第11話 理解できないもの
放課後の魔術院は、昼より静かだった。
講義室を出ると、長い廊下に夕陽が差し込んでいる。
フェルトは、いつも通り一人で歩いていた。
「……待ちなさい」
背後から、鋭い声。
振り返るまでもない。
金髪、気の強い視線。
サーシャだった。
「噂、聞いたわ」
距離を詰めながら、言う。
「旧街道。第三階位相当の魔物。単独討伐」
フェルトは一度、言葉を探した。
「……事実です」
それだけ。
「は?」
サーシャの眉が跳ね上がる。
「事実?
あんた、自分が何言ってるか分かってる?」
周囲には、誰もいない。
この時間帯を、彼女は選んでいた。
「評価水晶は“不能”
実技は最低
理論も平均以下」
一つ一つ、突きつけるように言う。
「それで、第三階位?」
フェルトは、視線を逸らさない。
「外でしたから」
「……外?」
「はい」
それ以上、続かない。
沈黙が、廊下に落ちる。
「ふざけてるの?」
サーシャの声が、少し低くなる。
「ここは帝都よ。
魔術は、積み上げて、証明して、評価される」
拳が、震えていた。
「私は、それを信じてきた」
フェルトは、口を開く。
「否定するつもりは、ありません」
「じゃあ何?」
「……違っただけです」
サーシャは言葉を失った。
違う?
努力でも、才能でもなく?
「理解できない」
絞り出すように言う。
「あなたのやり方も、結果も」
しばらくして、フェルトは頷いた。
「それで、いいと思います」
「……っ」
怒りか、悔しさか。
サーシャは、歯を食いしばる。
「でも」
フェルトは続けた。
「理解できないからといって、
嘘ではありません」
それは、責める言葉じゃなかった。
ただの、事実だった。
サーシャは、何も言えなくなる。
廊下に、風が通る。
「……あんた」
小さく呟く。
「ずるいわ」
「?」
「説明しないくせに、
否定もしない」
フェルトは答えなかった。
彼には、説明できる言葉がない。
サーシャは、視線を伏せる。
怒鳴ることも、笑うこともできない。
「……いい」
背を向ける。
「でも、覚えておきなさい」
一歩、歩き出してから、振り返る。
「私は、見てる」
それだけ言って、去っていった。
⸻
その夜。
サーシャは、寮の部屋で一人、窓を開けていた。
(理解できない)
でも、否定もできない。
評価不能のまま、
第三階位を倒す存在。
(もし、本物なら)
それは、
帝都魔術院の“正しさ”そのものを揺らす。
サーシャは、無意識に呟いていた。
「……次は、私が確かめる」
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