15.爀烈
その熱し印に針を再度突き刺すことで、印の魔力と針の魔力を一点に集中させ爆発させるのが、
こいつを安定して単独で決められるかどうかが、主力三級と一人で対峙できるかの指針と言える。
そして、赤撃には『段階』がある。
二つの熱し印が重なった点に針を突き刺すことで、赤撃の倍の火力を生じさせることができる二乗赤撃・
こいつであれば、たとえ当たりが浅くとも主力級のヴィスカムまでは確実に仕留められ、さらに放たれる熱波で周囲の雑魚を一網打尽できる。
その赫炎撃の上、三重の熱し印に針を突き刺すことで発動するのが三乗赤撃・
主に
そしてこれの直撃に耐えられるヴィスカムは、記録上存在しない。
ちなみに、理論上はさらに上の段階の赤撃も存在するが、その使用は禁じられている。
* *
青空に黄金の光線が迸る。
『俺は東、お前は西! 後ろの上か下取れた方から仕掛けて、もう片方はフォロー!』
「異議なし!」
俺達は二手に分かれ、
奴の方もいよいよその機動力を隠し立てしない。空中を滑りながら6枚の翼を自在に動かし、俺とエリオットを狙いビームを放ち続けている。
だが、さっきより楽だ。
単純に、ビームが3本しか飛んでこない。先の交戦時は最大6本を警戒しなければいけなかったのだから、それに比べて回避は圧倒的に容易い。
(あとは接近の隙を見つけるだけだ)
(移動と攻撃範囲の予測こんな感じ)
レミアがイメージを思考リンクしてくるので、ありがたく活用する。
ヴィスカムは鳥の形を取る。
それはおおよそ、翼を持つ左右対称の形状を取るということだ。逆に、前後と上下は対称ではない。
いかに奴らが物理法則を軽視した魔力機動を行おうと、反応が鋭い方向、鈍い方向というのは、必ず発生する。
それが先ほど話した『後ろの上か下』だ。感覚器官が集中する頭部の逆側である。
縦横に乱れ撃たれる光帯をかわし、
あちらも、俺たちを同じ方向に捉えて一掃しようという動きをしている。足を止めれば相手の思うつぼだ。
(おっ……)
俺よりも先に攻めにかかったのはエリオットだ。浅い弧を描き、下方からの接近を試みる軌道だろう。
(大胆だな)
(挟み撃ちする?)
(……いや、目立ってやろう)
(もう1本!)
4本目のビーム。先ほどの攻撃と合わせ挟み込むような軌道だ。身をよじり、隙間を抜ける。装甲が光線に少しばかり触れたが、多少であれば大したダメージにはならない。
そして回避した先で反転し、
(気付いた)
俺に対する攻撃に躊躇が生まれた。エリオットの接近を悟ったのだろう。
だが、羽をそちらの方角に向けるにも時間はかかる。さらに俺のことも無視はできないーーヴィスカムの知性には限界がある。
結局、光線の割り振りは俺とエリオットに3本ずつだ。しかも数秒の思考を経ての判断。
それではダメだ。
それでは、
『一発!!』
ゴゥ、と炎の上がる音がした。
(損傷箇所マーク。尾羽の付け根……少し離れた左下)
「悪くない」
手堅い狙いだ。たとえ三重に印を刻んでの爀烈撃まで持って行けずとも、二重、あるいは素の赤撃で再生力の要の尾羽にダメージを与えられる可能性がある。
『うおっとと!』
攻撃に成功したエリオットへ、攻撃が4本集中した。予備装甲を犠牲に離脱するエリオット。対する俺は、既に前進を開始している。
「反応でやってるんじゃない……!」
初心者操士が受けがちな注意を口にしながら、熱し印に接近。2本の光線を切り抜ける。途中でエリオットに向けられていたうち1本が俺を見るが、もう遅い。
「二発!」
エリオットへ届くよう声を張り上げながら、横一線に針の掻き傷を刻みつける。エリオットのものと熱し印が交差し、更に激しく碧の炎が噴き上がる。
もちろん、
『三発目すぐ行くのは警戒されるか!?』
「そう思う!」
『オッケ! 三発目は任す!』
旋回しながら位置取りを調整していると、エリオットが幾分無防備に、頭の方へ接近した。これ見よがしに構えた針の尖端は、空に散った
俺も残る三翼からのビームを回避しながら、速度を上げる。
火花の混じった風が、
息の止まるような緊張感の戦闘機動に、ある種の安らぎすら覚える。
(ファレン)
レミアの戒めるような声音。
(気が散ってる)
(これくらいがいいんだよ)
(やめて。私が怖いから)
しょうがないやつだ。
(どっちが?)
(思考読むな)
エリオットが針で
X字に刻まれた熱し印から、碧色の炎が燃え上がり続けている。この交差地点に針を突き込めば、二乗赤撃、赫炎撃が成立する。
もちろんそうはしない。
『花火はハデな方が良い』
エリオットの言葉に、俺は大いに賛同する。
「三発ッ!!」
Xの中心に直線を刻む。
三重の熱し印が、激しい炎を噴き出している。それを受けた
「うおっとと……!」
小さな旋回を経て熱し印に針を突き刺してやろうとしていたが、五本もの光線に阻まれて断念する。
(これ……再生されないかな)
レミアがぽつりと呟いたーーかのように思考リンクをしてきた。三重熱し印が発する炎の大きさと、
(分からん……けど)
俺は素直に所感を返す。
(多分、あいつも無限に再生できるわけじゃないだろ。あの尾羽の数だけだ)
(それも結構な量に見えるけど)
(それでも上限はある。……だから
その点、エリオットが印を刻んだ箇所がうまかった。翼からは遠く、尾羽の、爆発すれば影響は及ぶが、直接延焼してダメージを与えることはなさそうな位置感。
どれだけ熱し印で激しい炎が上がっても、重要器官には影響しない。急速再生され、ここまでの攻撃が無駄になる可能性は下がる。
(エリオット動いた)
「おっ」
俺に攻撃が集中したということは、エリオットがフリーだったということだ。一本だけ向けられたビームに対し、あいつは予備装甲を犠牲にしながらの接近を選んだ。
(決めに行くつもりか……なら!)
俺に向けた攻撃が止む間際、あえて離脱速度を緩める。そして方向転換。エリオットとは逆側から接近する。
一度は俺への攻撃を緩めた翼が、再びこちらを見た。圧壊光線が放たれる。素直な動きだ。回避は容易い。
「それはダメだなあ……!」
これは
俺に向けられた翼がエリオットの方を向く。光が収束し、その進路を阻まんとビームが放たれる。
が。
(エリオットなら間に合う!)
『っらああああ!!』
エリオットは声を上げながらねじれた軌道で飛行し、光線の雨を掻い潜る。
右手の針を深く引き、視覚センサが熱し印の交差する一点を見据えている。
肉薄。一撃、突き刺す。
キイィ――イイイイイイィィィィ!!
エリオットが離脱する中、甲高い収束音が澄んだ空に響く。
重ねられた熱呪の魔力が、突きこまれた針の魔力と混ざり合い、
ッド ガ アア―――――― !!!
青い空に、赤い火球が爆ぜた。
緑を焼く太陽である。その内側に生存できるものは、何もない。
「……やったな」
『ヘッ、おうよ!』
エリオットと針の身を打ち合わせる。俺たちなりのハイタッチ。
ボロボロの予備装甲と煤の汚れが、どうにも格好つかなく思えたが、紛れもなく勝利であった。
(あとは、
(帰還したら、本番だね)
送られるレミアの思考に、思わず苦笑する。
(あっちが本番か)
(そうでしょ? だって結局――ファレンが一人で行くんだから)
その通りである。
この後俺は、少々の助けだけを受けて、単身にて基地員の事務所へ潜入しなければならない。
それは確かに、このアルギアで勝利するよりも、よほど困難であるように思えた。
次の更新予定
焦空戦機アルギア 浴川九馬馴染 @9ma
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