第6話 期末試験な夏【1】
月は七月。時期は半ば。
そろそろ暑くて熱い夏休みに入ろうとしている。きっと社会人の方々はこう思っていることだろう『学生さん達は気楽でいいねえ』、と。
が、しかし。そうでもないのだ。
夏休みに入る前には乗り越えなきゃいけない壁があるから。それは何か。言うまでもない。
期末試験である。
「あーもう! 分からない! 全っ然分からないんですけど!」
双葉家のリビングに置かれたローテーブルの前で、桃は絶叫。まあ、実のところはと言うと、僕にとっては期末試験なんて壁でもなんでもない。超楽勝。もしも壁があったとしても、せいぜいベニヤ板程度だ。これでも成績は優秀な方なんだよね、僕。
「絶対にさ、クロちゃんの教え方が悪いと思うの。だって桃ちゃん、頭いいもん! 期末試験なんて楽勝なはずだもん! こんなに悩むことなんかあり得ないもん!」
「また人のせいにする……。あのさ、桃。今は学生だからまだいいよ? モラトリアムみたいな人間がほとんどだし。でもな、社会に出たらそんな言い訳通用しないから。だから今の内にその癖直しなさい」
「もら、とりあむ? 何それ? お菓子の名前か何か? どういう意味か教えて」
「そこからかよ……」
そう。僕にとっての大きな壁は、コイツ。双葉桃という名の壁である。中学生の頃からずーっと勉強を教えているのだ。で、こんな感じ。いつもね。いっつも。だから僕にとっては桃が壁。コイツめちゃくちゃ成績悪いから。
「あらあら桃。そんな問題も分からないの? まあ、当たり前よねえ。だって桃だから。おバカさんだから」
ソファーに腰掛けながら余裕綽々といったニヤニヤ顔でこっちを見ているのは長女の双葉緑。挑発するなよほんと。さっき言ってたけどお前ら二人、期末テストが終わるまで一時休戦したんだろ? 何を休戦したのかは知らないけどさ。
まあ、緑は僕なんかと比べ物にならないくらい成績良いから余裕なのは分かるけど。だから『お前が教えてやれよ!』と言いたい。この辛さを体験してもらいたい。桃に勉強教えるのって、半端じゃなく疲れるんだからな!
「クソッ……。今に見てろよバカ姉。いつか桃の方が頭良くなってやるんだから。あと、胸の大きさも。バカ姉よりもデッカくなってやる!」
人と比較するのはあまり良いことではないけど、緑より頭が良くなることについてはぜひ頑張ってもらいたい。だけどな桃。胸はもう諦めな。女子の成長期って比較的早いから、だからたぶんそれ以上大きくならないと思うぞ? いわば完全体に近い。小学生並みのスタイルが完全体って訳が分からないけど。
でも、意外と違ったりして。競走馬とかポ◯モンとかにも大器晩成型は多いし。小学生スタイルから一気にカリスマキャバ嬢並みになるかも。
……うん。ないねそれは。
「ごめんな、桃。お前の希望を叶えてやれなくて。どうしたらいいのか、真剣にもっと考えるからさ」
「クロちゃん――」
「グオッ!!」
「クロちゃん優しいから大好き!!」
と、桃はいきなりのハグ。否。タックルをかましてきた。あのさ、ハグってもっとソフトにした方がいいと思うんだ。お前の場合、それ、ただの攻撃だから。
あと、『お前の希望を叶えて』って、どうしたらカリスマキャバ嬢になれるかどうかについてだから。勉強? 頭が良くなる? それは無理。
「ぐぬぬ……」
唇をギュッと噛んで、緑は悔しそうにこちらを見ていた。あー、そういえば緑の方がキャバ嬢っぽいかも。
いや、やっぱり女王様かな? そっちの世界のことには全然詳しくないけど。むしろ詳しい高校生とかめっちゃ嫌だし。
「ね、ねえ黒也? ここの問題、分からないから、お、教えてほしいんだけど……」
「は? 緑の方が成績良いじゃん?」
というか、いつの間にノートと教科書を持ってきてたんだよ緑。やたらとモジモジしてるしさ。
「わ、分からないものは分からないの! そんなことも理解できてないわけ黒也は? バッカじゃないの!」
「いや、分かるよ? お前、単に僕に勉強教えてほしいだけでしょ? で、桃みたいにハグする機会を得たいだけでしょ?」
「そ、それは……」
思った通り図星だなこりゃ。緑のやつ、一気に顔を赤らめてる。幼馴染だからそこら辺のことは分かるんだよ。付き合いが長い分。
「――分かったよ。教えてあげる。で、どこが分からないの?」
「こ、ここなんだけど……」
ちょっと指を振るわせながら教科書のソコを指刺した。で、その内容なんだけど。
「緑、お前……。これ、中学生の時の保健体育の教科書だし、指さしてるところ、性教育についてじゃんかよ……」
『第6話 期末試験な夏【1】』
終わり
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