第10話 評価は、音を立てずに動く
魔術師ギルドの受付は、昼時でも騒がしさが残っていた。
鎧姿の冒険者。
傷だらけの魔術師。
報酬の話で声を荒げる者もいる。
フェルトは、その中に混じって立っていた。
「旧街道の調査、ですね」
カウンター越しに、あの女性が言う。
相変わらず、穏やかな笑顔。
「報告をどうぞ」
フェルトは、事実だけを簡潔に話した。
魔物の種類。
遭遇地点。
戦闘の経過。
「……第三階位相当の魔物を、単独で?」
女性は、羽根ペンを止めた。
ほんの一瞬。
だが、その場にいた数人の冒険者が、同時に顔を上げた。
「おい、今の聞いたか?」
「学院生だろ?」
「補助なしで?」
ざわめきは、すぐに抑えられる。
誰も大声では言わない。
帝都では、
“異物”を過剰に騒ぎ立てるのは、賢いやり方じゃない。
「……確認しますね」
女性は、奥の水晶に視線を向ける。
魔力記録が、淡く光る。
「確かに、討伐は成立しています」
事務的な声。
「報酬はこちらです」
小さな袋が、カウンターに置かれた。
中身は多くない。
「以上ですか?」
「はい」
それで終わりだった。
フェルトは袋を受け取り、
軽く頭を下げて背を向ける。
背中に、視線が集まっていることに、
彼は気づかなかった。
⸻
フェルトが出て行ったあと。
受付の前には、微妙な沈黙が残った。
「……あの子、ランクは?」
誰かが、低く尋ねる。
「学院生です」
女性は、笑顔のまま答える。
「登録上は、初級以下」
一瞬、空気が凍った。
「冗談だろ」
「初級で第三階位を?」
女性は、何も言わない。
ただ、記録を一枚、奥へ送る。
そこには、新しい印が増えていた。
――評価更新。
⸻
同じ頃。
帝都魔術院の講義室。
サーシャは、窓際の席で腕を組んでいた。
「……単独で、討伐?」
誰に聞いたわけでもない。
噂は、勝手に流れてくる。
「ばかばかしい」
そう呟きながらも、
ペンを持つ指が、止まっていた。
(もし、本当なら)
昨日までの“評価不能”は、
何だったのか。
サーシャは、机の上の魔術書を睨む。
答えは、書いていなかった。
⸻
夕方。
ギルドの奥、
人の入らない通路で。
誰かが、報告書を受け取る。
「……ふむ」
声は、低く。
「外では、成立する。
内では、拒まれる」
紙が、静かに畳まれる。
「面白い」
それだけが、残った。
⸻
その夜。
寮の部屋で、
フェルトは報酬袋を机に置いていた。
多くはない。
だが、確かに――自分で得たものだ。
(……また、行こう)
学院の中では、まだ何も変わらない。
評価も、立場も。
それでも。
檻の外では、
確実に、何かが動き始めている。
フェルトは、静かに息を吸った。
次に外へ出る時、
何が起こるのか。
まだ、誰も知らない
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