第14話 残骸は、答えを持たない
夜明け前。
渓谷の底で、異変が起きた。
地面を伝っていた赤黒い魔力が、
ゆっくりと――逆流し始めたのだ。
「……おかしい」
最初に気づいたのは、モモだった。
「魔力が、集まってる。
自然発生じゃないよ、これ」
サーシャは即座に立ち上がる。
「集合体……?
でも核がない」
普通の魔物なら、必ず“核”がある。
魔力が向かう中心。
だが、渓谷にはそれが存在しない。
「じゃあ、なんで――」
言いかけた瞬間。
渓谷の中央、
割れた大地そのものが――歪んだ。
音はない。
ただ、現実がずれる感覚。
「……来る!」
サーシャが叫ぶ。
次の瞬間、
地面から“それ”が立ち上がった。
人型。
だが、輪郭が曖昧。
岩と影と魔力が、
無理やり形を取っている。
「魔物……じゃない」
サーシャの声が震える。
「召喚体でもない。
使役の痕跡もない」
それは、ゆっくりと首を動かした。
――否、首に見える“概念”が、揺れた。
視線が、
三人を順に“なぞる”。
「……っ」
モモが、息を呑む。
威圧でも殺気でもない。
ただ、
圧倒的な格の違い。
「第三階位……じゃ、ない」
サーシャが歯を食いしばる。
「第四?
……いいえ、違う」
数値化できない。
比較できない。
それは――
「……残骸」
フェルトが、静かに言った。
二人が、彼を見る。
「魔術の、残骸です」
フェルトは、一歩前に出る。
「誰かが使った。
あまりに強すぎて、
土地に定着した」
人型の“それ”が、
ぎこちなく腕を上げた。
魔力が、収束する。
「来るわよ!」
サーシャが詠唱に入る。
だが――
魔術は、発動しなかった。
「……え?」
術式は完成している。
魔力も足りている。
なのに、
世界が受け付けない。
次の瞬間。
残骸が放った魔力が、
空間を歪めながら迫る。
フェルトは、前に出た。
詠唱はない。
構築もない。
ただ――
「拒否」
その一言。
魔力が、ほどけた。
爆発もしない。
相殺でもない。
最初から、
「存在しなかった」かのように。
「……ありえない」
サーシャの声が、掠れる。
残骸が、
初めて動きを止めた。
そして。
フェルトを――
見た。
明確な意思を持って。
「……認識、された?」
モモが呟く。
残骸は、
ゆっくりと膝をついた。
攻撃の構えではない。
崩壊。
限界だった。
次の瞬間、
人型は、音もなく崩れ落ちた。
残ったのは、
地面に刻まれた――古い魔術痕。
サーシャは、震える手でそれを見下ろす。
「……これ」
声が、低くなる。
「記録で見たことがある」
フェルトは、黙って待つ。
「天魔決戦」
その言葉に、空気が凍った。
「最強の魔術師が、
“世界そのもの”を相手にした戦い」
サーシャは、渓谷を見渡す。
「……アイリス」
名を口にした瞬間、
風が、吹いた。
山が、
低く唸る。
まるで、
その名に――反応したかのように。
モモが、喉を鳴らす。
「じゃあ、さっきのって……」
「ええ」
サーシャは、ゆっくり頷いた。
「
フェルトは、渓谷の奥を見る。
まだ、終わっていない。
この山には、
“彼女”の痕跡が、
想像以上に深く残っている。
そして。
それに、
自分は――干渉できてしまう。
フェルトは、無意識に拳を握った。
この先にあるものが、
ただの依頼で済まないことを。
誰よりも、
彼自身が理解し始めていた
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