第15話 応えたもの

 崩壊した残骸のあった場所は、

 朝になっても静まり返っていた。


 魔力は消えていない。

 むしろ――沈殿している。


「……消滅じゃない」


 モモが、慎重に魔力探査を続けながら言う。


「形を失っただけ。

 溶けて、土地に戻った感じ」


「最悪のタイプね」


 サーシャが低く答える。


「再構成される可能性がある」


 フェルトは、渓谷の壁に手を当てていた。


 冷たい岩肌。

 だが、その奥で――微かに、脈打つ感触。


「……動いてる」


「何が?」


「山、です」


 二人が同時に彼を見る。


「冗談言ってる場合じゃ――」


「冗談じゃありません」


 フェルトは、ゆっくりと手を離す。


「魔力じゃない。

 術式でもない」


 言葉を選びながら、続ける。


「……“名残”が、反応してる」


 サーシャの背筋が、ぞくりと震えた。


「昨日の……天魔決戦の?」


 フェルトは、頷く。


「正確には、

 呼応です」


「何に?」


 フェルトは、少しだけ黙った。


 そして。


「――僕に」


 風が、吹いた。


 渓谷の奥から、

 低く、長い音。


 まるで――

 巨大な生き物が、寝返りを打ったかのような。


「……今の、何?」


 モモの声が、かすれる。


 答えは、すぐに来た。


 地面に、細かな亀裂が走る。


「全員、離れて!」


 サーシャが叫ぶ。


 次の瞬間、

 岩壁の一部が崩れ落ちた。


 だが――狙いは三人ではない。


 崩れた岩の下から、

 古い魔術痕が露出した。


 円環。

 幾何学。

 そして、斬撃の走った跡。


「……これ」


 サーシャが、息を呑む。


「記録に残ってる陣式と一致する」


 喉を鳴らし、言葉を続ける。


「第七階位魔術の……補助構造」


 つまり。


「この山は――」


「戦場だった」


 フェルトが、静かに言った。


「しかも、

 まだ終わっていない戦場です」


 モモが、思わず笑ってしまう。


「……冗談じゃないよ」


 その時。


 渓谷の最奥。


 誰もいないはずの場所で――

 **魔力とは別の“視線”**が、確かに生まれた。


 見るでも、狙うでもない。


 ただ、

 “確認する”ための視線。


「……サーシャ」


 フェルトが、低く言う。


「はい」


「この依頼」


 一拍置いて。


「たぶん、

 まだ始まってすらいません」


 沈黙。


 そして、山が――

 再び、低く唸った。


 それは、

 かつて世界を裂いた力が、

 “続きを求めている”音だった。

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