第5話 とある少女のひとりごと

 一人の少女は悩んでいた。実の兄に本物の恋をしてしまったから。


「なんでお兄のこと、好きになっちゃったんだろう……」


 赤月黒也。それがこの少女――赤月黒子の想い人の名前である。


「なんかもう、隠し通すの無理かも……」


 逃げるように家を出た少女は公園のベンチに腰掛け、「はあ……」と深い溜息をひとつついた。しかし、溜息をつくたびに自分の恋心が膨らんでいく、そんな感覚を覚えた。


「あの二人みたいに、私も血が繋がってなかったらなあ」


 あの二人――双葉緑と双葉桃の顔を思い浮かべ、またひとつ溜息をつく。どうしようもない問題であることを理解しようと。だけど、その問題が消えることがないことも理解しながら。


 悔しく思い、悲しくも思い、羨ましくも思う。だけど、不思議と憎む気にはなれなかった。自分の恋敵であるにも関わらず。


「ずっと片思い、かあ」


 誰に言うでもなく、そう、一人ごちる。兄と共に過ごした子供時代のことを思い返しながら。


 そして――


「私も、勇気を出さなきゃ」


 自身にある種の決意を固め、無理やり言い聞かせるように呟いてから、少女は腰を上げて、両手を胸に当てながら力強く「よしっ!」と気合を入れた。


 小さな勇気をかき集め、決意を新たにして。



『第5話 とある少女のひとりごと』

 終わり


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る