第5話「おせち食材ハンティング」
おせち料理の主要な食材は、村人たちの協力のおかげで順調に集まりつつあった。
闇夜豆、甘蜜イモ、双子大根、ロックバードの卵。名前を聞くだけで、どんな味になるのか想像が膨らんでワクワクする。
だけど、おせち料理はそれだけじゃない。海の幸も必要だ。
例えば、昆布巻きの昆布や、田作りの小魚。
「海、か……」
このミストラル村は、深い山脈に囲まれた内陸の村だ。海なんて、誰も見たことがない。
「海の幸は、無理じゃないか?」
ギードさんも、さすがに弱気な顔をしている。
でも、料理人は諦めが悪い生き物なんだ。
『何か、代わりになるものがあるはずだ』
僕は村の古文書や、年寄りたちの昔話にヒントがないか探してみることにした。
すると、村の長老が、興味深い話をしてくれた。
「村の北にある『霧氷の湖』。あの湖の底には、龍が棲むという言い伝えがある。そして、その龍の鱗が剥がれ落ちたものが、湖畔に打ち上げられることがあるそうじゃ。それはそれは、滋味深い味がするとか……」
龍の鱗。ファンタジーど真ん中な食材だけど、俄然興味が湧いてきた。
僕は再びリアナを相棒に、今度は北の霧氷の湖を目指した。
湖は、その名の通り、凍てついた霧に包まれていて、幻想的な雰囲気を醸し出していた。湖面は厚い氷に覆われている。
「龍の鱗なんて、本当にあるのかな……」
リアナが不安そうにつぶやく。
僕たちは湖の周りをぐるりと歩き、何か手がかりがないか探した。すると、氷の隙間から、黒くてひらひらしたものが顔を出しているのを見つけた。
引き上げてみると、それはまるで幅の広い黒いリボンのようだった。
早速、『食材鑑定』を発動する。
【龍皮昆布(りゅうひこんぶ)】
霧氷の湖に棲む水龍の脱皮した皮の一部。見た目は昆布に酷似している。非常に良質な出汁が取れるほか、煮込むとトロトロに柔らかくなる。水龍の魔力が宿っており、食べると身体が丈夫になる。
『昆布だ!しかも、とんでもない上物だ!』
まさか、龍の脱皮した皮が昆布の代わりになるとは。異世界、恐るべし。
僕たちは大喜びで、湖の周りで見つけられるだけの龍皮昆布を集めた。これで昆布巻きは作れる。
問題は、田作りの小魚だ。
「湖の魚は、冬の間は氷の下でじっとしてるから、釣れないんだよね……」
リアナが残念そうに言う。
その時、僕の目に、湖畔の木に止まっている小さな鳥の群れが映った。銀色の羽を持つ、スズメくらいの大きさの鳥だ。
【アイスフィンチ】
冬にのみ霧氷の湖周辺に現れる渡り鳥。湖に生息するプランクトンを主食としているため、その身には魚に似た風味と脂が乗っている。骨まで柔らかく、丸ごと食べることができる。
『魚みたいな味の鳥……?これならいける!』
田作りは、本来カタクチイワシの稚魚を干して作る。でも、このアイスフィンチを丸ごと素焼きにして、甘辛いタレを絡めれば、食感も風味もかなり近いものになるはずだ。
幸い、アイスフィンチはあまり人を警戒しない鳥だった。僕たちは罠を仕掛けて、必要な分だけを捕獲することに成功した。
村に戻った僕たちは、ヒーローのような歓迎を受けた。
「龍の鱗を見つけただと!?」
「魚の味がする鳥だと!?」
村人たちは、僕らが持ち帰った未知の食材に興味津々だ。
こうして、山と湖の恵みによって、おせちの食材はほぼ完璧に揃った。
黒豆代わりの『闇夜豆』。
栗きんとんの『甘蜜イモ』。
紅白なますの『双子大根』。
伊達巻の『ロックバードの卵』。
昆布巻きの『龍皮昆布』。
田作りの『アイスフィンチ』。
そして、お煮しめには、村で採れる冬野菜やキノコをふんだんに使おう。
『あとは、腕の振るいどころだな』
僕は集まった食材を眺めながら、にやりと笑った。
最高の食材は揃った。これを、僕の料理の知識と『調理魔法』で、最高の「おせち」に仕上げてみせる。
ミストラル村の歴史上、最も美味しくて、最も賑やかな数日間が、始まろうとしていた。
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