ビジネスパートナーだった最強勇者(銀髪美少女)と、日本で同居することになりまして。 〜「お前とは合わない」と言っていたのに、現代で無自覚に距離が近づき、気づけば世界を救う「夫婦」になっていた件〜
第3章 無職の二人と、世知辛い資本主義(リアル)
第3章 無職の二人と、世知辛い資本主義(リアル)
翌朝。
俺の目を覚まさせたのは、小鳥のさえずりでも、爽やかな朝日でもなく、強烈な殺気だった。
「――ッ!?」
俺はバネ仕掛けのように跳ね起き、枕の下に隠していたナイフ(護身用)を構えた。
異世界訛りが抜けてないようだ。
心拍数が跳ね上がる。敵襲か。
だが、視界に入ったのはモンスターではなく、ベッドの上で正座をし、俺をジッと凝視している銀髪の美少女だった。
「……おい。朝っぱらから人の寝顔に殺気を飛ばすな」
「む、起きたか。すまん、
セレスは悪びれもせず、Tシャツの襟元をパタパタと仰いだ。
ブカブカのTシャツから覗く白い太ももが眩しいが、今の彼女の顔は真剣そのものだ。
「トウヤの呼吸が深すぎて、死んでいるのかと思った。この世界には『睡眠死』させる呪いがあるかもしれんからな」
「ねえよそんな呪い。ただの熟睡だ。……あー、体が痛え」
俺は首をコキコキと鳴らしながら時計を見た。
午前十時。
異世界の戦場では、夜明け前に起きて行軍するのが常だったから、こんな時間の起床は三年ぶりだ。
俺は大きく伸びをして、平和を噛み締めようとした。
しかし。
現実は、そんな感傷を許してはくれなかった。
「トウヤ。報告がある」
「なんだ」
「腹が減った」
「…………」
俺は無言で立ち上がり、部屋の隅にある冷蔵庫を開けた。
空っぽだ。
あるのは飲みかけの麦茶と、賞味期限が怪しい納豆のパックだけ。
俺はそのまま視線をずらし、テーブルの上に放置していた財布を手に取った。
中身を確認する。
千円札が三枚と、小銭が少々。
「……詰んだな」
俺は乾いた笑いを漏らした。
俺の全財産、三千四百八十円。
これで、大食らいの元勇者と二人、次の給料日(未定)まで生き延びなければならない。
無理だ。物理的に不可能だ。魔王を倒すより難易度が高い。
「おい、トウヤ。どうした? 顔色が青いぞ。毒でも食らったか?」
「毒の方がマシだ……。『金欠』っていう状態異常だよ」
俺は財布の中身をテーブルにぶちまけた。
ジャラジャラ、と虚しい音が響く。
「いいかセレス、よく聞け。ここは日本だ。水魔法で飲み水を出すことも、森で猪を狩って食べることもできない。全てのインフラと食料には『対価』が必要だ」
「ほう。等価交換の原則か。錬金術の基本だな」
「まあそんなもんだ。で、現状の俺たちの兵糧(資金)はこれだけだ」
「……少なくないか?」
セレスが硬貨をつまみ上げる。
「金貨はないのか? この銅貨と銀色のコインだけで、何日保つ?」
「節約して、二日だ」
「二日!? 餓死するぞ!」
セレスが驚愕に目を見開いた。
当然の反応だ。
世界最強の勇者パーティが、帰還した翌日に東京の片隅で餓死。そんなニュースが流れたら、異世界の神様も腹を抱えて笑うだろう。
「だから、稼がなきゃならない。大至急な」
「稼ぐ? どうやってだ。傭兵ギルドで依頼を受けるのか?」
「日本に傭兵ギルドなんてねえよ。あるのはハローワークとバイト求人誌だけだ」
俺はスマホを取り出し、求人アプリを開いた。
しかし、すぐに絶望的な事実に気づく。
俺は三年間行方不明扱いだった男。セレスに至っては戸籍すらない不審者だ。
まともな職に就けるわけがない。
(……いや、待てよ)
俺はふと、昨日の夜に見たニュースを思い出した。
俺たちがいない間に、日本でも「ダンジョン」が発生し、それを管理する「探索者協会」なる組織ができているらしい、と。
「……セレス。お前、まだ戦えるか?」
「愚問だな」
セレスは不敵に笑い、部屋の隅に立て掛けてあった折れた聖剣を手に取った。
カシャン、と空気が変わる。
「剣は折れているが、なまくらではない。それに、私の身体能力(ステータス)はこの世界でも維持されているようだ。ゴブリンの群れ程度なら、素手で殲滅できる」
「殲滅しなくていい。……よし、決めた」
俺は立ち上がった。
「ダンジョンに行くぞ」
「ほう! ようやく本業か! どこの魔王を討てばいい?」
「魔王じゃねえよ。素材集め(ドロップハント)だ。今の俺たちが即金を作るには、魔石を換金するしかねえ」
背に腹は代えられない。
平穏な日常を望んでいた俺が、帰還翌日に自分からダンジョンに潜ることになるとは。
だが、家賃と食費のためだ。
この世界で生きるための戦争(ビジネス)を始めるしかない。
「よし、出撃準備だ。五分で支度しろ」
「了解した。……ところでトウヤ」
「なんだ」
「この世界の戦装束は、このペラペラの布(Tシャツ)でいいのか?」
セレスが自分の恰好を指差した。
黒のTシャツに、ジャージの半ズボン。
その姿で聖剣を構えているのは、どう見ても近所のコンビニに行くヤンキー少女だ。
「……だめだ。目立ちすぎる」
「だろうな。防御力も心許ない」
「防御力の問題じゃねえよ! 職質のターゲットになるって言ってんだ!」
俺はタンスを漁り、数少ない俺の私服の中から、一番露出の少ないグレーのパーカーと、黒のカーゴパンツを引っ張り出した。
「これを着ろ。サイズはデカいが、ダボッと着れば誤魔化せる」
「ほう……」
セレスはパーカーを受け取ると、袖を通し、フードを深く被った。
銀髪が隠れ、顔半分が影に覆われる。
……なんか、一気に「怪しい暗殺者」みたいになったな。
「どうだトウヤ。隠蔽率は上がったか?」
「ああ、完璧だ。不審者レベルがSランクに上がったけどな」
「褒めるな」
「褒めてねえよ」
俺たちは身支度を整え、玄関に向かった。
セレスは折れた聖剣を新聞紙でグルグル巻きにして背負っている。
俺は腰にナイフを隠し持ち、スマホと財布を持った。
ガチャリ。
ドアを開けると、まばゆい太陽の光が差し込んできた。
平和な日本の、日曜日の朝。
親子連れが笑いながら通りを歩き、洗濯物の匂いが風に乗って漂ってくる。
「……眩しいな」
「ああ。平和すぎて目が腐りそうだ」
俺とセレスは同時に目を細めた。
この平和な景色の中で、俺たちだけが「異物」だ。
戦うことでしか生きられない、不器用な二人の迷子。
「行くぞ、相棒。稼ぎ時だ」
「ああ。私の背中は預けたぞ、トウヤ」
俺たちはアスファルトを踏みしめ、
目指すは、駅前にあるという『東京ダンジョン管理支部』。
まずはそこで、俺たちの実力を(穏便に)証明し、日銭を稼ぐ。
……はずだった。
この時の俺はまだ知らなかったのだ。
世間知らずの勇者を連れて公的機関に行くことが、ダンジョンのボス戦よりも遥かに危険なミッションだということを。
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