第12話 友達の友達から、友達へ
何故か俺は、中町沙友里さんと2人、ファミレスで食事をしている。
ここは、俺が通学に使う路線と他の路線が交差する乗換駅のもよりの場所だ。
そうだ、大学生なら初めてのデートでファミレスってのは無しだよって、誰かが言ってたんだけど、これは恋人とのデートじゃなくて、友達と食事してるだけだからいいよね?
それに、中町さんが誘ってきて、ファミレスにしようって言ってくれたんだから、尚更いいよね?いや、俺は酒がダメって言ったから、仕方なく、だったかもしれないけど。
「何考えてるの?落ち着かない雰囲気だよ?」
「いや、別に、何も。」
「ふーん、じゃあ当ててあげる。これは恋人とのデートじゃないぞ、友達と食事してるだけだぞっとか、じゃないの?」
うわ、何でわかるんだよお、女の子って。
「な、何でわかるの?」
「ほんとに君は判り易いね、美鈴が言った通りだよ。」
「・・・」
美鈴、俺のこと何気に観察してやがるからなあ。何も言えない・・・。
中町さんは、微笑みつつ、そんな俺をじっと見ている。
「実は、断られるかと思ったのよね。」
「何で?」
「だって、軽井沢で一回会っただけの友達の友達だよ、私たち。」
そうか、一回あっただけというのは、確かにその通りなんだよね。でもね、俺としてはね、中町さんのこと、すでに友達だと思ってるんだ。もう友達の友達ではないって。
でも、中町さんはそこまでではないのかな。
「軽井沢で一回会っただけっていうのは事実だけど、あれから何度もメッセージとかやり取りしてるしさ、もう友達じゃないのかなあって俺は思ってるよ。」
中町さんは、更に柔らかい顔つきになって言った。
「そうね、うん。そうだよね。」
「それに、軽井沢では、美鈴とみどりの間を上手く取り持ってくれて本当にありがとう。みどりにも随分気を使ってくれてたよね。中町さんがいてくれて、ホントによかった。」
ほんと、みどりがあれだけ美鈴を意識するとは思ってなかったし。
「そ、そう?ちょっと照れるな。照れついでに言っちゃうけど、沙友里って呼んでくれていいよ。」
え?名前呼び?でも、何だろうか、それもアリな気がした。
「・・沙友里さん?」
「いい感じ。でも、先輩じゃないからなあ、沙友里だけにして欲しいな・・・」
う、名前呼び捨てか、今は美鈴ぐらいだよな。咲ちゃんは咲ちゃんだし。でも、美鈴の友達だからな、ここは平等の観点でいくか。
「わかったよ、沙友里。」
「うれしいな、隆太。」
俺のことも隆太君から隆太にされてるし、何か、ちょっと恥ずかしい。なぜかわからんけど。
そして、沙友里は、
「美鈴に怒られちゃうかな?」
とか、不思議なことを言いだした。
「何で美鈴が怒るの?」
って言ったんだけど、沙友里の顔が、ダメだこいつ、みたいな感じになったぞ、何で?
「まあ、いいけどね、私としては。」
よくわからんけど、沙友里がいいならいいか。
「ちょっと聞きたいんだけど、みどりちゃんって、ほんとに隆太の従妹なの?雰囲気とかあんまり似てないよね。それに、隆太が童顔だから、可愛いみどりちゃんと、ほんとに高校生カップルみたいだったよ。」
はいはい、私は近年実年齢マイナス2歳くらいに思われることが多いです。
「間違いなく従妹だよ。俺としては、沙友里たちのおかげで、みどりが楽しそうで受験勉強の良い気晴らしになったみたいだったし、さっきも言ったとおり、本当に感謝してるんだ。」
「まあそうだよね、すでにラブラブメッセージ交換中なのかな?と思ったら、あのときみどりちゃんが便乗するように、「私も!いいでしょ!!」とか言いながらアドレス交換していたので、そっか、やっぱり従兄妹同士なのね、とは思ったけど。それに、隆太って結構従妹思いなんだろうなあって。」
「普通、従兄妹同士なんてあんなもんじゃないの?」
「ふつう?えー?従兄妹同士で腕組みはしないし、あんなにべったりくっつかないよ、フツーは。それに、従妹にくっつかれてあんなデレ顔するとはね。」
まあ、そうかもしれないけど・・。
「しょうがないじゃん。」
「何それ?」
「だって、みどり、可愛いんだもん。」
噴き出すように笑いだす沙友里。
「何それ、開き直ってるの?ていうか、明らかにみどりちゃんが隆太にぐいぐい迫ってる感じだったよね?隆太がちゃんと抑えてあげないのが悪いんじゃないの?」
う、姉貴みたいなことを・・・。状況しっかり把握されてるし。
「まあ、軽井沢でのみどりと俺の様子を見てた人は、事情を知らなければ、仲良しの恋人同士にしか見えないだろうし、でも・・」
「あなた、わかってるじゃん。ならさ、みどりちゃんとの関係は、尚更キチンとした方が良くない?」
「耳が痛いけどさ、物心ついたころから可愛くてさ、隆ちゃん隆ちゃんって寄って来てさ、それでも1年にせいぜい2回くらいしか会えないんだよ、それに、今回は、2年近く会えなかったんだぜ、それで、久しぶりに会ったら、すごく可愛くなってるし。少しぐらい大目に見てくれてもいいじゃないか。」
とりあえず、実家にて、いきなり迫られるような感じだったことは、なかったことにしておく俺。あれ、沙友里が引き攣ったような、それでいて笑っているような、複雑な顔になってる。
「まあ、程々にね。そっか、みどりちゃんの中で、その長い月日で美化されちゃったんだろうな、このクズっぽい男がさ。」
うー、この子咲ちゃんみたいに厳しい。
でもなんでだろう、いつもなら、「クズっぽい男」に反応して、俺はクズ男ではないって言い始めるんだけど、そんな気にならない。
「なら、そのクズ男誘って食事する沙友里ってダメ女なの?」
一瞬ぽかんとする沙友里。そして、可笑しさを抑えられないという感じで言った。
「私はクズ男やダメ男好きじゃないよ。まあ、結果としてそんなことも・・そんなのはいいの!隆太はね、多分だけど、クズ男じゃないよ。クズっぽい、けどね。」
あれ。沙友里怒ったのかな?赤い顔してるけど。でも、よくわからんなあ。でも、クズ男認定されてなくて、よかった。
そんな話をしつつも、ここで食事を再開する。
少し経って、沙友里がまた話し始めた。
「ねえ、隆太は付き合ってる子いないの?」
「いないよ。いたらここに来ないし、多分。」
「なら、好きな子は?」
「いません。」
と、俺は反射的に応えていた。正確には、好きな子って、というか、女の子を好きってことがよくわかってなかったりするけど。
「即答なんだね。まあ、そうならそうなんだね。でも、隆太ぐらいの年齢の男子なら、彼女欲しいって思うものじゃないの?」
「そうらしいけどね。俺はいらん。」
それを聞いた紗友里は、少し挑戦的な顔になって言った。
「何カッコつけてんの?素直じゃないなあ。」
「だって、本当に要らないから。当分こりごりだから。」
「・・ごめんね、本当みたいだね。気に障ったらごめんなさい。」
あ、そんなに落ち込んだ顔しなくてもいいのに・・・。でも、素直でいいのかも。
「いや、謝ることはないよ。俺の周りでも、飢えてるような奴もいるし、彼女がいても不満なのか、他の女の子とも深い関係になってひと悶着、みたいな話だっていくつか知ってるし。人間的にはいい人でも、そういった面はクズな人だっているからさ、まだ知り合って間もない俺のこと、そう思ったとしても責められない。」
「ホント、そんなクズ野郎ばっかり。男って何でそうなの?」
わ、ちょっとマジっぽい。俺に言われてもねえ。それに、女だって同じような奴いるだろうに。でも、沙友里、嫌な目にでもあったのかな。
たぶん、俺の当惑した表情を見たためだろう、沙友里は続けた。
「ごめん、隆太はそういう人じゃないんだったよね。うん、それは信じてあげる。でもね、なんというか、ちょっと嫌なことがあったからさ、前に。」
そっか、君も二股かけられたってことか。
「でも若いんだし、まだまだいい男と知り合う機会だってあるんじゃないの?」
と、それに、やっぱ言えなかったけど、沙友里は可愛いし、と思いつつ言ったのだが、
「簡単に言わないでよ。隆太には、二股かけられた側の気持ちなんてわからないでしょ!まったく、女の子とヘラヘラしてるだけのクズもどきさんには困ったものね。」
ごめんなさい、不用意だったか。沙友里、本当に悲しい目にあったんだな・・・。
でもこの子、ホントに表情が豊かだな。正直で飾らない感じはいいかも。
「そうだね。俺も二股かけられて捨てられたけどさ、男と女では違うのかもね。」
「え、何それ?」
「そのまま、だよ。去年、付き合ってた子に、そうやってフラれたからさ。」
「そうだったんだ・・、ごめん・・・」
「気にするなよ。それが原因かどうか知らないけど、俺は恋愛できない体質になってるって自覚してるんだ。」
宮下に別れを宣言されたときは、そっか、やっぱりな、みたいな感じで、しょうがないよなって思ったけど、後になって結構堪えたんだよね。恋愛できない体質は、ほんとはもっと前からなんだけど、宮下との件でさらに悪化したって感じかな。
「美鈴も、知ってるの?そのこと・・・そんな風に酷いフラれ方したこと。」
「まあ知ってるだろうね。そもそも、俺が振られたってことは、相手が同じコースだったから、そのコースの学生の間では結構話題になってたみたいだし、友達になる前の美鈴も知ってたはず。でも、今話した俺固有の事情みたいのは、詳細を知ってるのは友達になった後の美鈴とか、一部だけだろうな。」
「そこに私も加わったってことね。」
「何だかごめん、そんな話面白くないよな、初めて一緒に食事したって言うのに。」
「うんう、そんなことないよ、どっちかって言うと、隆太とほんとの友達になったんだなって思えて、嬉しいかな。」
「でも、俺なんかに昔のこと話してよかったの?」
「もう遅いし。というか、お相子だよね。これで。」
「そうか。でも、俺も、良かったかな、同じような苦しみを味わった友達がいるっていうのは、何というか、心強いような。」
「そうね、でも、男子とこれで共感できるとは、思わなかったな・・」
その後も、はじめは嚙み合わないような、それでいて最後は同じ方向を向いて進んでいるような、不思議な感じの会話が続いた。
結構楽しかった。
結局、夜9時過ぎにお開きになったんだけど、
「結構いい感じなのに、そのまま帰るんだ。」
と、もじもじした感じの沙友里。
まあ、何となくは、言いたいこと、わかるんだけどね。困ったな。
「だって沙友里、自宅生でしょ?遅くなって親御さんに大騒ぎされるような事態にする訳にはいかないだろ?」
それを聞いた沙友里は、壺に嵌ったのか、笑いを堪えつつ、苦笑するような感じで言った。
「大騒ぎって、お祭りじゃないんだから。親なんてどうにでもなるし。大学生なんだよ。もう・・だから、このまま次のお店誘って、それから・・とかって考えないの?」
苦笑した勢いで、何言ってんだこの子?何、それからって、え、あ、お持ち帰りってやつですか?
俺はそういう気はないけど、他ではあまり言わないほうがいいんじゃないのかな。
沙友里、結構可愛いと思うし、髪も可愛いし、その、細身だけど出るところは・・、いやいや、そんな詳細はどうでもよくて、そんなこといってると、真に受ける奴、結構いると思うぞ。
「友達は、それからってことはないだろ、そもそも。」
「そうだけどさ、もちろん冗談だけど!!でもさ、もう少し話したいかなって。」
慌てて、ちょっと顔を赤らめたところも可愛いな。じゃなくて、俺なんかでよければ、お話、ってことであれば、いつでもどうぞ、だけどね。
それに、ちゃんと意思疎通できてるな、沙友里と俺。気が合いそうではあるな。
でも、今ここは危険かな。
「なら、また日を改めて話そうぜ。実はさ、今日はどっと疲れることがあって、正直早く眠りたいんだ、ごめん。」
「そうだったんだ、疲れてるところ、誘ってごめんなさい。」
「いや、すごく楽しかったし。それはむしろ良かったということで。」
「優しいんだね、隆太って。じゃあ、またね。」
「ああ、またな。」
沙友里は、軽く手を振って、帰っていった。
ふう、危なかったかもね。
沙友里、俺に多少なりとも好意を持ってくれたんだな。でも、それが恋愛感情だとすると・・・。俺の感覚では・・・いやいやいや、考えるのは良そう。俺はそれに応えることはできないんだから。
たまたま、宮下が俺を疲れさせてくれなかったら、断る理由はなかったわけだし、嘘吐くのは嫌だから、結構困った事態になってたかも。
だって、沙友里、ちょい可愛いんだもん。可愛すぎる子とか、美形な子は、俺如きレベルの男なんて相手するわけないから、そもそも近寄ってこないはずだし、間違って近寄ってきたとしても、揶揄うんじゃねえって憤ることができるから、排除できる。
でもさ、ちょい可愛い子は、どうしても排除できない。ましてや、沙友里は、目が大きめでちょっと可愛くて、細身でスタイル良いから、マジストライクゾーンなんだ。
そういった子が押して来たら、もう俺には対抗する術がないんだ。
もし仮に、沙友里に本格的に迫られるような状況になったとしたら、俺は本能的なところで対応してしまう可能性が高い。そうなると、一時は良くても、問題を引き起こすリスクが大きいということになる。
宮下とのことで、俺はいろいろ学んだけど、ならどうしたらよいのか、というところには、まだ到達していないんだ。
でもまあ、とりあえず危機は回避できたし、考えすぎてもしょうがないし、家に戻るとしますか。回避じゃなくて先送りかもしれないけどね。
俺は、再び地下鉄に乗って、家を目指す。
大学最寄りの駅よりも家に近い駅の駅近のファミレスだったので、10分も乗ると自宅の最寄り駅に着いてしまう。ほんと、こんな便利なところに住まわせてもらって、親には感謝あるのみ。
そんな話じゃなくって、沙友里の大学、もうすぐ後期始まるっていってたな。うちの大学はもうちょっと先だけど。
そうだよ、後期始まったら、勉強に集中するぞ。
いや、どうせ色々あるんだろうけどな。
夏休み、どうせダラダラ過ごすんだろうなって思ってたけど、振り返ると、結構面倒、いや、刺激的で楽しかったな。去年とは大違いだ。
俺は、家に帰ると、風呂に入って、さっさと眠りについた。
寝る前に確認したけど、今日はメッセージもメールもない。嵐の前の静けさってことはないだろうな・・・
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