第13話 日常が変わっていく、のか?
翌日朝。心地よい目覚めだ。
1人暮らしにもすっかり慣れたものだな。
と、簡単な朝食を済ませた俺は思う。
さて、今日は掃除するか。
俺は、全部屋を確認して、埃を落とし、必要な部分を拭き取って、掃除機をかける。
親の寝室も、掃除機くらいはかけておこう。もうここには、家具は残っていない。一応、こっちに来たときに泊まれるように、布団が2セットおいてあるだけだ。棚の中には、衣類とかはあると思うけど、そこは開けない。
次、姉貴の部屋は、ほぼそのままだ。
俺は、掃除機をかけた後、横に置いてあるローテーブルを部屋の真ん中にセットした。
懐かしいな、よくここで勉強させてもらったっけ。
向こうの机では姉貴が勉強していた。
ふと見上げると、姉貴のさらさらした髪が、エアコンの風が来たときにふわっと揺れて、なんだろうか、それを見た俺は、俺は凄く落ち着くとともに、更にやる気が増すような気がして、また勉強に集中したっけ。
姉貴は、中学生の俺には難しそうな、法律関係の本を読みつつ、集中して勉強していたんだよな・・・。
昔を思い出しつつ、俺は、再びローテーブルを立てて、部屋の隅に置き、姉貴の部屋を出る。
いつもは簡単にしかやってないトイレも、念入りに掃除した。
姉貴は掃除をしてなくても、絶対怒ったりしない。
「隆太、掃除するよ、今日は」
といって、一緒に掃除をすることになるだけだ。
掃除は好きではないけど、姉貴と一緒にする掃除は嫌いじゃない。
でも、言われる前にやった方がいいよな、一生姉貴の指導を受けているわけにはいかないんだから。
窓ふきとか、いつもはあまりしない掃除したためか、結構時間を使ってしまった。
まだ少し先だけど、昼は何を食べようかと思っていたら、食卓に置いてあったスマホが鳴動しているのに気が付いた。
急いでスマホを確認する。「野中美鈴」と表示されている。通話らしい。
「もしもし」
「やっと出たか。何やってたの。」
「掃除してた。」
「何それ珍しいね。宝くじあたるんじゃない?」
何だそれ。雨降るんじゃないとかなら聞いたことあるけど。
「で、何でしょ?」
「隆太、私に報告し忘れていることあるよね。」
え、宮下のこと、何で知ってんの?
「いや、ちゃんと断ったし。報告するまでもないかな、と。」
少し間をおいて、美鈴は言った。
「何それ、またあんた弥生になんか言われたの?」
え、知ってるんじゃないの、わ、いらんこと言ってしまった。
「なーんもないでーす。」
とりあえず、かわいこちゃん風に言って見る俺。
「そっか、またどうせ弥生の押しに負けて、どっか連れてかれたんだな。このクズ、カス、ドスケベ野郎。」
だから、そういう言葉遣うんじゃないよ、はしたない・・・、いや、そういう話じゃなくって、美鈴様には通用しませんでした。とほほ。でも、俺はクズ男でもないし、カス男でもスケベ男でもないぞ。あ、論点はそこじゃないか。
「だからさあ、恋人同士に戻ろうとか、つまんないギャグかまされたから、冗談はよせって、しっかり断ったって。」
美鈴は、一瞬間をおいてから言った。なんか、溜息みたいな雰囲気。
「どうせ、歯切れの悪い受け答えしたんでしょ。全くもう、なんで毅然とした態度が取れないの!」
やべ、美鈴切れてる。冗談ぽく言ったのがお気に召さなかったのか。
「だってだって、宮下はもはや友達ですらないけど、クラスメートだし、そんな喧嘩売るようなことしなくたっていいじゃないか。まあるく収めようよ。」
「ま、まあ、そこはあんたの良いとこですけど!でも、報告なしってのはダメ!そうね、ちょっと出てきて!釈明させてあげるから。」
なんだよ出て来いって。どうせ、昼飯相手がいないだけなんだろうな。でも、それ言ったら拗ねられてもっと大変なことになりかねん。よし、ここは、大人の対応だな。
「わかったよ、これから大学の方に向かうから。」
「なら、駅前で待っててあげる。大学の方の出口のあたりにいるから。」
と上機嫌な感じでもあったので、まあいいかということで、俺は急いで支度をして、着替えをして家を出た。決して押し負けたわけではないぞ。
お彼岸の頃とは言え、まだ日中は暑い。暑さ寒さも彼岸までとは、よく言ったものだ。
大学の最寄り駅に着くと、俺は急いで大学側の出口にむかう。
おおよその到着時間はすでに美鈴には連絡済み。
あれ、いない?急用でもできたのか?それとも、場所違いか?向こうも探してみるか。
と、俺は引き返そうとしたのだが、
「何逃げてんの?私ずっと待ってたんだけど。」
と言いつつ、美鈴が脇から出てきた。
「だって、見当たらなかったし。」
「少しは探してよ。そうですか、どうせ私は目立ちませんよ、可愛い従妹ちゃんとは違いますから。」
やべー、また面倒臭そうな結界の奥に吸い込まれそうだな、こいつ。
「ていうか、いつも目の前に出てくるじゃんか。何で脇でこそこそしてるんだよ。」
「ちょっとメール確認してたの。真ん中にいたら、迷惑でしょ?」
「まあ、悪かったよ。腹減ったんだろ?とりあえず何か食べよ。」
「子供じゃないし。あんたと一緒にしないでよ、全くもう。」
とか言っているが、とりあえず魔界に入らなかったようで、助かった。
「じゃあ、商店街の奥のカフェで食べよ。」
と、美鈴がいつもの調子で言った。
「了~解。」
大学の後期が始まっておらず、商店街にやってくる学生は多くない。また、12時前ということもあって、スムーズに着席できた俺と美鈴である。
注文を終えた後、早速尋問が始まった。
「で、また弥生に言い寄られたんだって?なんであんたは隙だらけなの?ほんとは未練あるんじゃないの?男子から見て弥生はいいオンナらしいし。」
美鈴さん、軽くお怒りのご様子。
「何でだよ、真っ平御免だって美鈴も知ってるだろ?あんとき宮下の姿が遠くに見えたから、やべって思って、部室に引き返して1時間隠れて、もういないだろうって思ったら、待ち伏せてたんだよ。俺如きにさ、女子がそこまで熱意あるなんて想像できないだろ、普通。不可抗力でしかないだろ。」
運命とか偶然も、宮下にとっては創造するものなんだよな、恐ろしいと思ったぜ。
「ちゃんと断ったんだろうね?」
と、疑い深い目をしながら言う美鈴に対して、俺ははっきりと言った。
「下らない話に付き合わせるなって言ってやった。」
美鈴は大きくため息を吐いた。
「何ドヤ顔で言ってるの。だからさ、一応告られたのだから、そんな時はね、御免、そういう話は受けられない、とか、悪いけどその気持ちは受けられない、とか、御免なさい、お断りしますとか、はっきり断るべきなの。あんたが中途半端に逃げるような感じだから、弥生も押せば何とかなるって勘違いしちゃうんだよ。あんたが100%悪い!」
「だって、歓迎は絶対しないけど、一応、同じコースの・・・」
「はいはい、わかったよ。ほんとに隆太は他人を悪く言わないんだよね。優しすぎるというか、悪く言えば優柔不断って言うか!」
後半に力入ってる気がしたのですが、そう言われてもね。
俺がちょっと俯き加減でいると、美鈴が更に話し始める。
「私はね、怒ってる訳じゃないよ。むしろ心配してるんだよ、隆太を。わかってる?」
あれ、おねえちゃん?違うよ、美鈴だ。美鈴にも言われてしまったな。
「うん。いつもありがとう。」
「全くもう、わかってるならいいんだけど。また弥生に言い寄られたら、すぐに連絡してよ。私が全力で守ってあげるから。」
いや、そこまでしてもらわなくても、い、いや、よろしくお願いするしかなさそうだね。ていうか、そうだ、前に俺がお願いしてたわ。忘れてた。
俺の心を読むかのように、表情が変わるのが、ちょっと怖い。
「わかったよ。すぐに連絡する。」
「全くもう、隆太を呼び出したのはね、そんなことのためじゃないんだよね。他に報告してないこと、あるよね?」
「いや、それっておかしくね?仲の良い友達でも、話す必要がないことだってあるだろ。」
「ふうん、そうですか。沙友里と随分と仲良くしてるらしいじゃん。」
そうか、沙友里、昨日中に美鈴に話したか、メッセージ送ったんだな。
「ああ、その話か。昨日、沙友里が食事しようってメッセージくれたので、ファミレスで食事しただけだよ。あ、ファミレスで食事だから、デートでないことは明白だし、それに、友達のお誘いを断るなんて失礼だろ。」
噴き出す美鈴。
「あんた、女の子に誘われたら、誰でも即決OKなわけ?」
何だよ、その呆れた顔は。
「違うだろ、宮下の件は断ってるし。」
「それにさ、何よ、軽井沢では中町さんって呼んでたのに、もう沙友里なわけ?」
こいつ、時々面倒臭くなるんだよな。女子ってそういうものなの?姉貴はそんなこと絶対ないのに、でもそんなこと話したら、超シスコン野郎とかって罵倒されるだけだろうし。
「だってさ、軽井沢ですでに、沙友里は俺のこと、隆太君って呼んでたんだぜ。そうだよ、あれから、何度もメールやらメッセージ交換してるわけだし、少なくとも、向こうは俺のこと隆太って呼んできても不思議はないだろ?ね?そうすると、俺が沙友里って呼ぶのも、全くもって自然な流れだぞ。」
我ながら、これを流ちょうに言い切れたのはすごいな。そりゃ、真実を語っているんだから、当然なんだけどさ。
「あんた、段々とクズっぽさが板についてきた、というか、生来のクズ体質が滲み出て露呈してきたって言うか・・・どうせ、沙友里は可愛いなあ、もっと仲良くなりたいなあ、とか思ってて、渡りに船だったんじゃないの?」
くそくそ、良いところ突いてきやがったな、じゃないよ・・・美鈴さん?溜息混じりなのはなぜですか?なぜそのような呆れ顔なんですか?
「だって、折角仲良くなった貴重な友達だぜ?俺は友達多くないし、まあ、美鈴とか、四井とか、木村とか、サークルの仲間とかしかいないんだぜ、いいじゃんか。」
「それだけいれば十分じゃないの?それに、沙友里と結構いい感じだったんじゃないの、お店変えてお話ししよっというような雰囲気だったらしいじゃん。」
今度はふくれっ面になった。忙しいな、美鈴。
「まあ盛り上がったかもね、でもさ、俺、その日宮下対応で激疲れだったからさ、ファミレスでお開きにしたんだ。」
沙友里がこの雰囲気だと店変えて、また、それから、とか言ったことは黙っておこう。うん、沙友里とのことは、全部を美鈴に言う必要はないわけだし。
そもそも、俺からそういった気は起きないんだしさ。
あれ、美鈴、何か考えてる?
「詳細な報告ありがとうね。何となくわかったから、もういいよ。でもね、隆太、大多数の他人から見るとね、隆太は普通じゃない、いや、世間一般の男子とはかけ離れた存在なの。それを理解しないとね、女の子にとっては、劇薬みたいに危険な存在なんだよ。でもね、それを理解するにはね、結構時間とか機会が必要なの。特に女子にとってはね。だからね、その気がないならね、もう、はっきり言うとね、恋人にする気がないのならね、毅然とした対応を取った方がいいんじゃないのかな。もし、相手がそういった素振りを見せているならさ。」
何だろう、俺が乗り移ったかのような、長くて、回り諄くて、すごくわかりにくいけど、この実感がたっぷり込められたような力説。
それに、美鈴は、もしかして、沙友里と俺のあのときの雰囲気を知っている?そうか、沙友里が話したってことか。まあ、2人は高校時代からの友人だし、それはそれでいいんだろう。
でも、俺はやっぱり話すつもりはない。
美鈴の言いたいことはよくわかるし、こんな俺と友達でいてくれる美鈴には感謝しかない。
でもさ・・
「だって、可愛いんだもん・・沙友里は。私は普通だから、みたいなこと言ってたんだけど、そうかもしれないけど、その何というか、ちょい可愛いみたいのが俺にとっては超可愛くて、そういう女の子とは、もっと仲の良い友達になりたいって思うのは、仕方がないんじゃないのか。」
との俺の力説を聞いた美鈴は、脱力したようになってしまった。
「隆太だから、仕方ないのかな・・・じゃない!誤魔化されないんだからね。何さ、どうせ私はメガネの地味子ですよ、沙友里みたいに明るくきゃぴきゃぴしたりしませんよ、みどりちゃんみたいに、上目づかいでオネダリして甘えたりしませんよ、私なんていてもいなくてもどっちでもいい存在ですよ、ぶつぶつ・・・」
だんだんとフェードアウトするように小声になっていく。うわマジやべえ、美鈴が魔界に吸い込まれちまったよ・・・。
結局俺は、表情をなくして動きが鈍くなってしまった美鈴を放置するわけにもいかず、店を変えて、いつもの喫茶店に連れて行き、美鈴を必死に宥めた。
大変だったけど、しょうがないだろ、親友なんだからさ。回復するまで付き合ってあげるのが普通だよね。
でも、デザートご馳走したら、回復したんだよな・・・あれ?そうか。またやられた。
くそくそ、あいつ今頃、<隆太は学習しないからな>とかほくそ笑んでいやがるんだろうなあ。
*
そもそもあいつの策略だったのかもしれないけれど、どうにか美鈴を正常な状態に戻した俺は、とりあえず自宅に戻ったが、結構疲れてしまったため、もう一度外に出て近所の弁当屋さんで弁当を買って、夕食にした。
食後、ようやく落ち着いたなあと、思っていると、スマホが鳴動する。
由香姉と表示されている。通話だ。
「隆太、沙友里って子とは、どうなってるの?」
ぶっ。いきなり、何で知ってるんですか、おねえちゃん。
確かに、昨日会いましたけど。
「いや、特にどうなってるもなく、友達なんだけど。」
「ふうん、どこで知り合ったの?」
「軽井沢で。友達の友達だったんだよ。」
「軽井沢ねえ。いつ、誰と行ったの?」
何で詰められるの・・・あれ、姉貴、なんか全てわかっておられるような?ヤバそうな予感が。
「8月の盆明け。姉さんが長野から帰ったあと。その・・、みどりちゃんと一緒に行った。」
「そうなんだ、受験生と一緒に遊びに、ね。しかも、おねえちゃんに、タスケテ、とか言ってたよね?それなのに、みどりちゃんと一緒、とはねえ。」
マジやべえ!
「だ、だって、誰もいないときに上がり込んできて、断れなかったんだよお。」
「隆太、続きはこっちで聞いてあげる。週末、うちにおいで。」
「いや、あの・・」
「来なさい。午前中に。」
「・・わかった。」
姉貴のご命令には逆らえない俺なのだ。仕方ないじゃないか、俺のおねえちゃんなんだもん・・・。
*
週末おいでって翌日来いってことじゃないか。
と思いつつ、俺は横須賀線電車に乗っている。
そう、昨日の夜、姉貴に来なさい、と言われたのだから仕方ない。
俺は着席しているが、3連休の初日のためか、電車は何となく混雑しているような気がして、気が休まらない。
いや、そうじゃないな。このところ、連日頭がフル回転だったから、ちょっと疲れているのだろう。
ふと、気が付くと、電車が北鎌倉を出て、トンネルを抜けたあたりだった。そこは、電車がガード上を通過するときに音が大きくなるところ。
電車の中で、俺は、いつの間にか寝てしまったらしい。
眠ったのは短時間だけど、何だろう、頭が冴えた気がする。
念のため、スマホを確認する。
姉貴が買い物をするように連絡してくることは、珍しくないんだ。
俺は、姉貴の家から見て駅の反対側にあるスーパーで姉貴の連絡通りの品物を買い、地下道をくぐって姉貴の家に向かう。小町通りを経由して左に曲がって、踏切、というルートもありだけど、あの混雑を見ると、そこを通る選択はなかった。
春休み中の学生である俺はあまり意識してなかったのだけれど、巷では3連休の初日だから、ここが混雑するのは当然だよね。
そんな状況の中を俺は姉貴の家に向かっていく。程なくして到着。
「ねえさん、こんにちは。」
姉貴の家に着いた俺は、買ってきたものを渡す。
「いらっしゃい、買い物、ありがとね。」
と、いつも通りの笑顔の姉貴って感じで始まったのだが・・・
「軽井沢では、みどりちゃんと恋人みたいにしてたらしいね。」
俺は、姉貴の尋問を受けている。
「そんなことないよ。そりゃ、長野からは2人で行ったのだから、見る人によってはそう見えたのかもしれないけど。」
「見る人によって、ねえ・・・。万人にそう見えたんじゃないのかな。」
姉貴は、溜息を吐きそうな感じで、自分のスマホを操作し、俺に見せてきた。
「何この写真。」
説明するまでもなく、あの可愛い女の子と、その子に密着されたデレ男のものでした。
この写真、どこまで出回ってるんだろう・・・。
「毅然とした態度はとれたの?」
もはや、何を言っても説得力ゼロだ・・・
「ふうん、とれなかったんだね。」
でも、一応言い訳しておく。
「だって、可愛いから。しょうがないでしょ?」
姉貴は、溜息を吐きつつ言った。
「全くもう。ま、何もなかった、と言ってもよさそうだから、良いのかな。そうそう、その沙友里って女の子と、一昨日会ってたって?」
なんでそこまで知ってるんですか、おねえさま。
「何で姉さんが知ってるんだよ?」
「隆太のことは、私には全てお見通しなのは知ってるよね?」
そうですけどそうですけど!でもおかしくね?
そうか、みどり経由か。責め立てられてたから、思いつかなかったけど、それしかありえないもんな。
「みどりと繋がっているとは、気が付かなかった。」
「あれ、知ってたんだ。そうだよ、みどりちゃんが報告してきたの。」
そうか、沙友里→みどり→姉貴ってことね。しかし、情報の伝達、早いなあ。
そして、姉貴の追及は続く。
「隆太は、その沙友里さんのこと、どう思ってるの?」
「うーん。まあ、ちょい可愛くて、気が合うなあって感じ。」
「そうじゃなくて、好きなの?」
それ、詰められても困る。
「よくわからない。」
「あ、そうだったね、隆太は。でもね、沙友里さんは、本気かもよ。」
「そう言われても・・・」
「じゃあ、はっきりと拒絶する?」
「嫌だ。気が合う友達を失いたくない。」
「隆太の気持ちはわかるよ。でも、向こうはそれで納得するのかな?」
「納得してくれないのかなあ。」
「私の印象でしかないけど、しかもまた聞きのようなものだけど、沙友里さんは、間違いなく隆太が好きになってるよ。でもそれ、わかってるよね、隆太には。」
うん、俺の感覚も、そう言ってる。なんとか、覆い隠そうと思ってるけど。
「でも、おねえちゃん、俺、好きとか、そういう感情、湧かないんだ。もし好きになったとしても、好きになった瞬間、それはあっけなく壊れる気がするんだ。小さいころから、そんなの見てきたし。」
「そうだったよね。隆太は優しいから、相手にそういったことをさせないって思うのかな。」
「去年は、好きになる前にフラれたような感じだったし。」
「そうね、でもあれは、あの女が最悪・・・その女のことはもういいや。考えただけで頭に来るんだよ、ふう。でも、沙友里さんは、そういったことをするって、隆太は思っているの?」
「そうは思ってない。むしろ、そういった思いをさせられたらしいから、そんなことはしないと信じたい。」
「そう、なら、答えは出たね。隆太、沙友里さんとお付き合いしなさい。恋人として。」
ちょちょちょっと、姉さん、『しなさい』って。いくら姉貴のご命令でも、それは聞けない。
「そもそも、そんな話になってないし。」
「そうかな。次に会った時に、告白されるんじゃないの?まあ、隆太から告白とかするわけないと思うし、それは、沙友里さんもなんとなくわかってると思うから、向こうからくるんじゃないかな。」
「それは・・わからないけど。そんなことはないでしょ。まだそんなに会ったことはないんだし。」
「女の子をなめちゃだめだよ。会った回数じゃないの。出会った瞬間に好きになるケースだってあるんだよ。それに、相手には、相手の気持ちがあるんだよって、おねえちゃんは言ったよね?」
はい、でも姉さん、それ、そんなに力入れて言う必要あるの?
うーん、姉貴がこんな感じで言ってくるときは、確信してるときなんだよな。
その日の夜。俺は姉貴の家で風呂に入り、パジャマに着替えている。
高校時代から結構こちら来ているので、姉貴の許しを得て、少し着替えを置かせてもらっているのだ。
今日着てきたものは、姉貴が洗濯しておいてくれるらしい。
ほんとに感謝あるのみ。
今は、姉貴の部屋とは別の部屋で布団を敷いて、休もうと思っていたところだ。
だから、前も言った通り、姉貴の部屋では寝ないんだよ、もう大人になったんだし。
そこに、沙友里からのメッセージが届いた。
<また会いたいな。>
<ついこの間、会ったような。>
<また日を改めて話そうって言ったよね?>
うわ、言い返せない・・・俺そのセリフ確かに言いました。
<うん>
<私なんかとは会いたくないの?>
<そんなわけないじゃん。>
<じゃあ、決まりだね、明日どう?>
何でそうなるの? そうだ、俺は自宅にいないんだから、会えない、で行けばいいんだ。
<でも、俺、今姉貴の家にいるから、東京にいないんだ。>
<え、長野に帰ったの?>
<いや、鎌倉。>
<いいな鎌倉。じゃあ、明日鎌倉で会おうよ。私行くから。>
などというやり取りがあり、また沙友里と会うことになった。
何でだろう。まあ、いいか。
3日前に会ったばかりだけど、何だろう、ものすごい勢いで、何かが動き始めてる、そんな感じ。
だって、沙友里、ちょい可愛いから、断れないんだよなあ・・
いや、俺だって会いたいんだろうな、どうせ。
次の更新予定
2026年1月16日 21:00
赤い糸なんて、いらねえよ 神津善九郎 @zen9_k
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。赤い糸なんて、いらねえよの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます