第3話「『調理魔法』の可能性」

 スノーウィードのスープは、村にちょっとした衝撃を与えた。


 今まで家畜の餌にしかならないと思っていた雑草が、極上のスープになる。その事実は、村人たちの固定観念を打ち破るのに十分だった。


「カナタ、すごいよ!みんな、昨日のスープの話で持ちきりだよ!」


 翌朝、リアナが興奮気味に報告してくれる。彼女のぴこぴこ動く耳と、ぶんぶん揺れる尻尾が、その喜びを全身で表現していた。


 僕も嬉しかったけど、課題はまだ山積みだ。スープだけでは腹の足しにならないし、何より「保存」が利かない。この村で最も重要なのは、厳しい冬を越すための保存食だ。


『そこで、もう一つのスキル……『調理魔法』の出番だな』


 僕は再び厨房にこもり、スキルについて考える。


『調理魔法』。名前からして、火を起こしたり、水を沸かしたり、そんな感じだろうか。試しに、鍋の中の水に意識を集中し、『沸騰』と念じてみる。


 すると、鍋の水がぐつぐつと、一瞬で沸き立った。火にかけてもいないのに。


『おお、すごい!』


 これは便利だ。次に、塩漬けの干し肉の塊に手をかざし、『塩抜き』とイメージする。すると、肉の表面からじわりと塩分が抜け、水滴となって浮き出てきた。


『なるほど。調理に関わる工程を、魔法でショートカットできるのか』


 これなら、色々なことができそうだ。


 僕は早速、村の若者たちに声をかけ、スノーウィードの根を大量に集めてきてもらった。そして、昨日と同じ手順でデンプンの粉を作る。


 次に、残った繊維質の搾りかす。これも『食材鑑定』で調べてみると、【食物繊維は豊富だが、硬すぎて食用不可。乾燥させれば良質な燃料になる】と出た。無駄がない。素晴らしい。


 作ったデンプン粉を使って、今度は「パン」を作ることにした。と言っても、小麦粉じゃないから発酵はしない。日本でいう「餅」や「団子」に近いものだ。


 デンプン粉に水を加えてよく練り、平たく丸めて茹で上げる。もちもちとした食感の、真っ白な団子ができた。これだけでも十分美味しいけれど、保存食にするにはもうひと手間必要だ。


 僕は出来上がった団子を薄く切り、乾燥棚に並べた。そして、そこで『調理魔法』を発動する。イメージするのは『乾燥』。


 すると、団子から急速に水分が抜けていき、数時間でカチカチの干し餅が出来上がった。これならカビる心配もないし、長期間保存できる。食べるときは、スープに入れたり、焼いたりすればいい。


「すげえ……カナタ、お前は魔法使いか?」


 手伝ってくれた村の男たちが、目を丸くして驚いている。


「まあ、そんなところ。これで、しばらくは食うに困らないと思うよ」


 さらに僕は、塩抜きした干し肉にも手を加えた。


 塩辛すぎる干し肉は、村の貴重な水を大量に消費してしまう原因にもなっていたんだ。


『調理魔法』で余分な塩分を抜いた肉を、薄切りにする。それを村の燻製小屋に吊るし、スノーウィードの搾りかすを燃やして燻していく。煙で燻すことで保存性が高まるだけでなく、独特の風味が加わる。前世でベーコンやスモークサーモンを作っていた経験が、ここで活きた。


 数日後、燻製小屋から取り出した肉は、美しい飴色に仕上がっていた。一口食べると、凝縮された肉の旨味と、スモーキーな香りが口いっぱいに広がる。


「う、うめえええ!なんだこれ!いつもの干し肉と全然違う!」

「噛めば噛むほど味が出る……!」


 村人たちの反応は、もちろん絶賛の嵐。


 以前の、ただしょっぱいだけの干し肉とは比べ物にならない。これなら、薄く切ったひとかけらずつで、黒パンを何個も食べられそうだ。いや、そもそもあの石みたいな黒パンを改良するべきか。


 スノーウィードの粉を混ぜて、焼き方を変えれば、もっと柔らかくて美味しいパンが焼けるはずだ。


 次から次へと、やりたいことが浮かんできた。


 僕が編み出した「スノーウィード餅」と「改良型燻製肉」は、ミストラル村の冬の食卓を劇的に変えた。食事の時間が、苦痛から楽しみへと変わっていったんだ。


 食事が豊かになると、不思議と村の空気も明るくなる。人々はよく笑うようになり、活気が戻ってきた。


「カナタ。お前は、この村の救世主だ」


 ある日の夕食後、村長のギードさんが、しみじみとそう言ってくれた。


「大げさだよ、ギードさん。僕はただ、みんなに美味しいものを食べてほしかっただけだから」


「その『だけ』が、誰もできなかったことなんだ」


 ギードさんの言葉が、じんわりと胸に染みた。


 料理人として、これほど嬉しい言葉はない。


 僕は、この村に来て、この人たちに出会えて、本当によかったと思った。

 この温かい場所を守るためにも、もっともっと美味しいものを作ろう。


 僕の『調理魔法』には、まだまだ無限の可能性が秘められている気がした。

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