第4話 春休みの交流
そして、火曜日。
今日は、臼井さんカップルと美鈴とで遊園地に行く日だ。ダブルデートみたいに見えるかもしれないけど、違うからな。
そんな不安感ではなく、とりあえずワクワク感から、早起きしてしまったようだ。
今、5時を少し回ったところであり、まだ外は暗い。
7時集合厳守だから、遅くとも6時半には駅に行かないといけないな、 と思い、出発に向けて始動する。
そして、6時半には、バスターミナルの最寄り駅に向けて電車に乗っている俺である。
まだ朝ラッシュが始まっておらず、それほど混雑していない車内を見渡してみると、俺のように遊びに行く人間はほとんどいないようだ。
既に春休みに入った大学生は、まだ多数ではないのかもしれない。
そして俺は、バスターミナルに集合の10分前に到着したのだが、すでに到着している美鈴の姿を認めた。
「美鈴、おはよう」
「おはよー、隆太、早いね。」
もこもこした格好の美鈴の声は、少し明るいように感じる。
「臼井さんたちは?」
「さっき、まもなく駅に着くってことだったから、間もなく来ると思うよ。」
それを聞くと、ちょっと緊張してしまった。
「何、どうしたの?」
「なんでもないです。」
それを聞いて、ジト目で俺を見る美鈴。
また過剰反応だな、という顔である。
「まあいいけどね・・あ、希美と木村くんだ!」
美鈴が臼井さんたちに手を振ると、臼井さんも気が付いて手を振ってきた。
「おはよー、早いね、美鈴も高階くんも。」
元気に挨拶する臼井さん。
「そうか、木村君と隆太は初対面?」
と、美鈴が言った。
「いや、何度か会ってるというか、すれ違ってるというか・・」
美鈴が、微妙にズレたこと言ってるんじゃないのって顔で俺を睨んでる。
「あはは、そうだね、僕も同じ認識だよ。それに、君が高階君ということもわかってる。」
と、陽気そうな希美の彼氏が、明るく言う。
結構イケメンだし、性格もよさそうだな。
「ごめん、木村君、俺はそこまでは・・・」
「ちゃんと話したことないし、気にすんなよ。ということで、僕は
「おお、ほんまもんの経済学科なんだね、俺は経済学科でも経済情報科学コース1年の高階隆太。こちらこそよろしく。」
「ほんまもんの経済学科って何?そうすると、経済情報科学コースってパチモンなの?」
と、木村君が可笑しそうに言う。
「木村君、隆太ってさ、ちょっとずれたこと言うけど、良い奴だから、勘弁してあげてね。」
美鈴ぅ、事実かもしれないが、俺とは初対面の人にそういうのか?まあいいけど。
「あはは、話には聞いてたけど、想像通り面白いなあ。」
「え?俺の話って?」
と、俺は当惑を見せる。
だって、自分が話題の中心になることには慣れていないのだよ。
「しょうがないじゃん、隆太はあたしの友達なんだし。希美だって同じコースだし。あんたの話なんてしたくなくても出てくるんだよ。」
と、美鈴が解説する。
「んなこといって、結構高階君のこと話すよね、美鈴って?」
と、にやにやした臼井さんがツッコミを入れた。
「あは・・・そうかなあ。まあでも、最初から仲良くなりそうで良かったな、隆太と木村君。」
自分が突っ込まれていることは感じ取ったのかな?美鈴、話題を逸らしてる。
「そうだよね、木村君と高階君が仲良くなってくれると嬉しいな。」
木村君なので、大丈夫っしょ。
バスの発車時間も近くなってきたので、俺たちはバス乗り場の方に移動した。
そして、バスの車内に入るとすぐに、
「じゃあ、現地でね」
と、臼井さんが美鈴に声をかけつつ、かなり前方の窓側の席に座り、横に木村君が座った。
「うん、またね。」
美鈴も、普通の様子で通路を進む。
あれ?4人で近くに座るのではないんだ。
そっか、予約が直近だったから、離れたのだろう。
美鈴が普通に進んでるし、黙ってついて行けばいい。
下手に逆らうと、面倒なんだよな美鈴は。
そして、美鈴は中ほどまで進み、
「隆太、私たちはここだよ。」
と言って、窓側に座った。
俺は、立ち尽くしてしまった。
「どうしたの?」
と美鈴が問う。
ここに来て、ようやく事態を把握したというか、頭を回転させると、結構衝撃の事実なんじゃないかと思い始めた。
「俺、ここでいいの?」
と、美鈴の横を指した。
「え?どこに座るつもりなの?」
「いや、ああ、そうだよね。」
と言いつつ、美鈴の横に座る。
なにこのカップル感っていうか、他人から見たら、それ以外の何者でもないっていうか。
自然、俺は隅っこに偏る。
「ちょっと、そんな据わり方だと、辛いでしょ?普通に座ればいいじゃん。」
俺が縮こまって通路に寄って座っているのを見て美鈴が指摘してきた。
ん、何美鈴震えてんの?窓側寒いのかな?通路側結構あったかいんだけど。じゃなくて、何というか、ここ座るの、ちょっと恥ずかしいって言うか。
「いや、何というか、こんなに近くで座ったことないから、いいのかなあって。」
「何言ってるの?電車で横に座ったこともあったよねえ?あの時はもっと密着してたと思うんだけど?」
くそ、俺が何を気にしているのかを完全に見破っていやがる。
こいつ、経験者とは思えないな、とでも思っていそうな顔だ。
こうなると、じわじわとやられてしまうのがお約束。
それでも、一応俺は対抗してみる。
「だって、あんときは、すぐ乗り換えたし。」
「そうかそうか、隆太、私の横は嫌なんだね。そうですか、そうですか。ふんだっと。」
「そ、そんなことないし。っていうか・・・」
「じゃあ、手つなご。」
「何それ、意味わからないんですけど。わかりましたよ、座り直しますよお。」
マジ困惑したじゃないか。しょうがねーな、真ん中に座ればいいんだろ。
と、俺は座る位置を変えた。
美鈴を見ると、にんまりとしてやがる。
俺は多分こころもち赤くなってるだろう。
またお姉さんぶって、<隆太は可愛いね>とか言って、頭なでてきやがるかもな。
くそくそ。
高速道路は渋滞もなく、バスはダイヤ通りに目的地に到着した。
むしろ、少し早めだったかもしれない。
早速、木村君と臼井さんと合流して、園内に向かう。
「さあ、あれ行くか。まだそんなに並んでないし。」
おお、あれが東洋一とも言われた・・いや、怖くはないぞ。
姉貴と姉貴の友達に鍛えられた遊園地での日々が蘇ってくる。
・・・
とか思ってたんだけど、この遊園地の乗り物は半端なかった。
絶叫系も続くと、さすがに感覚が変になってくるんだな。
姉貴や姉貴の友達に遊園地に連れて行ってもらっていたころは、こういった絶叫系みたいなものも平気だったし、結構楽しかったんだけど、最近はあんまり行かなくなったし、やっぱ経験不足になってたかも。
都内の遊園地よりも、規模が大きいような気がするし。
それに、何というか、ちょっとした緊張感もあって、酔ったような感覚だ。
「隆太、大丈夫?実はこういうの苦手?」
と、少し心配顔の美鈴が尋ねてきた。
「苦手とは思わなかったけど、想像を超える恐怖というか、高揚感というか、の連続で、現実にここに存在してるって感覚が薄くなってる。」
それを聞いて、木村君が噴き出した。
「何だよそれ、幽体分離?ひょっとして、僕たちのこと上空から見てるんじゃね?」
「んなわけないけど・・・うーん、どちらかというと、遠くから眺めてる感かなあ。」
「ヤバいでしょ、それも。でも、大丈夫だよ、ちゃんと足あるし。」
「そうかなあ。ちゃんと足が地についている感覚が今一つ。」
「車酔いみたいな感じ?」
と、臼井さんも参入してきた。
「車酔いかあ。どうなんだろ、気持ち悪い感じではなく、むしろその逆かも。」
「ただの酔っぱらいじゃん?全くもう。心配して損した。」
と、美鈴が若干怒ったように言う。
「よかったね、高階君が大丈夫そうで。」
と、にやにやしつつ、臼井さんが美鈴に言う。
「こいつが倒れたら、私遊べないじゃん!」
ひでえ扱いだな。でもまあ、臼井さんと美鈴が仲良さそうで何よりだ。
それでも、他の3人もちょっと疲れたらしく、そのまま、ちょっと休憩しようかということになり、俺がぼーっとしている間に女子二人はどこかに消え、木村君と俺が残されてしまった。
そして、木村君が唐突に聞いてきた。
「高階君って、美鈴ちゃんとどういう関係なんだい?」
「え、どういうって、何だろう?クラスメート、かな。」
「高校生みたいだなあ。」
「そうか、本体はクラスって感覚がないのかな。うちのコース40人は一緒の授業も多いし、高校のクラスに似た感じがあるんだよな。」
「本体って・・まあいいけど。へえ、そうなんだ、でも只のクラスメートって感じでもなさそうなんだけど。」
まあ、他人から見れば、普通以上に仲良く見えるのかもね。
ということは判ってるけど、とりあえず、
「と言われてもねえ。友達だしなあ。」
と言って見る。
それでも木村君は引き下がらず、
「付き合ってんじゃないの?」
と聞いてきた。
「ああ、そういうこと?恋人同士とかではないのは間違いないな。美鈴に聞いても同じ答えだと思うよ。」
「確かに。美鈴ちゃんも腐れ縁の友達、とか言ってたけどね。でも、よく高階君の話が出てるんだよね。」
「朝もそんなこと言ってたよな。今日初めて知ったけど。しかし、腐れ縁ってほどでもないよな、よく話したり、昼食一緒に食べたりするようになったのは、去年の秋だったと思うし。ここ3か月くらいかな。」
「へーそうなんだ。その割には、随分仲良しに見えるんだよね。長い付き合いのような。でも、確かに密着度は薄い感じはするな。今日はそうでもないけど、というか、美鈴ちゃんが寄った分高階君がずれていくという感じがちょっと面白い。」
確かに美鈴、今日はやたら接近してくる感がある。
ここに遊びに来て、開放感があるからだろうと思うけど、ちょっと恥ずかしいんだよね。
「今日は特別なのかもね。かなり盛り上がってるし。」
「そっか。じゃあ、希美とは?」
「へ?美鈴の友達だから、友達の友達ってとこ、かな?何で?」
「いや、ごめんね。そうか、友達の友達、ね。」
何だろう、うんそうか、というような、それでいてちょっと納得してないような、変な顔だな、でも、イケメンは変顔でもイケメンなんだな。
おっと、また脱線しそうになっちまった。
「まあ、授業前にみんなで話すときもあるから、会話しないってことはないと思うけど。他は、うーん、ランチで一緒になったこととかはないなあ。」
「希美は僕とかサークルの仲間と一緒にいることが多いからね。そっか、僕は希美と美鈴ちゃんが一緒にいるところに同席することもあるけど、高階君にはそうした時に一緒になったことはなかったよな。僕たちが3人でいるときに、横を通っていくことは多かった気がするけど。」
「ああ、そうかも。でも君が臼井さんの彼氏とはわからなかった。」
「そうかもな。まあ、美鈴ちゃんの前でいちゃつくことはないからなあ。」
何だろう、その話と遠くを見るような目、ん、違和感?
あ、いや、それは女子に対して感じとるものだし、ここでそういうのは勘弁だな。
仕方ない、美鈴の話題振るか。
「さっき、3人でいるときに俺の話題が出るって言ってたけど、美鈴はそんなに俺の話題を出すの?」
「まあ、いつもではないけど、結構な頻度かな。それに、希美も結構乗るんだよな。」
木村君、また戻っちゃったよ。
それに、一瞬だけど厳しい表情をしたな。臼井さんとの間に何かありそうだ。
俺は、空気を読めない奴ってよく言われるけど、男女間の感情に関することは、敏感に感じ取ってしまう。
でも、それは俺の感覚でしかないし、伏せた方が無難だろう。
「何か、不愉快な思いをさせたのかな、俺の話題が。申し訳ない。」
「あはは、何で君があやまるんだよ、やっぱ面白い人だな。」
と、先ほどの厳しい顔は一瞬で、穏やかなイケメンに戻った木村君。
微笑みを浮かべたその顔は、俺から見てもマジ爽やかだよな。
「それもそうか。そういえば、臼井さん、俺が恋人にフラれた時に、美鈴と一緒に励ましてくれたことがあったなあ。あれは梅雨の季節だったから、6月だったか。」
「何それ、入学していきなりって感じだな。高校時代からの恋人にフラれたとか?」
「いや、大学に入ってすぐ、4月の終わりごろから付き合い始めたんだよね。」
「へ、何それ。随分早いな。しかも、わずか2か月の関係?」
「50日くらいかな。まあ四十九日ではないと思うが。」
「わはは、四十九日って。気持ちはわかるけど。まあ別れた時はそんな気分なのかもね。でも、いろいろ早くね?付き合いだすのも。別れるのも。」
「まあ、そうだよな、わけがわからないうちに始まって、わけもわからず終わったって感じだったかもね。」
と、遠い目をして言う俺。
「そうだったんだな。でも、それからはどうなんだよ?高階君結構人気あるって聞いたけど。」
全くもう、美鈴ぅ、余計な作り話吹き込みやがったな。
まあ、客観的に見れば、短い期間とはいえ、コース内では男子学生から一番人気の女子と付き合っていたのだから、そういう解釈もあるのかな。でも、コースの他の女子からは、からかわれるようなことはあった気はするけど、そんなの普通だろうし。サークルだって、同じような感じじゃないかな。一部先輩女子が何かと面倒見てくれるような気はするけど、基本は後輩を世話してるだけなのだろうし。やっぱ、人気という話ではない気がする。
なので、
「そりゃあ同じコースには女子もいるからさ、話す機会はあると思うし、サークルにも入ってるからね、女子とも普通には話すけど。でも、そういえば、女子とどこかに行ったことはなかったな。そうだ、美鈴と学外にランチに行ったことはあったけど、それくらいじゃないのかな。」
と言っておく俺。
「もったいないなあ。高階君に誘ってもらえたら一緒に出掛けてくれる子が沢山いそうなのに。」
何だか面倒くさそうだよな、そういうの。でも、ここは肯定的に、がいいのだろう。
「そういってくれると悪い気はしないけどね・・」
と会話していると、いつの間にか臼井さんが戻って来ているのに気が付いた。て、木村君俺は、臼井さんの方を何気なく見たのだが、あれと思った。
臼井さんの表情がない気がしたんだ。
しかし、次の瞬間、
「お待たせ~。和久、ごめんね。次どうする?」
と、一瞬前の表情はなかったかのように、彼氏に甘える優し気な雰囲気で木村君に話しかける臼井さんだった。
「お、おう・・・」
他方、こちらは、当惑したかのような木村君だ。
そう、臼井さんがここにいないことが前提だったのかもしれない。
でも、その次の瞬間、二人はぴったりと密着し微笑みあっていた。
つい先ほどの、一瞬ではあったけど、ここに俺がいたくなくなる雰囲気というのか、恋人同士とは思えないぎくしゃくした感じはなんだったのだろうか。
で、次の瞬間にはこのバカップル状態。
一般には、俺は何を見せられているのだろうとか思うべきなのかもしれないけど、なんか自然じゃないっていうか。
そうなんだよ、あの無表情と、この一見自然そうにみえて不自然なバカップル行為は、確実に繋がっている。ていうことは・・・
その時、美鈴の声が聞こえた。あいつも戻ってきたようだ。
「隆太~、あっちに行こ!あれ乗ろうよ!」
「え?」
俺は自分の世界に入ってしまっていたから、美鈴のこの俺への呼びかけは、唐突感があって、思わず気のない声がでてしまった。
あー、ヤバイ。これ、絶対突っ込まれる。
と身構えると、
「何よ、あたしと一緒じゃ乗らないっていうの!」
お約束、キター!
ていうか、俺に密着してきやがった。
「そんなことないって、わかったから、ちょっと離れて、歩きにくい。」
「じゃあ、ここからは、2人ずつで行動しようね。お昼にまた集合!」
といいつつ、俺は美鈴に強引に連れて行かれる。
そうか、あれに乗りたいんだな。
でも、何このお姉さんハイになってるんだろ。
と思いつつ、妙にほほえまし気な臼井さんと木村君の視線を感じて、恥ずかしさが加速するなあ。
でも、さっきの<違和感>何だったのだろう。
と、俺が疑問に思っていると、美鈴が立ち止まった。
「隆太、どうしたの、もしかして具合悪いの?」
「ん?全然平気だけど。」
「だって、ちょっと苦しそうな顔してたから・・」
そうだよな、他人の恋愛で俺が悩む必要なんかないし。真面目な美鈴がはじけるくらい喜んでいるんだから、俺も楽しまないといけないよな。
「いや、もっと臼井さんと木村君に気を遣うべきだったかなって思ってさ。」
それを聞いた美鈴は、一瞬無表情になった気がした。
でも、すぐに、
「全然気にすることないし。それに、隆太も木村君と仲良くなったみたいで、希美も喜んでたよ。むしろ私が気を使っちゃたのかもしれないね、2人きりにさせたみたいになったから。」
美鈴は鋭いからな、俺が違うこと考えてたのわかっただろうな。
もしかすると、美鈴も同じような感覚を覚えたのかもしれない。あの2人に。
でも、ここでそれをはっきりさせるよりは、やっぱ楽しまないとね。
「美鈴、とりあえず、並ぼうぜ。」
「そうだね。」
順番待ちはそれほど長くなく、俺たちは目的を達成したのであるが、
「・・・(隆太)・・・」
大声を出し過ぎたんだろうな、声がかすれてて、何言ってるかわからん。
「(何聞こえないよ、美鈴)」
って、人のこと言えないな、俺も声でねえじゃないか。
とりあえず、何か飲み物を調達しないとなあ。
俺は、身振り手振りを交えて、美鈴をベンチに座らせて、飲み物を買ってくることにした。
「あーあー、美鈴さん、聞こえますか?」
「うんうん、聞こえますよ、隆太さんって、何言ってるんだよ。」
何とか会話できるレベルに回復したらしい。お互いに。
「大声出し過ぎたのか、声が出なくなった。」
「まったく隆太はビビりだから。」
「お前が先にキャーキャーいってたじゃねえか。」
「わーわー言ってたあんたに言われたくないよ。」
喧嘩腰みたいな会話になってしまったが、美鈴は笑顔である。多分俺もそうだろう。
お互いの顔を見ているうちに吹き出してしまった。
そして、
「まあ、何というか、すごく楽しかった。」
と、正直に言う俺だった。多分、表情は若干疲労感があるものの、明るい感じだろう。
「そうだね、でも、まだ体がふわふわしてるよ。」
と、笑顔の美鈴が応えた。俺より少し余裕があるかもしれない。
「隆太、可愛い~!」
と、美鈴は突然密着してきやがった。ももか先輩みたいなハグじゃないけど、こういったことは全く想定してなくて、正直焦った。
「ちょちょ、美鈴、美鈴さん、近すぎますって。」
「いいじゃん、誰も見てないって。」
確かに、周りには、明らかに、私たち恋人同士です、いや、ひょっとすると、夫婦ですよ、愛し合って何が悪いんですかっていうカップルであふれており、その人たちが俺たちのことを見ているという感じはない。
でもやっぱハズいし、一応言ってみるか。
「俺たち、友達同士だよ。」
「そんなことわかってますよーだ。」
窘めたつもりだったけどダメか。全くもう、酔っぱらいかよ。
俺は、ちょっと押し返してみた。
「やったなあ」
と、美鈴はまたわざとらしく密着してきた。
まあいいか、誰も見てないし、ちょっと疲れたし、こうしてると寒さもしのげそうだし。
あはは、これ言ったら美鈴は滅茶苦茶怒りそうだな。
でもここ、冬は激寒って聞いてたけど、そうでもないよな。東京でもっと寒い日もあるんじゃないのかな。さっきすれ違った人たちが、今日は2月にしては暖かいよね?みたいに言ってたし。でも、やっぱ寒いことには変わりはない。
しかし、美鈴、この状態、気にならないのかな。誰も気にしてはいないっていうのはそうなんだけどさ、多分、他人から見たら、人目を憚らずじゃれて密着しているバカップルにしか見えないんじゃないの?でも、まあ、これでも、いいか。
巨大な湯たんぽと一緒で、何か暖かいから。
違和感も、もうどうでもいいや。
「声かけるのやめようか。」
「そうだね。」
というカップルの声は、俺たち2人には聞こえていなかった。
結局、4人一緒というのは、そんなに多くはなく、俺は美鈴と一緒に園内で楽しんでいた。
後半は結構疲れたからか、別な意味での恐怖系に挑戦してみたりしたが、別に普通・・・嘘です、怖かったというか、なんか変な感じ。
美鈴が終始無言になったことにも実は恐怖を覚えたりもしたのだが、それを指摘するとさらなる恐怖に襲われることは明白なので、それは言わなかった。
そんなこともあったが、大体は2人で大騒ぎして、楽しかった。ハイになりすぎて、無心で楽しめたのかもしれない。
そして、日が落ちたころ、そろそろお開きということで、現地で宿泊する木村君と臼井さんと別れて、俺と美鈴はレストランで食事をとった。
美鈴は相変わらずハイテンションなままで、楽しそうだった。
でも、帰りのバスに乗車し、バスが高速道路を走りだすと、美鈴は急に大人しくなった。
「何窓に張り付くように座ってるの?」
帰りのバスの車内で、座り方が不思議だなと思った俺は、美鈴に聞いている。
「いや、だって、私、隆太に、あんなことやこんなことして、あ、恥ずかしいなもう。隆太のせいだ。」
なんで俺が悪い?っていうか、俺また何かしでかしたっけ?
「美鈴が何考えてるのか、俺にはよくわかってないんだけど、とりあえず、席の真ん中に座りなよ。新宿に着くまでに疲れちゃうぞ。」
「もう、じゃなくて、あー、今日は御免ね。」
そっか、あれか。でも、指摘するとますます、だよな。
「え?何か俺された?」
しかし次の瞬間、
「いでで、なんだよ」
いきなり頬をつねられてしまった。
「もう知らない!」
と、サークルで何かと俺を罵倒する岩村さんみたいな台詞を吐きつつ、さらに窓の外の方を向いて、ますます窓に張り付いてしまう美鈴。
ボディタッチやら腕にまとわりつくとか、よけても密着してくるとか、そういった数えきれないことをされたけど、今になって急に恥ずかしくなったんだろうな。
ていうか、思い出したら、こっちも赤面ものじゃないか。
でも、美鈴、本当に楽しそうだったな。
あんな感じで笑っている美鈴を初めて見たかもしれない。
「今日は本当に楽しかったよな。」
「・・うん。」
「誘ってくれて、ありがとう。」
「隆太が誘いに乗ってくれて、嬉しかったよ」
「だって、マジ楽しそうに思ったし、断るわけないよ。それに、思った以上に楽しかったし。」
「そっか。よかった。」
といいつつ、徐々に座席の真ん中に移動してくる美鈴。
「それに、あんなに楽しそうな美鈴の顔も見れて、よかったよ。」
「あんたほどじゃないと思うけどなー。隆太、子供みたいにはしゃいで、楽しそうだったよ。」
「あはは、否定できないや。」
「でも私も同じだったね。だから、隆太にくっつきすぎた気もするけど・・まあ、なんというのかな、私、女子高出身だし、女の子同士で遊園地であんな感じなのは普通のことだったんだけど・・やっぱり嫌だったよね。」
まあ、高校時代の姉貴とその友達も似たような感じではあったし、俺も仲間に入れてもらっていたからね、似たような経験もしてるけど、そもそも俺は女子じゃないし、普通と言われても、なんだけど、ここは、あんまり深く考えないほうが、お互いのためかな。
「寒かったし、よかったんじゃないか。まあ、男女ではあんまりしないのかもしれないけど、仲良しの女子同士とかあんな感じだし、俺と美鈴も仲は良いと俺は思ってるから、そういうのもアリでいいんじゃないの?」
「そ、そうだよね。まあ、なんというか、私も楽しすぎてハイになってたし、希美にはちょっと遠慮しなきゃって思ってたし、だからね、ちょっと調子に乗ってしまったかもしれないの。とくに、あの、お昼前の、密着したまま、ずっと座っちゃったのは、ハイになって、でも疲れちゃって、このまま休もうかなって。」
それほど疲れてはいなかったと思うが、まあ、突っ込むとこじゃないよな。
深く考えると、変な方向になっちゃいそうだし。
そうなったら、美鈴と仲良くなくなっちゃうかもしれないし、それは寂しい。
「いやあ、湯たんぽみたいに暖かくって、暫くこのままでいいかなって俺も思ったし。」
言ってからヤバいかな、と思ったら、案の定ジト目で睨まれてしまった。
「あたしはカイロがわりかい。」
「え、猫団子想像したんじゃないの?」
噴き出す美鈴たん。
「全くもう、猫じゃないでしょ。・・ほんとに隆太は可愛いよなー。」
それを聞いて、とりあえずさっと通路側によけてみた。
それを見て美鈴が言う。
「もうくっつかないよ。まったく恥ずかしがり屋さんなんだから。」
代わりに、であろうか、俺にデコピンを食らわせる美鈴。
「いて。全くお姉さんみたいだな、もう。」
「しょうがないもん。弟がいるんだもん。」
あー、こんどは拗ねたか。
その後、何気ない会話を続けたが、ふと気づくと、美鈴は眠りに落ちていた。
疲れたのだろうな。他の3人のために、いろいろ動いてくれて、行く前もいろんな手配してくれて。本当にありがとう。
「可愛いよな」と言われて、もうお約束だから、さっとよけたんだけど、美鈴、一瞬悲し気な顔をしかけたよな。
俺は、このままの関係がいいんだけど、美鈴は違うのかな。でも、今の俺には、恋愛は重すぎて勘弁なんだよ。でも、確定しているわけでもないし、こういうことは、深く考えないほうがいい。だって、美鈴、結構可愛いし、それに、実はスタイルもよくて、あ、ヤバイ、そういうことは封印。
と頭を回転させすぎたのか、次の瞬間、俺は急速に眠りに落ちていくのを感じていた。
渋滞が見込まれるようなアナウンスあったけど・・・順調に高速道路を進んでいるんじゃないか、これなら、到着は・・・。
*
あ、寝てしまった。
あれ、2人寄り添うような形で寝てしまっていたのね。
隆太ごめんね。
と思って、離れかけたんだけど。
隆太、まだ寝ている。やっぱりまあ少しはイケてる、じゃなくて、可愛い男子だよね。でも・・・もう少しこのままでいよう。いいよね、隆太。
*
寝てしまったようだな。まあ、あれだけ遊べばな。
なんだろう、横に柔らかな圧迫感が。
って、うわ、美鈴、ごめんなさいって寝てるか、助かった。
こんな寄り添って寝てたってばれたら<このスケベ野郎!>とか、罵倒されかねないもんな。もうハイな状況は醒めたと思うし。
とりあえず、自然に起こさないと。まもなく到着だし。
「美鈴、起きて。もうすぐ到着だよ。」
「ん、隆太、おはよう。」
「夜だよ、しっかりしてくれよ、そろそろ起きてもいいんじゃないの?まもなく到着だよ。」
「ついてから起きてもいいじゃん。まあ、いいけど。でも、良く寝たなあ。隆太は?」
「熟睡だった。夢もみたぜ、夢の中で絶叫したいのに声が出なくて困ってた。」
「声でなくて正解じゃない。この車内でやられたら、赤面ものだし。」
「あはは、違いないね。」
戻ってきて、遊園地のことは、幻だったのように、俺たちは通常通りになった。
そうだよ、あれは、幻だったのかもしれないな。
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