エピローグ 焦げたハンバーグと、騒がしくて愛おしい日常。

 部屋の中に、何かが焦げる匂いが充満していた。

 換気扇が唸りを上げているが、煙はなかなか消えない。


「あちゃー! ごめん湊くん、またやっちゃった!」


 キッチンから梨花の叫び声が聞こえる。

 エプロン姿の彼女が、黒焦げになった物体が載った皿をテーブルに運んできた。


「火加減、強すぎたみたい……。でも、中は焼けてるから!」


 彼女はテヘッと舌を出した。

 テーブルの上には、形が不揃いなハンバーグと、少し柔らかすぎるご飯。

 テレビからはバラエティ番組の音が大音量で流れていて、部屋の隅には梨花が読み散らかした雑誌が置かれている。


 ――静とは、正反対だ。

 あれは、いつも無音で、埃ひとつなく、料理はレストランのように完璧だった。


「……いただきます」


 俺は焦げたハンバーグを口に入れた。

 苦い。そして、しょっぱい。

 でも、噛み締めると、不思議と温かい味がした。


「どう? やっぱりマズい?」


 梨花が不安そうに覗き込んでくる。

 俺は箸を置いて、彼女の目を真っ直ぐに見た。


「梨花」


「え、なに? 改まって」


「ごめん」


 俺は頭を下げた。


「えっ」


「今まで、ひどいことしてごめん。お前の気持ちが重いって決めつけて、ちゃんと話し合おうともしないで……一方的に別れて、逃げ出して。本当に悪かった」


 それは、ずっと胸につかえていた棘だった。

 静の狂気に触れて、初めて分かったんだ。

 梨花のあの必死さは、不器用すぎる愛の裏返しだったってこと。

 俺と繋がっていたくて、必死にもがいていただけだったってこと。


「……湊くん」


 顔を上げると、梨花が泣きそうな顔で笑っていた。


「遅いよ、バカ」


 彼女は身を乗り出して、俺の頬をつねった。


「すっごい寂しかったんだからね。毎日泣いてたんだからね。……でも、許してあげる」


「…ありがとう」


「その代わり! これからは隠し事なしだからね! LINEもすぐ返すこと! わかった!?」


「……努力するよ」


「『絶対』でしょ!」


 俺たちは顔を見合わせて、吹き出した。

 面倒くさい。うるさい。

 でも、この騒がしさこそが、俺が生きている証だ。


 ◇


 あれから、霧島静は学校に来なくなった。

 噂では、急に転校したらしい。

 彼女が最後に何を思ったのか、どこへ行ったのかは誰も知らない。


 ただ、一つだけ分かることがある。

 彼女の「完璧な世界」には、きっと俺たちのようないびつな人間は不要だったのだ。

 彼女は今もどこかで、新しい「完璧なサンプル」を探しているのかもしれない。

 でも、もう関係ない。


「ねえ湊くん、週末どこ行く?」

「家でゲームしようぜ」

「えー! たまにはデートらしいことしようよぉ!」


 隣で梨花が騒いでいる。

 俺は焦げたハンバーグを頬張りながら、苦笑いした。


 完璧じゃなくていい。

 傷つけ合って、喧嘩して、それでも寄り添い合う。

 そんな泥臭い日々を、俺はこれから彼女と生きていくのだ。


「わかったよ。……行こうか、デート」


「やった! 大好き!」


 梨花が抱きついてくる。

 その体温を感じながら、俺はようやく、本当の意味で「自分の居場所」に帰ってきたのだと思った。


完結

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

完璧な管理よりも、泥臭い人間らしさを選んだ湊と梨花。

「焦げたハンバーグ」こそが、彼らにとっての本当の幸せの味でした。


……ですが。


もし、あの時。

湊が違う行動をとっていたら…?

正史は完結しましたが、IFルートも読んでいただけるとうれしいです!


この物語を楽しんでいただけたなら、ぜひ【★3つ】と【フォロー】で評価をお願いします!


それでは、また次の物語でお会いしましょう。

残念ですが、さようなら。

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