13.因果審判の舞踏

 前衛部隊は4機のアルギアで編成されている。

 先陣を切るのはエリオット。その後ろに俺が続き、さらに2機が横に並んで後続する。


(ついでに、ファレンの先行を防ぐ隊列でもあるよね)

(……昔よりは協調してるぞ)

(今だってうずうずしてるくせに)


 事実である。もう少し速度を出してもらわないと、なんとももどかしくむず痒い気分だ。



 まず俺たちを出迎えたのは、多数のクロウ級の群れだった。

 量が多い。普段は気にならない、森のざわめくような羽ばたきが聞こえるくらいに大量だ。

 俺たちはスティンガーでそれを掻き焼いて落とす。基本的にはアルギアの脅威にならない連中だが、あまり大量に来られると関節詰まりバードストライクを起こし、無視できない隙になる。



『……進行方向左、主力です!』


 その群れを抜けた頃、後方のアルギアから声が上がった。この2機は左右前方の探知に注力させていたのだ。


シュライク級が2……3……4。あっ、ペリコーン級っ……シュライク級3にペリコーン級1です!』

『こっちでも確認したけど異議なし。燃料岩投下のおかげで地上はそこそこ焼けてるし、コック級はいなさそう?』

『確認中。右は?』

『大丈夫! 遠くで後衛部隊が交戦しているみたいだけど……!』

『緊急信号がない限りそっちは任せましょう』


 4人のスロウドライバー進戦操士が探査と情報共有をテキパキ進めてくれる。その間に俺たちファストドライバー決戦操士ができることは少ない。

 変にあれこれと考えると、思考リンクでスロウドライバーの整理の邪魔になることもあるからだ。



(こんな感じだね)

 ほどなく、レミアが周辺地形と敵の座標イメージを共有してくる。

コック級が潜伏してる可能性がある範囲は?)

(こう)

 それらのイメージに図形をかぶせてくる。


(……進路から外れて接近してくる連中を迎え撃つと少し危険、か)

 燃料岩による事前攻撃のおかげで、身を隠せる地上の森は随分減っていた。

 それを元に進路を決めたのだから、進路通りに進めば安全、進路から外れて危険なのは当然である。

天鸖ヴィドフニルの攻撃射程も考えると……)


「エリオット!」

『おう! 俺も頼もうと思ってたとこだ』

「軽く叩いて戻って来る」

『いいんだぜ? 全滅させてくれても』

「行けて3体だ。全部は無理。ペリコーンは確実にやるから」

『早く帰ってこいよ!』



 前後を塞がれた窮屈な隊列を外れて、姿勢を深く前傾させる。背の翅から強く炎を噴かせて。


「速度上げる」

「風力計算するね。……どう叩くつもり?」


 ヴィスカムは精密な隊列を組むことはないが、それぞれの性質によって適切な順番に並ぶくらいの知能はある。

 今回の場合、シュライク級3体が漫然と横に展開し、その後方にペリコーン級だ。


「中央に突っ込んで、相手がこっち見たら大きく迂回。方角は風向きに合わせる」

「うん」

「側面のどっちか小突いて、ペリコーンが動いた所を後から落として、その頃には合流に都合良い感じになってるはず」

「……『行けて3体』じゃなくない?」

「あれはカッコつけただけ」



 はたして、そこからの動きは俺の話した通りになった。

 高速で接近する俺に対し、3体のシュライク級が前進速度を落とし、緩やかに包囲するような恰好になる。

「風向きは……こっちだな!」

 アルギアは風に合わせて向かって右方へ加速し、そこにいたシュライク級を一撃。深めに熱し印ヒートサインを刻んで、後方へ抜ける。


「来る」


 そうするとペリコーン級が動く。

 ヴィスカムの中での奴の役目は、給水だ。

 木々が根付くのが難しい不毛の大地に水を撒くことも仕事であるらしいが、俺の知るペリコーン級の動きはおおむね二つ。


 ジャアアア!!


 そのうちの一つが、消火。魔法で激しい水流を放ち、遠隔から燃え上がった森やヴィスカムを消火する。

 刻まれた熱し印が再度の着火してくれるものの、濡れた樹は燃えづらいものだ――それはヴィスカムも変わらない。

「命中した。火、消されてるね」

 先ほど俺が印を刻んでやったシュライク級も、羽ばたきながら復帰し、俺を追ってくるだろう。


 別に構わない。

 今の俺の目的は、これを撃たせることだ。


 ペリコーン級が交戦時に取る二つ目の動きが、氷の刃を降り注がせる攻撃。

 小さな――とはいえ人間の半分くらいのサイズはある、鋭利な氷を雨のように振らせてくる攻撃だ。

 もちろんこんなものでは予備装甲も昀鏻鉱シャルティタン装甲もさして傷つかない。が、しばしば関節に入られて、そうなるとアルギアの駆動系が麻痺したようになり、しかもこれが結構長く続く。

 脅威ではなくとも、アルギアの飛翔を妨げられる感覚がたまらなく嫌だ。


 そしてその氷の雨は、水流と同時に出すことはできない。



 ロールしながら水流を避け、速度を落とさずペリコーン級へ接近する。

 大きな翼はシュライク級のように硬質化していない、樹の幹と苔色の葉。

 頭部に当たる部位は小さいが、長く伸びた嘴と、その下部に袋のような部位を持つ。魔力を溜め込み、魔法を発動するのはこの袋の内部器官だ。


 ざさ、ざさ、と羽ばたき距離を取りながら、袋の中から冷たい光が放たれる。が、

「もう遅い!」

 その袋に深々と熱し印を刻み、着火。翅からの炎の噴出を片側に絞り、最短距離の旋回をして、その印に針を突き刺す。

 赤撃インパクト、成立。


  ドオン……――


 ペリコーン級が魔法袋から爆散する音を背後に、俺はシュライク級3体の側面に回る。

 1体が正面からこちらに向かってきて、残る2体は迂回して側面から攻撃をしてくるだろう。


 ところで、正面のシュライク級の身体は濡れており、その中央ではまだ熱し印があおい光を帯びている。


 猶予ある間合いを維持してて振り下ろされる刃翼を弾く。

 普段のシュライク級は、自身が攻撃を受けた部分を防御する振る舞いを見せる。が、こいつは違う。

(炎が消えれば無事だと思っちまう、よな!)

 ペリコーン級に消火された熱し印を、こいつらは防御すべき損壊と認識できない。

 だから無防備になった瞬間距離を詰めて、残っていた熱し印に針を突き刺すことは、そう難しくない。

 赤撃、成立。


  ドゴ、ォン!!


 反転し、爆風を背面から受けて速度をつける。回り込んでいたシュライク級をあしらい、加速。

(2体やれたね)

(上手くハマっただけだ。こっからもう1体はまあキツい……!)

 レミアと思考を交わしながら、エリオットたちと合流する方角へと飛ぶ。



 が。


(……来る、ファレン!)


 進行方向の先、ちょうどエリオットたちがいる辺りに、帯状の光が降り注いだ。

 遅れて、破砕音。木々がバキバキと折れ、大地が砕け弾ける音である。


 発生源を確かめる必要もない。角度で分かる。

 それを放ったのは、集樹ネストのてっぺんに鎮座する、黄金の天鸖ヴィドフニル



「準備運動は終わりって訳だ」


 知れず、俺の口角が釣り上がる。


「仕掛けるぞ……!」

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