第11話 戻ることなく進む
なんだかんだで、9月も半ばまで来てしまった。後期も近づいてきたってこと。
今日はサークルの集まりがあったので、顔を出した。でも、今日は「お友達」の3人は欠席だった。いたらいたで面倒臭いのだけど、いなければいないで、結構寂しかったりする。
メンバーがそこそこ集まったが、特に作業などもなく解散となり、俺は、予定もないし、本でも読もうかと、図書館に向かうことにした。
その時だった。一番会いたくない女子を見かけてしまった。
そう、宮下さんだ。
嫌な予感がしたので、とっさに俺は、さも忘れ物をしてしまいましたあ、みたいな感じで180度転換して、サークル棟に向かう。
喫茶コーナーで時間潰すか、いや、あそこは誰でも入れるから、部室しかない。
と、結論を得た俺は、迷わず部室に入り、誰もいないその部屋で時間を潰すことにした。
こんな時に限って、文庫本も持ってないし、スマホの電子書籍も全部既読だ。
あー退屈だと思いつつ、部室のドアに向かって座りながら、ぼーっとしていると・・・
とんとんとん、と部室をノックする音が聞こえた。
誰だろう?入会希望者が来る時期ではないし、などと思いつつ俺はドアを開けた。
そこには、可愛らしい子が、立っていた。
一瞬、あれ、何でみどりがここにいるの?と思ったんだ。でも、髪の毛が黒髪だけど何だろう、少し長いし、さりげなくインナーカラーが入ってるし、可愛い子だけど別人だ。
それに、背も少し低い気がする。
俺は、はにかむ様に微笑むその子の顔を見つめていたが、やっぱみどりとは全然違った。
他方、その子は、俺に顔やら髪を見られていることを嫌がりもせず、微笑みながら俺を見ている。
そして「りゅうたさん」と俺を呼んだ気がした。
俺は、なぜか、やっと会えた、〇〇〇にやっと会えた、と思ったのだが、名前が思い浮かばない。
しかし、次の瞬間、ドアが音もなく締まってしまった。
(あ、待って)と言おうとしたが、声が出ない。
待ってたんだ、やっと君に会えたのに、どうして・・・
はっと気が付くと、俺は部室のドアを見ていた。
急いで、ドアを開ける。
誰もいない。
スマホで確認すると、部室に来てから30分くらい経っていた。
うとうとしたのかな。
それにしては、さっきの子、あれ、記憶が既にあやふやだ。夢か。
俺、寝ちまったんだな。
まだ、30分か。1時間くらいは待機した方がいいよな、
と、俺は宮下さんから逃げるためにここに来たことを再認識する。
俺は、先ほどの夢を思い出そうと必死にもがく。
従妹のみどりとは違う。誰だろう。でも、確かに俺の名を呼んだ、ような気がした。
不意に俺は、姉貴に幼いころに聞いた、赤い糸の話を思い出した。
「赤い糸はね、運命の人同士の男女を結んでいるものなの。その人たちはね、見えない赤い糸で結ばれているの。」
赤い糸の相手か。恋愛できない俺には関係ない話だ。
そっか、みどりとは、結構濃い行動を一緒にしたからな。夢に出てきても不思議はないかも。でも、夢に出てくるとは、すでに思い出ってことか。
そうじゃないよ、そもそも、その子みどりじゃなかったよな?
などと、取り留めなく考えていたのだが、ふとスマホを確認すると、1時間経過だった。
よし、もう宮下さんもいないだろうし、スキップしながら帰るとするか。
俺は部室を出て、再び大学構内を歩く。
今日は、夕飯どうしよっかな、心ウキウキお家に帰りましょ、と勝手に歌を作って上機嫌で歩く俺、だったのだが・・・
「隆太!」
げ、宮下さん、何でいるの?
俺は、マジで全速力で走って逃げようとも思ったのだが、さすがに小学生みたいだな、と思い直し、宮下さんに向き合う。
「宮下さん、何か用?」
俺は、努めて事務的な口調で、宮下さんに言った。
しかし、宮下さんは、笑顔を変えることなく言った。
「さっき隆太が歩いているのを見かけたんだけど、隆太が引き返したので、今日は会えないのかなってちょっと悲しかったんだ。でもね、もしかしたらって思ってここに来てみたら、隆太に会えたってわけ。もう運命だよねこれ。」
はぁ?どんな運命だよ、君は俺を醒めさせる才能が開花したようだな。
「運命、ねえ。単なる偶然にすぎないのに。」
「偶然じゃないよ、私が切り開いた運命なんだから。」
うわ、そうだったか。ずっと待ち伏せするとは、すごい執念だな。
笑顔ではあるが、その眼光は不思議な光をまとっているような気がする。何この威圧感。寒気してきた。でも、負けない。
「相変わらず考えが自己都合の塊のようだな。あの時から全く変わってない。」
「そうよ、あなたへの気持ちは全く変わってない。」
何それ、意味不明だ。呆れた人だな。
「二股三昧の女が。よく言えたものだな。」
言い過ぎかもとは思ったが、宮下の顔は俺のこの話でも、全く変化がない。何その素敵な笑顔っぽい表情。いや、俺には全く魅力的じゃないけどね。
それにしても、何というメンタルだろうか。
「そうね、和輝がうざいからちょっと相手してあげたけど、確かにあなたには別れてっていったけど、嫌いになったとは言ってないわ。」
自己中もここまでくると、呆れを通り越すな。でも、四井の悪口はやめろよ。
と思った俺は、少しむっとした感じで言った。
「そうか、四井は俺の友達だ。友達を悪く言う君は、友達でもなんでもないってよくわかったよ。」
「なら、恋人ならいいの?」
「はあ?」
何その発想?斜め上行くどころか、ワープしてるんじゃないのか?
「友達じゃなくていいよ。恋人同士に戻ろうよ。今度は別れないから。」
こいつ、何を言ってるんだ?
おっと、ここで熱くなってもこの人の思惑通りになってしまう。ここは、落ち着いて行かないとね。
「下らない話に付き合わせないで欲しいな。もう失礼するよ。さよなら。」
「あっさりフラれちゃったみたいだね、でも、私の気持ちは変わらないから。」
もう勘弁してくれ。
俺は、後ろを振り返ることなく、これ以上ないくらいの早歩きで学外に出た。
宮下とのことは、まだ苦い思い出だ。
二股をかけられたあげく、フラれた。かなりきつい経験だった。
その点は、絶対容認できないし、縒りを戻すことは絶対にありえない。
でも、それ以上に、深い付き合いになったのに、俺は相手を明確には好きにならなかったという事実に結構苦しんでいる。
諸々の相性は良かったらしい。他に経験がないからわからないが、宮下がそうほのめかしていた気がする。そもそも本当かどうかは知らないし、誰と比べてるのかもわからないしどうでもいい。
もはや全然嬉しくない黒歴史でしかないけど、でも、なんか安心感みたいな感覚も覚えていて、自分に腹が立ってしまう。
でも、そういった男女の関係話というのかな、男は結構自慢したいものらしく、飲み会とかで武勇伝っていうの?みたいに吹聴してるのを聞いたこともあるけど、何なのだろう。
もちろん、俺はそんなこと他所で話す気はない。一番話せる丸山にもその話はしていない。
仮に、恋愛感情が全くないのに、それができるとすれば、まさにクズ男じゃねえか。
いや、恋愛感情に似た好意はあったはずだ。でも、一方で二股掛けられていることを感知していたのだから、その状態で押されただけでできるのなら、同じじゃないのか。
そうだよ、俺は女の子の押しに弱いんだよ。その子がちょっと可愛いくらいだと、イチコロなんだよ。意志がないクズ野郎と言われても反論できないんだよ。
みどりの俺への好意もわかっている。でも、押し負けてしまったら、宮下の時と同じようにズルズルと関係しかねない可能性があった。
でも、何とか耐えたというのが実態だ。仮に、深い関係になったとしても、俺はみどりを従妹として、でなく、恋人として好きになれる自信がない。それじゃみどりがかわいそうだ。家と家とかの問題にもなるんだろうけど、そんなことが大事なわけではない。
みどりはかけがえのない妹も同然の従妹なんだ。悲しませるわけにはいかない。
だから、俺は、あくまでみどりを従妹として大事にしていくつもりだ。
次に、美鈴。実は今現在、彼女が俺をどう思っているかは、よくわかっていない。
俺は、女子からの恋愛のベクトルは、手に取るようにわかってしまうことも多いのだが、美鈴に関しては、今の状況、実はよくわからないんだ。
俺の「能力」は、偶然の連続にすぎず、あてにならないものなのかもしれない。
ただ、以前は、多少好意はあるみたいだと感じたことがあったのは事実だ。でも、今は、そういった思いを超えたところまできたのかなって思っている。
案外恋人としてうまくいくのかもしれないけれど、俺に恋愛する自信がない以上、やっぱり無理なんだよ。
それに、1年近く友達でいて、何でも話せる関係を築くことができたんだ。これを失いたくはない。姉貴に、アイツの気持ちはアイツにしかわからないって言われてしまったが、自分と同じだと信じて、これからも行くしかないんだって思っている。
そもそも、好きって何?よくわからないっていう状態だし。
・・・
てなことを考えていたら、乗り過ごし寸前だった。俺は、あわてて、地下鉄を降りた。
考えすぎるのは、俺の短所の1つなんだよな。しかも、その考えがどんどん迷走していく。
もうここで、考えるのは、打ち切ろう。
さて、久しぶりに、ちゃんと夕飯作るか。
と、前向きに自分を持っていこうとしたその時、スマホが鳴動した。
ん、誰だ?
「中町沙友里」
俺はスマホのメッセージを確認する。
<ちょっと会えないかな?今から。>
想定していなかった中町さんからのメッセージだった。
でも、意外なほど自然に受け入れている自分がいる。いやむしろ、待っていたのかもしれない。こういうの、いつもの俺なら過剰なほど動揺するはずなのに。
そして、俺は、新しく何かが始まる予感がした。
そうだよ、まだ大学2年の途中なんだから、俺の感覚がどうであれ、これからもいろんなことがあるはずだ。それに向かって前に行けばいいんだよ。
そう思いつつ、俺は返信した。
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