第4話「異世界でのお正月計画」
村の食糧事情にひとまずの目処がつき、人々の顔にも笑顔が戻ってきた頃。
僕は、ふと気づいたことがあった。
この村には、カレンダーのようなものがない。人々は太陽の昇り沈みと季節の移ろいで時を把握しているだけ。だから、「一年」という区切りや、「新年を祝う」という概念すらないようだった。
「え?新年のお祝い?」
僕が尋ねると、リアナはきょとんとした顔で首を傾げた。彼女の頭の耳が、不思議そうにぴこぴこと動く。
「うん。一年の始まりをみんなで祝うんだ。僕がいた世界では、特別なごちそうを用意して、家族みんなで食べるのが習わしだったんだよ」
「へえ、そうなんだ!楽しそう!」
目をきらきらさせるリアナ。その純粋な反応を見て、僕の中で一つのアイデアが芽生えた。
『そうだ。この村で、日本のお正月を再現してみよう』
厳しい冬の真っ只中、単調になりがちな生活に、何か特別なイベントがあれば、みんなもっと元気になるんじゃないか。そして、何より僕が作りたい。みんなに食べさせたい。一年の感謝と、新しい年への願いを込めた、あの特別な料理を。
「よし、決めた!みんなで『おせち料理』を作ろう!」
「おせちりょうり?」
聞き慣れない言葉に、リアナだけじゃなく、話を聞いていた周りの村人たちも集まってきた。
「おせち料理っていうのは、新年を祝うための特別な料理なんだ。一つ一つの料理に、健康とか、豊作とか、色々な願いが込められてるんだよ」
僕は前世の記憶を頼りに、おせち料理について説明した。
黒豆には、まめに働けるように。数の子には、子孫繁栄の願い。栗きんとんは、金運上昇。紅白なますは、おめでたい色の組み合わせ。
村人たちは、目を輝かせて僕の話に聞き入っていた。
「料理に願いを込める……なんて素敵な考え方なんだ!」
「俺たちも、来年こそは豊作になってほしい!」
「病気で死ぬやつが出ないように、健康を祈りたいな」
村人たちの想いは一つになった。僕の提案は、満場一致で受け入れられた。
村長のギードさんも、「面白い。カナタ、お前の好きにやってみろ。村のことは、わしがまとめる」と力強く言ってくれた。
こうして、ミストラル村初の「お正月プロジェクト」が始動した。
まずは、食材集めからだ。
日本で使っていた食材が、この世界にあるはずもない。似たような食材を探し出し、代用するしかない。
僕の『食材鑑定』スキルが、ここでも大いに役立つことになった。
「まず、黒豆。黒くて、煮たら美味しくなる豆が必要だ」
「黒い豆なら、森の奥に自生している『闇夜豆』ってのがあるぞ。硬すぎて、誰も食おうとしないが」
村の猟師が教えてくれた情報をもとに、僕はリアナと一緒に森へ向かうことにした。雪深い森の中を進むのは大変だけど、リアナは獣人ならではの鋭い嗅覚と身体能力で、僕をぐいぐい引っ張っていく。
「こっちだよ、カナタ!この匂いだ!」
ふさふさの尻尾を揺らしながら、リアナは雪の上を軽やかに駆けていく。その姿は、まるで銀色の狼のようだ。
しばらく進むと、雪に埋もれた蔓に、黒く小さな豆がびっしりとついているのを見つけた。
【闇夜豆】
非常に硬い殻を持つ豆。魔力を帯びており、普通の調理法では柔らかくならない。一昼夜、清らかな水に浸し、特殊な灰汁で煮込むことで、類まれな風味と栄養価を持つ食材に変化する。食べると魔力回復効果がある。
『これだ!ビンゴ!』
特殊な灰汁、という部分が気になるけど、それは『調理魔法』でなんとかなるかもしれない。
「リアナ、すごいよ!よく見つけたね!」
僕が褒めると、リアナはちょっと照れくさそうに、でも嬉しそうに尻尾を振った。
「えへへ。カナタの役に立てて、嬉しいな」
その笑顔が、雪景色の中でひときわ眩しく見えた。
次に必要なのは、栗きんとんの材料。栗と、さつまいもだ。
栗に似た木の実や、甘い芋。心当たりはないか村で聞き込みをすると、今度は村の子供たちが教えてくれた。
「南の崖の下に、甘い匂いのする黄色いイモが生えてるよ!」
「『甘蜜イモ』って言うんだ!でも、崖が急で、危ないから行っちゃダメだって言われてる」
子供たちの情報をもとに、僕とリアナ、そして村の若者数人で南の崖へ向かった。
確かに、崖の中腹あたりに、黄色いイモをつけた蔓が垂れ下がっている。
ここは、リアナの独壇場だった。
彼女は狼獣人の力を解放し、鋭い爪で崖を駆け上がり、あっという間に大量の甘蜜イモを収穫してしまった。
【甘蜜イモ】
蜜のように強い甘みを持つイモ。火を通すと、ねっとりとした食感に変化する。栄養価が非常に高く、疲労回復に効果がある。
これも大当たりだ。
他にも、紅白なますの代わりになりそうな、赤と白の根菜「双子大根」や、伊達巻の卵の代わりになる巨大な鳥「ロックバード」の卵など、村人たちの協力と『食材鑑定』のおかげで、おせち料理の食材が次々と集まっていく。
それはまるで、村全体で挑む宝探しのようだった。
一人じゃできないことも、みんなで力を合わせればできる。
食材を集める過程で、村人たちの間に確かな一体感が生まれていくのを、僕は肌で感じていた。
これは、ただの料理作りじゃない。ミストラル村の、新しい文化が生まれる瞬間に、僕たちは立ち会っているんだ。
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