第7話 恐怖からの脱出

 今日はサークルの飲み会だ。

 もともとは、前期試験が終わってから前期打ち上げとして実施されていたらしいのだけれど、それだと開催時期が7月の終わりか8月になってしまうことがあって、夏休みのスケジュールと被って参加者が多くないということで、近年は前期試験の少し前に行われるようになっている。

 ただ、6月の終わりとか7月初めの梅雨時なので暑気払いにならないという意見もあって、毎年前期打ち上げに戻そうって話が出るけど、なぜか賛同の声が多くないらしい。

 まあ、飲みが好きな一部メンバーが有志で前期試験終了後に打ち上げと称して飲み会をやっているらしいので、文句も出てないということだけれど。


 俺は既に誕生日が過ぎて20歳にはなっているが、体質的にアルコールがダメっぽい。

 なので、とりあえずビールを一口飲んで赤い顔をしておくが、あとはウーロン茶とかノンアルコール飲料をオーダーする。

「え、隆太君お酒ダメなの?そんな体質だと飲み会サイアクじゃない?ご愁傷様。」

 とか、サイアクが復活して懐かしいなあ、と思うけど、実は厳しいコメントを俺に発している咲ちゃんである。

「咲ちゃん、そんなこと言わないでよ。もっと労りのある言葉を頂戴。」

「隆太君には咲ちゃんではなくて、岩村さんと呼んでもらいたいわ。」

 あれ、新入生歓迎合宿以来、咲ちゃんって呼んでいいことになったはずなんだけど。

 その理屈だと、高階君って俺を呼ぶべきじゃないのだろうか。

 どっちでもいいけどね。

「はいよ、咲ちゃん」

「サイテー!もう知らない!」

 この掛け合い、何か懐かしいなあ、と思うが、サークルメンバーは、毎度のこととでも思っているのか、スルーのようだ。

 そのような掛け合いも発生するが、色々なメンバーと話をして、盛り上がったりする。

 うん、飲み会って感じだ。


 ふと気が付くと、いくつかの会話のグループが形成されていたが、俺はあぶれていた。

 これもよくあること。

 良い機会なので、残っている料理を食べていく。

 そんな時だった。

「隆太君、1人になっちゃったの?可哀そうだから私が相手してあげる。」

 ありがたい、と思うべきだが、まず思ったのは、

 めんどくせー人がキター、である。

 ももか先輩、本当にごめんなさい。

「それはありがとうございます。お優しいももか先輩。」

 などと、口からは思ったこととは正反対の言葉が発せられてしまった。

「うふ、素直で可愛いね。」

 口は災いの元かもしれない。

 あ、先輩、頭撫でるのは無しで・・・。

 という俺の願いは全くももか先輩には伝わらないのである。

 プレ就活というのか、企業研究やら、インターンシップの選考やらでお忙しいようだったので、会う機会も少し減っていたから、俺はももか先輩とお話するのは、実は楽しみだったのかもしれない。

 そして、ももか先輩は意味ありげな微笑みを浮かべつつ、俺に囁いた。

「そうそう、隆太君。君は、私が晃を好きでなくなっていたことを見破っていたよね。」

 なぜに過去の話を。

 とっくに解決済みと認識していますが・・・。

 それはそれとして、違和感、ばれてたのね。

「え、いや、うーん、そんなことはないような気がしますけどねえ。だって、春ごろの話じゃないですか。若者にとっては、はるか昔ですよ・・」

 と、何言ってんだ俺と思いつつ、誤魔化してみる。

「君はわかりやすいよね。全く。そして、ほんとに不思議な子だよね。」

 ダメでした。この人。俺を完全に掌握してるのかも。

「そうすかねえ、あはは」

「ごまかしてもダメだよ。何でわかったの?私のことが好きなの?」

 何その自己中発想。

 それはない、ないと思います、たぶん、いや、絶対。

 そもそも、ももか先輩に俺への恋愛感情なんてないですよねえ?

「へ?」

「へって、君、まあいいけど、ちょっと失礼じゃないの?赤くなって照れちゃってるくせに。」

 てな感じで、酔い始めたというか、すでに泥酔の一歩手前のももか先輩にロックオンされた俺である。

 俺は、本能的にヤバイと感じたので、お話も続けたいところ断腸の思いだったのだが、なんとか席を移動して、他のメンバーの盛り上がりの中に入り込むことに成功した。

 すみません、ももか先輩。

 と思ったのだが、ふと気が付くと、隣には、天使のような微笑みを伴ったももか先輩が。

「えへへ、隆太君、来ちゃった。」

「何ですか、そのセリフ。誤解されるじゃないですか。」

「私たちの愛に誤解なんてないでしょ?」

「やめてください!」

 とか変な会話になるものだから、メンバーが妙に気を遣って離れて行ってしまい、俺はももか先輩と2人きりという場面が多くなってしまった。

 俺は後で知ったのだが、

「ももかさん、高階がお気に入りらしいよ。」

 という話が、俺以外には浸透していたらしい。

 そのような状況だから、メンバーがももか先輩に気を遣うのは当然なのだ。

 それでも、酔った同期なんかが、

「高階、こっちこいよ!」

 とか呼んでくれるので、よし!と思って移動しかけると、

「だあめ。隆太クンは私のものなんだから。連れてっちゃ駄目だよ。」

 とかぬかしやがるももか先輩。

 同期も、

「失礼しました!波岡さん、そうでしたね。」

 とか話を合わせて、俺にしっしっと、ももか先輩の方に行けと合図してきやがる。

「何で俺がももか先輩の所有物なんですか。違うでしょ。」

「何そのクズ男みたいなセリフ。照れることにゃいのに。」

 既に口が回ってない?それはそうと、仰る意味わかりませんが、俺のお願いを聞く気がないことだけはわかりました。

「照れてません!怒ってるんですっ。誤解されたら困るじゃないですか!」

「ほんと可愛いにゃあ。お姉さんとちゅき合わない?」

 ちゅき合わないは付き合わないに変換。ますます意味不明なロジック。俺は恋愛対象ではないでしょうに。

「俺は騙されません!」

「にゃはは、ほんと隆太君はきゃわいいよね。照れちゃってまあ。」

 完全に自分の世界になってる、いや、自分に酔ってる、違う、只の泥酔女だな。

 まあ、あのお別れは、ももか先輩も辛かっただろうけど、もう何か月も前の話ですよね。

 早く立ち直ってください。

 とか言えればなあ。俺に言えるわけがない。

「だから、にじり寄らないでくださいって。いろいろ当たってるし、助けて。」

 基本、ももか先輩は色仕掛けをするような人ではない。

 ただ、小中高12年間女子校という華麗なるご経歴(一説には幼稚園から女子校?女子園?とも・・マジか?)なので、仲良くなった人には男子であろうと、女子校の仲良しのノリ?でスキンシップしてしまう傾向があるようだ。

 そもそも俺は6年間男子校だから、中高生女子の生態なんて知らないし、女子校のノリとかも聞いたことがあるだけで、本当のところはよくわからない。

 本人としては、単に親密な関係、といっても恋愛感情は全くない関係と思っている人にくっついているだけということらしいのだが、ももか先輩、それもいたいけな男子学生の人生を変えさせた原因の1つではないですか?少しは節度と適切な距離感をもって男性に接するべきではありませんか?

 と、俺は心の中でももか先輩に説教してみる。

 しかし、俺はエスパーでも何でもないので、俺の心はももか先輩には伝わるはずもない。

 それでも、俺は、いたいけであろうがなかろうが、ももか先輩のことを読み違えるようなその男子学生の自業自得だ、勘違いする方が悪いって思ってるから、多分そういった感情を持っていることも含めて、ももか先輩には見抜かれてるんだろう。

 そんな思いの俺をしり目に、

「楽しいにゃあ」

 と、天真爛漫風に俺にじゃれつくももか先輩である。

 これ、遠目で見たら、バカップルでしかないわ。

 案の定、先輩たちも離れだしたじゃないですか。

「ちょ、ちょっと先輩たち、逃げないで、おいて行かないで!」

「高階、逃げてるわけじゃないぞ。俺たちはな、サークルの将来について熱く語っているんだ。悪い、2年生は遠慮してくれ。」

 明らかに、ももか先輩がらみの面倒なことに巻き込まれたくないってことだよな。

 それに、あからさまな噓吐かないでくださいよ。あの女がさあ、バカでさあ、ぎゃはは、とか聞こえてましたよ。

 うちのサークル、女子も多いんですから、もうちょっと話の内容は考えてくださいよ。

 なとと、真面目なことを考えてみるが、現実は厳しかった。

「みんな私たちの愛に気を遣ってくれてるのよ。もう諦めなしゃい。」

 愛って何?What is love?あれ、それで英語合ってるんだっけ?そうじゃなくって、もしかして戦国武将の、何て人だったっけ?、兜の文字の愛?おねえちゃん、教えて。

「その諦めなさいってセリフがすべてを物語ってますって。お願いします。もう解放してください!」

「そんなに嫌がることにゃいじゃないの。みゃったく。」

 拗ねた表情を見せるももか先輩。

 不覚にも可愛い、と思いかけてしまった俺に、その時、救いの神が登場した!

 それは、岩村咲だった。

 何言われるかわからんけど、この非常事態、お願いするしかない!

「咲ちゃん!助けて。もう俺には君しかいないんだよ!」

 とっさに出たこのセリフ、思いを君に伝えたいんだ!

「あーあ、あいきゃわらず誤解されるとしか思えにゃい発言ね。」

 酔っぱらい女が横でなんかぼそぼそ言ってるが、無視。

 しかし、現実はやっぱり甘くないのであった。

 咲ちゃんは、ぴたっと停止して、目を見開いて、まじまじと俺の顔を見て、言った。

「何そのセリフ、サイテー。隆太君のこと見損なったわ。ももかさんという人がありながら、この状況で私を口説くなんて。もはやサイアクサイテーのクズ男以外の何者でもない。あんたなんて高階君に格下げ!もう知らない!」

 え、苗字呼びって格下げなの?でも、サイアクサイテークズ男もう知らない!全部そろったのは超ウレスィ、じゃなくて、クズ男だけは断じて違うぞ。あそうだ、口説いてなんかないからね?そんな因縁つけやめて。

「ももか先輩、ほら誤解されたじゃないですかあ!」

「俺には君しかいない、なんてセリフ良く言えるよね。もはやしぇい意を売り物にして女を騙すキュズ男も同然ね。君が悪いじゃん。」

 俺は断じてキュズ男でもクズ男でもありましぇん!だって、しょうがないじゃないですかあ、非常事態なんですよ!

 もう訳が分からなくなってきた。

「なんでだよお。」

「全くみょう、私が教育するしかなしゃしょうね。」

 むぎゅーとハグしてきやがった、ももか先輩。

 他の奴からはご褒美じゃねえかと言われたけど、罰ゲームでしかないじゃん。

 わ、ももか先輩、あたたかいです・・・、柔らかさに包まれていく・・・。

 じゃねえよ、ヤバいだろ。この天使。

「ハグは勘弁してくださいっていうか、先輩は嫌じゃないんですか!」

「私ね、隆太君をお持ちきゃえりしたいにょ。」

 何その衝撃の告白。意味わかって言ってるんですかそれ!

 酔っぱらいで座った目だが、マジだわこれ。

 もはや逃げるしかないじゃん。

 俺は男女関係に関しては、基本的には真面目なのだ。誤解しないでくれよな。


「この酔っ払い、なんとかしてください!先輩方!」

 俺は、俺たちの方にバリアを張っているように丸くなって盛り上がっている先輩たちに向かって叫んだ。

 しかし、先輩たちは無視。

 いや、無視じゃない。聞こえてないんだ。

 くそ、居酒屋の喧騒の中では、俺の血の叫びも先輩たちには聞こえてないのだ。

 圧倒的な「愛」の力をもって俺をお持ち帰りしようとする天使の前に、俺は屈するしかないのか。もはや未来(あす)への希望はないのか。

 俺はやけっぱちになってきた。

 もはやこれまで。最後の攻撃、ももか先輩に酒を勧めるプランを発動するしかない!

 そうだ、ももか先輩を酔い潰して放置して逃げるのだ。毒をもって毒を制するしかない!

 俺はこのとき、

「高階が波岡先輩を持ち帰ろうと酔い潰したが、熟睡されてしまったため、持ち帰りに失敗して、挙句の果てに逃げた。」

 といった根も葉もない噂を流されることになろうとは夢にも思っていなかった。

「ももか先輩、とりあえず、日本酒どうぞ。」

「ん、隆太きゅん、気が利くじゃにゃい。にゃにやってんにょ、徳利ごとよこしなしゃい。」

 徳利からそのままぐびぐびと酒を飲むももか先輩、何この光景。

「そんな、はしたない真似を・・・」

「あに言ってるのん。ころほうが効率おくのめるれしょ?」

 ももか先輩、でぇすぅい、いや、泥酔状態になってきた。

 一歩間違ったら、ももか先輩を酔わせて持ち帰ろうとする極悪非道男認定されちまうかもな、などと、俺はちらっと頭に浮かんだのだが、その時の俺は、これは吉と出るか凶と出るか、ぐらいしか考えていなかったのだ。

 だって、生きるか死ぬかの瀬戸際ですもん。

 そして、先輩は、幸せそうに、

「隆太君の腕でにぇかせてにぇ。」

 とかのたまう。何言ってやんでい、うわ、腕で寝かせてねって言った!

 やだよ、置いて帰れないじゃないか。

 と思った俺は、

「いや、俺が寄り添いますから、とりあえずこの座布団を枕に」

「ありがとにぇー」

 騙されたぞ、やった!

 そして、先輩は、

「くぴー」

 と眠りに落ちた。

 やった、酔い潰れた。今のうちに逃げよ。

「会長、すみません、俺、帰ります。」

「そっか、高階、お疲れー。」

 さっき、ぎゃははと品のない冗談を笑っていたような気もしたが、人格者としてメンバーの信頼を集めているであろう会長は、疑うことなく俺を爽やかに送り出してくれた。

 浅野会長、ありがとうございます!

 あの下品な笑い声は、存在していません!俺の空耳でしたあ。

 俺は、後ろを振り返ることなく、ももか先輩が眠る恐怖の館をダッシュで後にした。

 そして、その日は、家に帰ってシャワーを浴びて、さっさと寝た。

 悪夢でも見るかと思ったけど、案外熟睡できたのは不幸中の幸いか。


 その後、恐怖の館ではどうなったかというと・・・。

 結局、咲ちゃんがももか先輩を介抱し、他のメンバーと共に家に送り届けたと聞いたが、そのことに関しては咲ちゃんは、意外なことに文句を言ってこなかった。

 それどころか、

「隆太君も、大変だったよね・・」

 などと、優しい言葉をかけてくれた。

 ああ、咲ちゃんはももか先輩のことだけでなく、俺のこともをよくわかってくれているんだな、と思って、ちょっと嬉しかった。それに、咲ちゃんにはやっぱり隆太君と呼んでもらった方が、やっぱり嬉しい。


 だが、俺はメンバーからの非難の目にさらされ、濡れ衣を払拭するのに難儀な思いをすることになってしまった。

 一方、ももか先輩自身は、飲み会のことはよく覚えていないらしく、俺と楽しく会話しているうちに、飲み過ぎたのか、寝てしまったという認識らしい。

 ほんとかよ。なんで覚えてないんだよ、全くもう。

 そんな感じだったが、その後も通常運転で、相変わらずたまにメッセージをよこしてきたりする。

 でも、ももか先輩が、以前と同じように俺のことをお気に入りだと宣伝してくれたらしく、変な噂は作り話と認識されて、俺は名誉回復することができたのであった。

 まあ、ももか先輩の酒癖は、みんな知ってると思うし。

 ていうか、少なくとも先輩方は、ももか先輩の酒癖の悪さはご存じですよねえ?知らないとは言わせませんよ?フォローしてくださいよ、全く。

 まあ、ももか先輩が悪いんだけど、俺の対応も多々問題があったと思うし、俺をかばってくれたももか先輩には素直に感謝する俺である。


 <ももか先輩、もしもですよ、仮に、今度お会いする機会があるとしたら、アルコールは抜きにしましょうね。>

 <いいよ、いつにする?私、明日明後日なら空いてるよ。楽しみだな。>

 ちょっと待って、誘ったつもりはないんですが・・・

 というような見解の相違も多々あって、有無を言わさずどこかに連れて行かれたりもするが、ももか先輩と俺は、仲良しの先輩と後輩でしかないのだ。

 あ、違いました!超仲良しのお友達でした!

 これからも、ずっと、きっと・・・たぶん。



 あの恐怖の館での飲み会の危機を乗り越えた自信だろうか、7月の前期試験では、どれもこれも満足いく解答ができた…訳はない。やっぱ勉強したからだよな。

 うん、勉強は裏切らない。

 そんな感じで、試験を突破し、8月に入ると、俺は帰省した。

 俺が長野の家に行くって、一応帰省でいいんだよね。俺は東京の自宅が実家の感覚なので、なんか変な感じだけど。

 それで、正直、長野に移った実家にはあまり行きたくないので、旧盆期間だけと思っていたのだが、姉貴に、

「たまにはお父さんお母さんに顔を見せなさい。そして、お盆に来てくれる親戚に挨拶しなさい。家を継ぐ継がないは関係ないの。隆太はお父さんとお母さんの息子なんだから。」

 とか指導されちゃったから、仕方ない。

 それでも、マンションを1か月もあけられないと言ってみたのだけれど、

「おねえちゃんが毎日とは言わないけど、定期的に来るから、大丈夫。隆太もたまには親孝行しなさい。試験終わったらすぐ行けるでしょ?」

 と言われたので、

「せめて、8月10日過ぎにできないかなあ・・、ほら、追試とかあるかもしれないし。」

 と、一応成績優秀の俺にはありえない嘘ついてみた。そもそも、追試があるとすれば、採点後だから、そんなに早くのはずはない。そこは、姉貴もわかっているような気はする。

「しょうがないね、お母さんには8月になったら隆太がそっちに行くって言っておくからね、わかったわね。」

「わかった。」

 という感じで、押し切られてしまった。

 姉貴の最終的な指示は絶対だからな。それに、姉貴の指示で間違ったことはないし。

 俺の行きたくないって気持ちを汲んで、8月になってからにしてくれてはいるのだから。


 なんとなく予感があったから、サークルの夏合宿は不参加にしてた。

 勝手に不参加にすると、怒りそうな先輩がいるが、その先輩が不参加なので、怒られることはないはずである。

 ももか先輩はインターンシップともろ重なったみたいで、

「隆太君!私、就職希望先のインターンシップに参加するから、夏合宿行けないの。だから、君も夏合宿は不参加にしなさい!」

 という、わけのわからない命令を、久しぶりにカフェテリアに呼び出されたときに、もらっていたし。

 とりあえず、

「えー、ももか先輩、そんな殺生な。咲ちゃんと有紗ちゃんと3人で先輩の分まで楽しみますから。」

 って心にもないことを言って見たら、

「なにそれなにそれなにそれえ!私だけ仲間外れなのね。どうせあたしは孤高のエンジェルなのよ。ふん!もういい!」

 ってマジ切れしてしまい、宥めるのに大変だった。

 この人、ほんとに大学3年生なのでしょうか。

 実は、中学生か高校生が大学生の被り物してるだけだったりして。いや、最近は小学校高学年の女の子だっておませなこという子もいるみたいだし、幼女だったりして。

 んなわけないか。

 でも、エンジェルって自認してるのもすごいかも。だって自称天使だぜ?しかも孤高って。

 もっとも、そこを突っ込むと収拾つかなくなりそうだから、スルーしましたけどね。

 そして、学内でももか先輩関係の騒ぎとなれば・・・

 そう、岩村咲が嗅ぎつけないわけがない。

「ももかさん!どうなさったのですか?またこいつが何か失礼なことぬかしたのですね!全くもう、あんたはどうしようもない。」

 何も知らないくせに、いきなりやってきて酷くねえか?しかも、「ぬかした」とか、ももか先輩のはしたない口癖をマネしちゃいけないぞ。

 と思ったのだが、ももか先輩は、

「そうなの。隆太君がね、私がいない間に3人で夏合宿を楽しむって羨ましがらせるの。酷いでしょ?」

「え?あんた、夏合宿行かないって、実家に帰るからって言ってなかった?」

 うわそれ、今ここで言っちゃうんですか・・。

「そうだったっけ?」

「りゅうたくん」

 やべー、ももか先輩が無表情で言葉を発してる・・・

「嘘つき。」

「すみません、ももか先輩。もう絶対嘘はつきません!」

 とっさに俺は叫んだ。そんなの無理な気もするが、その時は本当にそう思ったから言えるセリフなんだよ、仕方ないよね?てか、普通だよね?

「ふん。」

 こえー、どんな罰ゲーム喰らうんだろう・・

 でも、ふん、もういい、から、ふん、だけになったし、これは良い兆候か?

「まあ隆太君だものね、いいわ。じゃあ、今日一緒に飲み行こうね。」

 また話の流れ無視の発言キター!

 でも、そんなので許していただけるのでしょうか。

「ありがとうございます。咲ちゃんも行くよね?」

「何で?」

「何でって。」

 咲ちゃんが、何言ってんのこいつって顔をしている。あれ?

「りゅうたくん?」

 再び無表情のももか先輩が言った。

「はい!」

「当然私と二人きりなの!そう、俗にいうところのいわゆるデートなのよ。」

 俗に言うところのいわゆるって、ももか先輩、もしかして照れてます?

 とか指摘すると、とんでもないことになるから言わないけど。

「もちろん、3次会まで行くからね!」

 恐怖の大王じゃなくて恐怖の天使キター、ていうか、それ、社会人だったらパワハラですよ。

「咲ちゃん、ごめんね。夏合宿、楽しんできてね、私の分まで。」

「ももかさんがいらっしゃらないのは寂しいですけど、有紗ちゃんと一緒に、参加して、楽しめるように努力します。」

 なんだよ、俺が寂しい。

 とそこに、

「ももかさん、本当に合宿にいらっしゃらないのですね。寂しいです。」

 いつの間にか俺の横に座ってる有紗ちゃん発見!

 この子は、俺が気が付かないうちに俺の横にいることが多い。

 くのいちの子孫だろうか。

 ていうか、俺がいないのは寂しくないのね、ちょっと寂しいぞ隆太先輩は。

 いや、寂しいとか言ってしまうと、それはそれでヤヴァいことになりそうだから、これでいいんだろう。とりあえず、何も言わずに見守るか。

 ということで、ももか先輩と有紗ちゃんの会話が続く。

「有紗ちゃん、ごめんね。インターンシップと重なっちゃったの。咲ちゃんと楽しんできてね。」

「わかりました。残念ですけど、咲さんと盛り上がってきます。」

 最近、有紗ちゃんは、あまり俺の近くにいなくなった。

 うん、それがいいと思うよ。大学時代に、素敵な恋に巡り合うといいね。

 そんな不思議な感覚に包まれていたあのとき。

 そして、その後、俺はももか先輩に終電までつき合わされた。

「私が誘ったのだから、私がご馳走するの。」

 って言ってたけど、最初のお店は割り勘にしてもらった。

「だって、超仲良しの友達同士ですよ、俺たち。対等の関係ですよ。」

 っていったら、なんかすごく嬉しそうな顔をして、

「ならいいわ。」

 と珍しく素直だった。

 その後の2軒は、

「先輩の顔を立てなさい。」

 ということなので、ごちになりました。

 ももか先輩、結構飲んでたけど、酔ってなかった。

 お酒強いのですね。羨ましいです。じゃああのサークルの飲み会での泥酔は何だったのだろう?と思いかけたが、考えるのは止した。


 ももか先輩と話すのは、実は嫌いじゃない。

 ていうか、むしろ気楽で楽しいといってもいいかもしれない。

 だって、恋愛関係になる可能性がないから。

 ももか先輩に、俺に対しての恋愛感情はない。仮に他の人がそれを聞いたら、何で?って言われてしまうだろう。でも、ないものはない。あったら、確実に俺はわかるから。

 それに、ももか先輩にその気がなければ、俺がその気になることはないし、そもそも、俺は恋愛はまっぴらだ。

 そもそも、恋愛の「好き」とかわかんねえし。


 *


 あの「デート」から、1か月以上たつんだな。

 ももか先輩、毎日インターンシップの会社に行けるだろうか。

 基本は優秀な学生だと思うし、大丈夫なんだろうけど、ちょっと心配してしまう。

 メッセージもメールも来ないけど、逆にそれは元気にやってるよってことだろう。

 俺は長野にいるから、会えないのは当然なんだけど、なぜだろう、ちょっと寂しい気がする。

 そう、長野にいるんだ。家を出るまでは気が重かったけど、新幹線に乗ってしまえば、1時間半でこちらに着いてしまうからな。疲れる間もないくらいだった。

 今年は梅雨明けが早くて、暑い日が続いてたから、こっちは涼しくて快適、と思っていたら、朝晩は過ごしやすいけど、日中は結構暑い。

 いや、盆地だからか、東京より暑いような気がする。


 そして、お盆の週のある日。


「隆ちゃん!久しぶり!」

 玄関を開けると、目の前に、満面の笑みの少女が俺を見つめていた。

 え、誰この可愛い子・・・。

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