顔で、楽しそうに働いていた。
今まで、この村の人たちは、食べることは「生きるための義務」だと思っていた節がある。でも今は、食事が「楽しみ」であり、「喜び」であることを、その身をもって感じてくれているようだった。
三日三晩、村をあげての調理は続いた。
そしてついに、ミストラル村特製の、異世界おせち料理が完成した。
村の集会所に、大きな木の板を並べて作ったテーブルが用意される。その上に、完成した料理がずらりと並べられた。
黒く艶やかに輝く、闇夜豆の煮物。
黄金色に輝く、甘蜜イモのきんとん。
鮮やかな焼き色が美しい、伊達巻。
紅白のコントラストがめでたい、なます。
香ばしい匂いを漂わせる、アイスフィンチの田作り。
てりってりの龍皮昆布巻き。
具だくさんのお煮しめ。
「おおおお……!」
集まった村人たちから、どよめきと感嘆の声が重なり合った。
誰も見たことのない、豪華で彩り豊かな料理の数々。
「これが、『おせちりょうり』……」
リアナが、うっとりとした表情でつぶやく。
僕は、目の前の光景に、胸がいっぱいになっていた。
前世では、一人きりの厨房で、黙々と料理を作っていた。でも今は、こんなにたくさんの仲間たちと一緒に、みんなの笑顔のために料理を作っている。
『ああ、俺は、この光景が見たかったんだ』
料理人として、最高の幸せが、ここにあった。
「さあ、みんな!新しい年の始まりを祝おう!ミストラル村の、初めての新年会だ!」
ギードさんの高らかな宣言を合図に、村の誰もが、笑顔で料理に手を伸ばした。
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