10話 黒い龍
「うああああああ!」
飛鳥の叫びは、まるで龍の咆哮だった。瓦礫が震え、空気が歪む。
男は、異様な迫力に薬を探す手を止め振り返った。
「な、なんだよ……、これは!」
男の目に映ったのは、黒い龍だった。
翼を広げ天に吠える人智を超えた存在。
飛鳥の中を熱が満たしていく。血が燃えるように、心が爆ぜるように、想像する。
――強さを。
飛鳥にとっての強さは――マホだ。
マホと飛鳥を繋いだ龍が、想像によって具現化される。
「おいおい、マジかよ……。時を超えてないのに発動しただと?」
レオナが驚愕する。
飛鳥が変化する龍は、本来、『時を超えた者』にしか発現しない筈の『時越想纏』だった。
「まさか、私が介入したからか? でも、その歪みで発動なんて聞いたこともねぇぞ!?」
どれだけ思いが強いんだ。
龍となった飛鳥を見上げる。
漆黒の鱗。
全身を走る紫の脈動。
全てを砕く破壊の牙。
龍の瞳が見据えるのは倒すべき敵ただ一人。
「ふ、ふざけんな!」
男は怯えを誤魔化すように飛び掛かる。
龍になろうが同じ『時越想纏』であることに変わりはない。
家をも崩す拳を、龍の顔面に放つ。
確かな感触。
しかし――、
「があ!!」
殴ったはずの男の拳から血が噴き出した。龍の鱗に覆われた身体は、鋼よりも固く鋭い。
「な、なんだよ、こいつ!」
殴ったはずなのに、その場から一歩も動いていない。それどころか自身が負傷した。
こんな化物に勝てるわけがない。
男は逃げるために、膝を深く沈めて跳躍した。
空こそ龍が支配する領域だとも知らずに。
「え?」
翼をはためかせ空を舞う飛鳥は、いとも容易く追い付くと、空中で身を捻り尻尾を叩きつけた。
誰よりも高く飛んでいた筈の男は、成す術もなく地に落ちる。
「た、助けてくれ……」
衝撃によって『時越想纏』が解除されたのだろう。
小さな男が倒れていた。
男の言葉は龍である飛鳥には届いていなかった。
飛鳥は龍に変化した顔を近づけて口を開く。熱い吐息が男の顔にある産毛を焦がした。
「あ、あ……」
喰われる。
男は恐怖に筋肉が弛緩し、涎が垂れて涙が溢れる。
完全に戦意はない。
しかし、龍は口を閉じる気配はなかった。
「まさか……暴走してんのか!?」
飛鳥は、力を扱いきれずに想いに振り回されている。レオナは止めに入ろうとするが砕かれた足では、素早くは動けない。
「くそっ!!」
間に合わない。
飛鳥の牙が男の頬に届いた時――、
「しまった!! イベントクエストの続きしなければ!!」
飛鳥の背後。
倒れていたマホが目を覚ました。飛鳥の龍の姿はゲーム内の
――パリン。
マホの声が飛鳥の力をガラスのように砕いた。飛鳥の身体を包んでいた力が霧散し『時越想纏』が解除されていく。
龍の姿は消えた。死の恐怖から解放された男は安堵のあまり意識を失って倒れた。
飛鳥は倒すべき相手など、もう、どうでも良かった。
一緒に遊んでいたマホが戻ってきたのだから。
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