第7話 期末試験な夏【2】
「うう……全っ然分からないよぅ」
「うう……全っ然分からないんだけど」
桃と緑は教科書と睨めっこをしながら、うんうんと唸り、頭を抱えていた。
桃は分かる。コイツにとって期末試験の勉強はあまりに壁は厚いし高いし突破できそうにもない。にしても、よくこの高校に入学できたと思うよ。ある意味、奇跡だね。
だけど緑は分からない。僕的にね。保健体育の教科書を読んで『分からない』ってなんだよ。怖くて訊くに訊けないよ。
「あのさ、二人とも。ちょっと根を詰めすぎじゃない? 少し休憩した方がいいって」
それを聞いて、桃は待ってましたとばかりに教科書を空に放り投げ、「よーし! 休憩! 休憩するぞー! やーっとクロちゃんから解放されたよー」と喜び勇んだ。
いや、別に僕は桃に勉強を強要してるわけじゃないんですが。教えてくれって言うから教えてるだけだから。なのに解放って。
「確かに。黒也の言う通りかも。息抜きって大切だもんね。私も疲れたし」
腕を組みながら真顔で言う緑だけど、お前が言うなよ。保健体育のエロいページを読んで『疲れた』とか。どこの思春期真っ只中の中学生男子だよ。
たまーに思うんだけどさ。男子よりも女子の方がめっちゃエロくない? 性欲半端ないというかさ。個人差はあるにせよ。
もしかして、緑って欲求不満? それを僕で解消しようとしてる? だったら怖い。マジで。コイツ、何を考えてるのか分からない時が多いから。僕の想像の斜め上どころか大気圏まで行ってしまうこともしばしばだし。
「ねえ黒也。アンタ今、私のことエロいだとか欲求不満だとか考えてたでしょ」
「そ、そんなことアリマセンヨー」
目が泳ぎまくっている僕である。何なのコイツ。エスパーかな? それとも読心術の使い手? 違うな。単に僕達が幼馴染で、お互いに思考の傾向を把握してるだけか。
と、いうことにしておきたい。
「さあさあ! 休憩中の桃ちゃんは無敵ですよー! 全力で遊びまくってやる!」
「全力でってなあ。頭と体を休めるための休憩だろ。それだと結局体力ゲージが減るだけだと思うんだけど。ちなみに桃。お前はこの休憩中に何をして気分転換しようとか考えてたりするのか?」
「うん、決めてる! 桃ちゃんを舐めちゃいけないなあクロちゃん。王様ゲームしようよ!」
「は? 王様ゲーム?」
それを聞いて、緑の頭の上のアンテナがピーンと立った。某妖怪漫画の主人公かよ。
「いいわね、それ。桃にしてはやるじゃない。私は乗った。黒也はどうなの?」
「どうなのって言われてもなあ。三人でやっても面白くないと思うんだけど。だってさ。王様が決まったら必然的に残りの二人が何かをしなきゃいけないことになっちゃうじゃん。黒子でも呼ぶか?」
その刹那。部屋の中の空気感が一変した。ピリピリと張り詰めた、息苦しささえ感じるこの空気。これも高校生になってからなんだよな。何故か黒子の名前を出すと二人の表情が険しくなる。
黒子もそうだったせど、なんなんだ一体。
「い、いいの! 黒子ちゃんは! それよりも王様ゲーム! 三人だっていいじゃん! クロちゃんに強制的にあんなことやこんなことをさせるチャンスだもん。うふふー」
「いや、ちょっと待て桃。何それ。僕に何かをさせるために提案したわけ?」
「そうだけど?」
どうしてそこまであっけらかんと言えちゃうかな……。緑もやたらとニヤニヤしてるし。もしかしてこの二人、打ち合わせでもしてたのか? だとしたら、ターゲットは僕ってわけか。これ、回避した方が良さそうだな。
「ごめん二人とも。僕はそれ、ちょっとパスさせてもらうよ。もっとさ、他のことを――」
「駄目。黒也に拒否権なんかないから。逃げようとか考えない方がいいわよ? それについても先回りして準備してるから」
「何の準備!? え? 拒否したら僕どうなっちゃうの!?」
「教えるわけがないじゃない。とりあえず、はいこれ」
部屋着の短パンのポケットから緑が取りい出したるは、三本の割り箸だった。その中の一つは、赤色で先端が塗りつぶしてあった。準備万端かよ。
覚悟を決めるしかないか。休憩で覚悟を決めるとか意味が分からないけど。
* * *
「どうしてこうなった……」
そう、一人ごちる。その声が独特の反響を帯びて僕に返ってきた。
「一応、隠してはいるけど……超不安だよ」
まさかあの王様ゲームがこんな事態を引き起こすだなんて思いもしなかった。タオルを着けたまま湯船に入るのはマナー違反ではあるが、今回ばかりは仕方がない。
だって、あの二人と一緒にお風呂に入ることになってしまったんだから。
『第7話 期末試験な夏【2】』
終わり
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